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白の闘諍  作者: 死者モ
肆_(名称未設定)
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肆-4 fffff9_召使

「だから、ちーちゃんはこの先数日帰ってきませんってば。」

「は?」

「は??だからぁ…」

「いや、えっ……?………えっ?」


 美少女攻撃を凌ぐ爆弾発言が投下された。このわがままガールとしばらく2人きりだという事実を目の前に、憂鬱の2文字が連想される。たしかに先日プレハブ小屋で2人で寝泊まりしたが、あの時は諸々が限界の状態だったし、ルキもわがままを言うモードではなかった。


 今直ぐになにか危機的な状況が差し迫っている訳でもないこの状態は非常にまずい。この部屋でのルキは本当にわがまま女王様なのだ。げんなりするボクをよそ目に、ルキは晩ご飯の準備をするようだ。


「今日、パスタでいいわね?」

「あ、あぁ、いいよ。ありがと。」


 返事だけを返して、ボクは自室でしばらく荷解きと軽い掃除をしていたが、程なくして飯が出来たと呼ぶルキに応答する。


「いただきまぁす。」


 ボクがリビングに出たときにはすでにルキは1掬い目を口に運んでいる所だった。ルキの皿の横には、同じ量のパスタが盛られた、ボク用と思われる皿が置かれている。


「準備ありがと。いただきます。」

「どうぞ~。あ、ミズチ、さっきも言ったけど、ちーちゃんしばらく帰ってこないから、掃除と洗濯、よろしくね~。」

「はぁ、わかったよ。」


 ついさっきそこそこの量の栗を食い散らかした割によく食べる。その後はまるで召使のように、やれ風呂を洗え、やれ洗濯をしろ、やれこの書類を片付けろ、やれここを拭けと指示され、こき使われることになった。


 翌日からはリハビリ生活も戻ってきたので、二重苦となる。朝から部屋の掃除をし、午前中のリハビリをする。かなり動けるようになってきたので、走るメニューを含んだリハビリとなっている。もはやリハビリを超えて、普通に体力作りをさせられているような気もする。ルキが昼食を作り始めるまでに朝食の皿などを片付け、午後は通常業務に加えて洗濯やルキの散らかした書類整理をさせられる。


「ほんっと、サトイさんってすごいよな。これをなんなくこなしてるんだもんな。」

「あら、ようやくちーちゃんのすごさが分かったのね。」

「いや、感じてはいたよ。というかなんでルキがドヤ顔するんだよ。」


 ボクは種類別に分けろと指示された書類をリビングのテーブルに置きつつ、既にソファに座って小型の端末を操作するルキの隣に座る。


「だって、ワタシ、ちーちゃんの上司ですもの。部下が褒められたら偉そぶらないと。」

「そういうものなのか…。……というか、サトイさんってそもそもなんでルキの下についてるんだ?」


 ボクは敢えて気を遣わず、聞いてみた。同じ部隊にいる人間として、知っていた方がコミュニケーションが円滑に進むだろうからだ。というのは建前で、今はイレギュラーだが、ほぼ毎日顔を合わせているのに、あまりにサトイさんのことを知らな過ぎたので、そろそろ知りたいと思った欲が大きい。ルキはきょとん、としてボクの方を向きながら、一瞬固まる。


「あ、あぁ、そういえば言ってなかったっけ。すっかり忘れてた。知ってるものだと思ってたわ。」

「忘れたのか?ボク、ド田舎から出て来て、軍の内部情報なんて、1つも知らなかったんだぜ。」

「う~ん、いや、まぁその方が好都合だわ。みんな、あることないこと言うもの。」

「ふーん、そっか。」

「そうよ。ちなみに今はミズチとワタシとちーちゃんが、マシな方だと三角関係、悪い方だと二股って噂ね。」

「は?ねえ〜、それ聞きたくなかったんだけど。」

「だから好都合って言ったじゃない。ちーちゃんとワタシに関してはもっと酷いわよ。」


 いくら軍のトップとはいえ、やはり年頃の若い女だとそのような噂話に巻き込まれるようだ。サトイさんのボディーガードっぷりも相まって、2人が親密な関係であることを容易に想像させる。


