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白の闘諍  作者: 死者モ
肆_(名称未設定)
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肆-2 17184b_御遣

「新しいことをする、ってことですか?」

「いや、そういう訳ではないんだ。」

「…?」


 ボクにとって初めての仕事なのに、新しいことではない、という矛盾に、ボクは困惑を覚える。ルキは興味が無さそうに指の逆剥けをいじくっている。


「主にやる事としては、またLnodeⅥに行って回収係に合流してもらうだけなんだ。」

「…はぁ、それはどういった目的があるんですか?」

「回収係をしつつ、置いてきて欲しいものがあるんだ。」

「なるほど。」

「で、置いてきて欲しいものっていうのが…」


 サトイさんが手元の端末を操作してボクに写真を見せる。


「こんな感じの箱なんだ。」


 写真には10cm四方程の黒い箱に、いくつかの穴、というか物を入れる口のようなものが空いている物体が写っていた。箱の上部にひとつと、側面にひとつ。


「これをね、こんな感じの専用ボックスがあるから、ここに収めてきて欲しい。」

「なるほど…。」


 次に見せられた写真は、先程の箱のふた周りほど大きなドア付きのケースだ。上にサイレンつきのランプが乗っかっている。これは監視カメラチェックの仕事で見たことがある。街の至る所に、おおよそ等間隔で設置されており、コンタギオンが発生している時はランプが赤く点灯していたはずだ。


「この黒い箱を、このケースに入れてきたらいいんですね。」

「そう、居住区Ⅵのいくつかのケースにね。細かい場所はまた指示するよ。」

「わかりました。」

「アンタ、これがなんの箱か分かってるでしょうね。」

「い、いや、なんとなくは...。」

「ルキ、アイくんはルキとは違って、気を遣えるんだよ。機密事項なのかなと思ったら、ずけずけ自分から尋ねたりしないんだ。」

「??………聞いてみて機密事項だったら諦めたらいいじゃない。」


 ルキの声色は、『他人の考えとして辛うじて理解はできるけれども、全くもって共感できない』というものであった。


「こないだ見たでしょ。小屋の壁。」

「あぁ、樹状細胞。あ、分かったぞ、DCシステムか。」

「正解。」


 DCシステムは、居住区中に張り巡らされたセンサーのようなもので、コンタギオンを検知し、微弱なものであれば自動で弱毒化してくれるものだ。おそらく、先日見た、移植個体を収容していた小屋の外壁にへばりついていたルキの樹状細胞か、それに似たものがこの箱の中に入っているのだろう。居住区Ⅵではこのシステムが貧弱なので、この箱を増やして強化するということだと推測できる。


「ま、まぁ、なんにせよ、アイくん、しっかり頼むよ。」

「は、はい。そうですね。分かりました。で、今回は誰の同行という形になるんでしょうか?」

「……それがね、落ち着いて聞いてね。」

「は、はい…。」

「今回は、アイくん1人で行ってもらうことになるんだ。」

「えっ。」

「ワタシもちーちゃんも忙しくてね。」

「上からの指示で、我々二人とも別命があってね。すまないが、頑張って欲しいんだ。」

「………えっ…………?」


 初めての仕事というから、DCシステムに関わるところが初めてなのかと思っていたら、もっと根本的な話だった。ボクの脳みそは理解することを拒んでしまい、その後、サトイさんが気を遣って、詳細の伝達は明日以降にしようと提案してくれて、風呂に行くことにした。


 ぼんやりしていたので、うっかり部屋着のズボンを2本持ってきてしまったが、風呂に入る前に気付いたので、引き返すことにした。しかし、洗面所兼脱衣所とリビングを繋ぐドアに手をかけたところで、外からサトイさんとルキの会話が聞こえて来て立ち止まる。


「どうして見せたんだ。必要はなかったんじゃないのか?」


 サトイさんの声は、いつものルキを諫める感じではなく、本気で文句を言っている感じだ。先の移植個体収容所を取り囲む樹状細胞についての話だと思われる。


「必要ならあったわよ。ワタシ達に騙されてたのよアイツ。こちらに敵意がないことを示すには情報の開示が一番でしょう?でも向こうで直接言われたわ。信用してないって。」


 あれは勢いというか、言葉の綾というか。完全に信用している訳ではないが、別に直接信用していないとルキに言ったつもりはない。少々の誤解が含まれているが、ドアを開けて話に入り、訂正する話術はボクにない。


