参-25 fde8d0_集合
隊長はそう言ったが、完全に今まで通りということにはならなかった。なぜなら、ここ最近、コンタギオンの出現数が急増していて、出動回数がかなり増えているとのことだからだ。
「昨日は6回も行ったんですか?」
「そうなんだよ、おかげで腰が痛くてね。」
「ここ数日ほんと増えたよなぁ、これが続くとなかなかきついぜ。」
「…まぁ、しばらくしたら落ち着くでしょう。」
しばらくしたら、このコンタギオンを誘き寄せている移植個体がいなくなるからだ。
「うーん、ギャングがそう言うなら間違いなさそうだがなぁ。」
「そうですね、なんだか確証を得ているようだ。」
「い、いやぁ、ただの勘ですよ。」
これ以上は聞いてはいけない、という空気が一瞬流れ、そのまま話は変わっていった。どうやら、先ほどまーくんが言っていたとおり、かなり釘を刺されているらしい。
結局、釘を刺されていようがいまいが、どちらにせよのんびり喋っている暇など無いほどに出動回数が多かったのだが。
「ようし、これで夜勤に引き継ぎだな。」
「今日も結局、3、いや、4回でしたね。」
「まったく、勘弁して欲しいぜ。」
「そうですね。」
「……。」
無言のあおちゃんからも疲労が伝わってくる。大体移動に30分、作業に小一時間かかるのに、2時間おきに呼び出された。
一応、LnodeⅠに戻ってから筋トレを始めてみたのだが、それでもかなり疲れる運動量だった。昨日はこれにプラス2回も出動したのだから、3人にとってはかなりの激務だろう。
「じゃあ、風呂に行ってきます。」
「お、俺も…いでで…。腰が…。」
皆、疲労困憊の中、翌日も似たような仕事をこなした。
「はぁ、今日もお疲れさまでした。」
「おう、お疲れ。」
「お疲れさま。ところで、明日は何時に離脱するんだっけ。」
「ええと、14時にはB棟にいる必要があるので…。」
「ふむ、じゃあ、12時以降は出動要請があっても、待機することになるな。」
「そうですね、すみません。ありがとうございます。」
この会話をしている頃にはあおちゃんは既に寝ていたが、ボクを含めた3人もすぐに眠りについた。
眠る前に目を閉じながら、ボクの故郷にもコンタギオンによる暗い影響が押し寄せていることに思いを馳せた。
ここにいる人たちにも、しわ寄せが来ている。研究部のせいで。
解体されたものの、その黒幕は分からないが故、矛先のない怒りをどこにぶつけようか。
ただ、抗体の無いボクにはルキをサポートすることくらいしかできない。無力感と使命感を胸に、眠りについた。
翌日、朝に1度出動があり、その後は比較的穏やかな時間が流れた。
「時間だ。そろそろ行きますね。」
「なんだ、もうそんな時間か。もうちょっといてくれてもいいんだぜ。」
「はは、ボクもできればそうしたいです。」
ボクは荷物をまとめ、居室を後にした。今回はきちんと出立の挨拶をして。
指定された時間に、ルキを見送った建物に到着したのだが、そこから進めなくなってしまった。というのも、建物入口のドアが開かないのだ。
ここで初めて気がついたのだが、このLnodeⅥの基地地図を思い出すと、この建物はどうやら本部が入っている建物だった。どおりで一介の回収係には開けられないはずだ。とりあえず、ルキに連絡を、と思ったその矢先、背後からわがまま女王のような、聞き覚えのある声と足音が聞こえてくる。
「じゃ、一昨日説明した通り、6階はAクラス以外の立ち入りを制限してちょうだい。」
「はっ、かしこまりました。」
「それと食事の件だけど…」
30代くらいの短髪でガタイのいい隊員に、なにやら細かく、やいのやいのと注文をつけている。今日はこの前のゴマすりおじさんは不在のようだ。
「あら、早かったのね。」
「r…は、はい…。」
「ルキが遅いんだろ」と言いそうになったが、さすがに世間体を考えると、まずい気がして辛うじて方針を転換した。だが、この短髪の隊員が不審に思うには十分だった。
よく考えれば、軍の上から2番目の人物に敬礼もなし、お辞儀も会釈もせず、さも友達と待ち合わせをしていたかのように合流するなんて、不審すぎる。しかも回収係の制服を来ているやつが。
しかし、その隊員がボクについて考える暇もなく、ルキがさまざまな注文をつける。メシはどうしろだの、LnodeⅠからの連絡はどうだの、かなり細かい。それにしても、この人は一切メモも取らずに聞いているが、本当に覚えられているのだろうか。
「じゃ、そういうわけで。ご苦労様。」
「はっ、失礼します。」
ルキが一方的に注文をつけて、解散となった。ちらりとこちらを見て、持っていたクラッチバッグをボクになげて寄越す。クラッチバッグにしては重く、中でなにかがガシャ、と音を立てる。
「行くわよ。」
電子ロックをルキが解除し、それに続く。しまった、またルキの発言に対して返事をしそびれた、と思ったので、ボクはもう先ほどの隊員を見ないように建物に入った。
ただ、ロビーにエレベーターがあり、普通に乗ろうとすると、先ほど通ったドアの方に向くことになってしまう。なるべく下を向いていたが、ちらり、と視線をやると、隊員は惚れ惚れするくらいきれいな敬礼でルキを見送っていた。
「ごめん、ボク、だいぶ怪しい人物になってるよな。」
「そう?別にあの人は特に警戒しなくても大丈夫でしょ。弱そうだし。」
「どの辺が弱そうなんだよ…。」
「見たとこ、G適、可ってとこね。」
「見ただけで分かるのか…。」
地味にルキのバケモノみたいな能力の中でも初めて知る。
「で?『それ』はいつまで保つんだ?」
「なによ?」
エレベーターが目的地に到着する。ポン、と鳴り、ドアが開く。
「なにって、今全身激痛だろ。」
実は今日登場したときから、左手の親指の爪を人差し指に突き立ててギリギリと手を握っていたのだ。全身に暴走反応が出ていて、相当痛いはずだ。その痛みを逃がしているのだろう。
「はぁ、さすがに半年も一緒にいれば、ばれるわね。」
「まぁ、もともと『それ』を治すためについてきてるからな。」
「……そうね…。」
そう言いながら、初日にルキが泊まっていた部屋のドアを開ける。
「ひとまず、入って。」
「…わかった。」
この辺りの部屋はホテルの一室のようになっており、ルキの部屋に入ると、玄関のようなスペースに、自走式のスーツケースが置いてあった。そのスーツケースでかなり通路は狭かったが、ルキはそこをむりやり通ろうとした。
普通であれば、壁かスーツケースに体を接触させながら通れるだろう。ただ、今このボクの前を行く人間は全身が激痛に見舞われているのである。案の定、スーツケースとの接触で悶絶している。
「……い゛っ゛……!!!」
「おっと…あぶn…あ゛っ゛つ゛!!!!」
咄嗟にルキの体を支えようと、ボクに近かった左上腕を掴むと、全身が震えるほどの熱さを感じ、手を離してしまった。否、ボクの沽券のために言っておくが、自ら離したのではなく、熱いものを触った時の反射で手が離れてしまったのだ。
支えを失ったルキの体はぐしゃりと潰れ、通路にぐったりと倒れる。
「おいルキ?大丈夫か?もしもし?」
顔面は蒼白。浅い呼吸。
「これ、迷走神経反射だ。」