「で、その〜。……実際、どうなんだよ…。」

「なにが。」

「え、あの〜、ルキが。その、え〜…と、サ、サトイさんと。」

「は?ちーちゃん?アハハ!ないない!」


 予想外の答えだった。


「え?てっきり、ボク、その、つ、付き合ってる…とか?だと思ってた…。」

「アハッ!なんでそうなるのよ。ワハハ!」


 まるでボクが全くとんちんかんな事を言ったかのように爆笑するが、ボクはそんなにおかしな事を言ったつもりはない。なんとなく軍でもそんな空気は感じるし、なにより就寝時は同じ部屋へ吸い込まれていくのだ。


「え、じゃ、じゃあどういう関係なんだよ。部屋だって、一緒じゃないか。」


 思い切って聞いてみた。ルキは笑いをなんとか落ち着かせながら返答する。


「あ〜、おっかしい。は〜、あのね、なにを考えてるか知らないけど、ちーちゃんすごいショートスリーパーなのよ。」

「ほお。」

「夜は基本的にミズチへの指示出しがないから、司令部の仕事してるのよ。リビングはアンタの生活圏内でもあるから、ワタシの部屋でね。」

「ふむ。」

「で、多分2時から5時くらいまでは、このソファで寝てるはず。」

「2時!?から5時!?…3時間じゃないか!どうやったらそんな生活が…。」

「どうやったらって、そういう体質としか…。」

「…うーん。なるほど…?」


 どうやらサトイさんはボクが想像しているより超人で、ルキの部屋ではただ仕事をしているだけらしい。でも、だとしても解決できない問題がある。


「じゃあ、サトイさんはなぜ、こんなにルキに尽くしてるんだ…?」

「うーん、そもそも、あんなここがどんなクラスか思い出してみなさいよ。」

「えっ?えーと、稀な体質の人間の保護を兼ねた特殊部隊…?」

「あら、答え出たじゃない。」

「あっ、まさか、サトイさんも特殊な体質なのか!」

「そ。」


 てっきり、サトイさんは優秀すぎるが故にルキのおつきの人になっているのかと思っていたが、どうやら『こちら側』の人間らしい。


「ちーちゃんはね、珍しい抗体をエンラージメントできるのよ。ペストとか、生物兵器の炭疽菌とかね。」

「ペスト!?そんなの、日本人なんてそもそも集団免疫すら持ってないじゃないか。」

「そう。だからエンラージメントできる人もかなり限られているわ。」

「そうか、もともと集団免疫がある、すなわち日本で一般的な菌やウイルスに対する抗体の方がエンラージメントしやすいんだな。でも、そもそも日本にほぼ存在していない菌がコンタギオン化するのか?」

「だから生活水準が異なる国からの入国を制限してるのよ。あ、そうそう、そういう、どの国にどんな抗体を持った人がいて、どの国なら入国していいか、みたいなこと考えてるのもちーちゃんよ。ワタシの部屋では、そういう情報収集してるのよ。」

「…ほーん。…なぁ、それボク聞いて大丈夫なやつか?」

「さあね。」

「……。聞かなかったことにしよ。」


 恐らくサトイさんが聞いたらまたルキは怒られるだろう。あの人のことだ、この部屋を遠隔で監視していてもおかしくは無い。一応保身で、聞かなかったことにする、と宣言してみた。


「ま、でも幹部の構成は公表されてるし、ある程度推察できるだろうから大丈夫よ。」

「ほんとだろうな…。」


 ボクはじっとりした視線を送る。やや話が逸れてしまったので、これ以上聞かなくていいことを聞く前に本筋に戻す。


「でも、Aクラスで保護されてることと、ルキに尽くすことは必ずしもイコールじゃなくないか?」

「……うーん、そうねぇ……。流石にこの話は…。」

「あっ、いや、ごめん。踏み込みすぎた。」

「あー、別にワタシはいいんだけどね、まぁちーちゃんにも沽券ってもんがあるじゃない?」

「??」


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