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白の闘諍  作者: 死者モ
肆_(名称未設定)
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肆-6 f0908d_与奪

 老人は、ここまでで1番低い声で脅してみせる。ボクは、ひゅっ、と小さく息を飲む。


「キミが、Aクラスにとってどうでもいい小間使いだとすると、司令部は真っ先にキミを奪い取り、実験台にするだろう。」


 そういえば、そんな話を聞いた気がする。


「だから、キミをAクラスに、ルキの傍になくてはならない存在にするんだ。」


 ボクの体質について、検査結果が分かった時に、ルキがボクを守ると言っていたが、半年以上経ってようやくその意味を理解した。否、その言葉の真意を知ったと言う方が近いだろう。


「ミズチくん。」

「はい。」

「ルキはね、ただ我儘を言っているんじゃないんだ。」

「…それは、ボクがその我儘を聞けば、ルキにとって必要な存在という地位、すなわち安全な地位を得られるから、ですね?」

「ふむ、キミ、物分りがいいね。」


 宝さんは感心した表情で、顎に手を当て、少し目を見開く。


「そして、サトイくんも同じ。」


 ここでサトイさんの名前を聞いて、元々この話はサトイさんについての話だったし、大事なところで話が終わっていたのを思い出した。


「サトイくんに対しても、ルキは同じ意味で我儘を言っているんだよ。」

「なるほど。」

「それと、サトイくんの左手はルキが形を保ってるんだ。」

「形を…?それはどういう…?」

「あの時、儂はサトイくんの左腕を切り落とそうとしたんだ。そうすれば侵食が止まる可能性が高いからね。」


 さらっととんでもない発言だが、状況からすると尤もな対処方法だろう。


「だが、ルキは抗体をサトイくんの左腕に忍ばせ、コンタギオンの動きを止めたんだ。そしてそれは今でもずっと、止め続けている。」

「えっ、抗体があるなら、そのコンタギオンを体内でやっつけてしまえばいいんじゃないですか?」

「まぁ、普通はそう考えるな。しかし、サトイくんの左腕は既に侵食が始まっていて、肉の一部はコンタギオンと化しているんだ。だから、ルキは抗体でコンタギオンを『従わせている』んだよ。」

「むしろ、コンタギオンを無毒化すると、左腕ごと失うんですね。」

「そういうことだね。」

「……。」

「だから、サトイくんはルキに見捨てられると、左腕は確実に、場合によっては命も危ないってことさ。」

「……。」


 とてもじゃないが、返す言葉が思いつかず、黙ってしまった。


「ま、ミズチくん、この話を抜きにしても、キミは相当、ルキに気に入られているようだ。ね、そうだろ?」

「なんの話をしてんのよ…。」


 ボクは背後から声がしたのにびっくりして振り返る。部屋の入口のドアが開けられており、ルキが履いていたサンダルを脱ぎ捨て、部屋に入って来るところだった。


「余計な話しないでって言っておくべきだったわ、ほんと。」

「ジジイのお節介をお許しくださいな、お姫様。」

「はん、呆れた。じゃあお節介ついでにお茶ちょうだい。」

「はいはい。」


 ルキはどかん、とボクの隣に座り、注いでもらったお茶を一気に飲み干す。


「…っぷはっ。ご馳走様。」

「お粗末さまでした。荷物、全部積めたのかい。」

「だからここに来たのよ。」

「そうかい。降ろす時も気をつけてね。」

「分かってるわよ〜。」


 宝さんはルキのわがまま節を華麗に去なし、立ち去ろうとする我々をいつも通り見送ってくれた。


 ボクは帰路や荷物を降ろす作業の時間で、宝さんから聞いた話をルキに説明した。3分の2程説明した辺りから、ルキは徐々に顔をしかめていった。


「ふっ、全部耄碌ジジイの妄想ね。アンタはちょ〜っと他より役に立つからこき使ってるだけよ!」


 そう言って荷物を降ろした車のドアをばん、と強く閉め、居室へ向かってずんずんと歩き出すが、後ろから見ても分かるくらいルキの耳は真っ赤に染まっていた。


 ボクは後ろからついて歩いていたが、急にルキが振り返るので驚いた。


「…っくりした〜、な、なんだよ。」

「あとね、ちーちゃんがワタシたちに甘いのは、死んだ弟と妹を重ねてるのよ。」

「えっ、サトイさん、弟と妹がいたのか?」

「あら、その辺は聞かなかったのね。男女の双子が下にいたのよ。3つ下に。」

「そうなのか…。」

「そ。ちょうどワタシたちと同い年。」

「そうか…。ちょうど…。えっ?待て、そしたらサトイさんは…えっ?19、20、えっ、22歳…ってことか!?」

「いや、早生まれだから誕生日まだよ。21。」

「はぁ!?21であの仕事量をこなして、あの落ち着きを持ってるのか!?」

「うん。」

「うそだろ、すごいなほんと。今日一の衝撃だ。どっかのお嬢さんも見習って欲しいよ。」

「なんですって?タカさんの話聞いてなかったの?アンタね、ワタシに嫌われたら終わりなのよ?」

「ジジイの妄想じゃなかったのか。」


 ルキは、しまった、という顔をして、足早に居室へ入り、乱暴に荷物を投げ捨てる。結局その日はルキが怒ってしまったのでボクがご飯を作り、就寝となった。ボクはベッドの上で、宝さんの話を復習しながら眠りについた。


 翌朝にはルキの機嫌は元に戻っており、ボクが身支度を終えてリビングへ出ると、朝食が用意されていた。ルキは食パンが1枚とコーンスープ。ボクの皿には食パンが2枚。スープの器には熱湯が入っており、器を温めてある。


「おはよう。」

「あら、おはよ。ジャム、冷蔵庫ね。」

「ん、ありがと。」


 ボクたちは食パンに各々好みのものを塗りたくり、胃に収める。


「ミズチ。」

「あん?」

「アンタ、昨日の話、間違ってもちーちゃんにしたらダメよ。」

「…だろうね。」

「そ、タカさんの言う通り、アンタの扱いについてはワタシとちーちゃんで考えが違うわ。」

「うん。」

「もちろん、ちーちゃんの言うことも一理あるし、ワタシが知らないことでちーちゃんが知ってることもある。でもねミズチ、ちーちゃんはあくまでワタシの補佐、圧倒的にワタシの方が権限、情報量、実力がある。」

「……うん。」


 そこからは、ルキは言葉に出すことはしなかった。


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