「信用って…。それを言うならこちら側からアイくんへの信用も考えないと。」

「ミズチが信用できないってことね。」

「いや、そういうわけじゃなくて、僕はルキのことを思って…。」

「もう、ちーちゃんいっつもそれなんだから。」


 最終的には、いつものサトイさんの過保護とルキのわがまま節に戻って、声は消えて行った。しかし、ボクはサトイさんからあまり信用されていないかもしれない、という部分が気になってしょうがなかった。


 恐らく、サトイさんはルキがとても大事なのだろう。なにがあったかは分からないし、どういう関係なのかも分からないが、ルキを助けるためなら全世界をも敵に回す勢いだ。ぽっと出のボクという存在は、サトイさんから見てルキに害を与えうる存在だということは理解できる。そうは言っても、信用に足らないと言われたようで、少しショックを受けてしまった。


 結局、シャツを取りに行くのは諦め、ズボンだけ履いて部屋に戻った。部屋に戻るときには、2人とも奥の部屋か、居室とは別の所にいる様子だった。いつもの就寝の挨拶ができなかったが、これまた諦めて1人で部屋に戻り、ベッドの上で目を閉じた。


 数日後、なんとか、ある程度は普通に歩けるようになったところで、LnodeⅥへの移動となった。出発のとき、ルキは忙しいようで、どこかへ出かけていたので、サトイさんが送り出してくれた。


「すまないね、アイくん。じゃ、頼んだよ。」

「はい。土地勘はありますから、任せて下さい。」

「そうだね。僕も君が適任だと思うよ。しかし、心配だな。本当になにかあったら直ぐに連絡するんだよ。」

「大丈夫ですよ。任務中に飛んだりしませんから。」


 言いながら、しまった、と思った。普通、心配していると言えば、単純にボクの身を案ずる話のはずだ。ボクはサトイさんとルキの会話を聞いていない体だった。心配と言われてボクに対する不信、つまり今回に関しては任務を離れることへの心配をされているとは普通は思わないだろう。


「と、とにかく、大丈夫ですよ。向こうの人たちとも上手くやれてますし。」

「そうかい。じゃ、気を付けてね。」

「はい。」


 ボクは無理やり誤魔化して、敷地内の飛行場へと向かった。そこからは案内の係の人が次から次へと引き継がれていき、あれよあれよと言う間にLnodeⅥのG隊用の居室へと案内される。


「おじゃましま~す。」


と小さく呟いて、もう見慣れたドアを開けたが、誰もいなかった。


「出動中か。」


 しばらく待っていると、どたどたという足音が1人分、ぺちぺちという控えめな足音が1人分、規則的にすたすたと歩く音がこれまた1人分聞こえてきた。どたどたという足音の主がドアを開けると、正体が露わになる。


「うぉっ!びっくらこいたぜ、なんだ、ギャングじゃねぇか!」

「待ってたよ。また秘密の仕事らしいね。羨ましいよ。」

「あ、はい。いや、言っても、前回ほどはこそこそしないですよ。」

「俺らも今回は協力できるらしいな。へへっ、回収係でも長年やってりゃいいことあるなぁ。」


 第1小隊のみんなに、箱の中身を明かすことはできないが、箱を設置しに行くということは明かし、協力をしてもらうという手筈になっている。3人とも居室に入り、各自の椅子に腰を下ろす。


「お、お久しぶりです。今日も出動があったんですか?」

「あー、いや、ここ1週間はめったに回収にいかねぇんだ。」

「全然コンタギオンがいなくてね。」

「いやぁ、ギャングが言ってた通りだな!」

「え、ボクなにか言ってましたっけ。」

「そらもう、確信を持った表情で、『しばらくしたら落ち着くでしょう。』って言ってたぜぇ~。俺ぁ、あのセリフにゃ痺れたぜ。」


 隊長は、ボクをやや煽りながらにやっと笑う。


「というわけで、最近は回収に行くんじゃなくて、パトロールに行ってるんだ。」

「なるほど。たしかに、回収していたとしたら、あおちゃんがもっと疲れているはずですね。」

「ははっ、するどいな。」


という具合に談笑しながら、その日は待機となり、1日が終わった。終業のミーティングで、翌日から1日4~5個のペースで、全部で30個ほどを1週間かけて設置していく計画となる旨を確認した。


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