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白の闘諍  作者: 死者モ
参_浄化
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参-21 da536e_支度

 それから数日、同じような日が繰り返された。ある日、大きなコンタギオンもなく、平和な一日があったので、サトイさんもじっくりと料理をしてくれた。


「はぁあ、コンタギオンがいなければ、毎日こうしてローストビーフが食べられるのにな~。」

「そもそもコンタギオンがいなけりゃ、僕はルキのお世話はしていないはずだよ。」

「ひどぉい。」

「たしかに。ボクだって出会ってないはずですよね。」

「そうかしら。案外運命ってあるかもしれないのよ。」

「ルキにしてはえらく非科学的だな。」

「あら、『運命』は生物学の用語でも使われてるわよ。」

「あぁ、胚発生の。でもあれはきちんとしたファクターがあるじゃないか。」

「ファクターねぇ。あんたが非科学的だと言ったその『運命』もね、ファクターが『ない』と証明されたわけじゃないのよ。」

「…たしかに。」

「二人とも、小難しい話をしているところすまないが、司令部から連絡だ。」


 ボクたちが大して実りのない小難しい話をしている間、サトイさんは腕に付けた通信機器に映し出される文章に目を通していた。


「パパ、なんて?ちーちゃん。」


 先ほどよりも少し低い声でルキはサトイさんに尋ねる。


「はぁ…。次の仕事だよ。」


 サトイさんはため息を吐くが、それの予想がついていたかのような様子だった。


「ルキの体調に関して、改善策が見つかってしまったからね。今までより無茶なスケジュールで動かざるを得ない。」

「ふーん、ま、そりゃそうなるわよね。」

「じゃあ、もうすぐ次の作業…が始まるんですね…。」


 ボクは処理、というよりは幾らかマシな作業という単語を使ってみたが、どうも元々人間だったものを処理するというのが引っかかってしまった。


「もうすぐ、というか、2時間後のフライトだね。」

「にっ、2時間後ですか?」

「あら、じゃあお風呂入ろうかしら。」

「向こうで入ったらいいだろう。」

「やだぁ、あそこの宿舎、お風呂までが遠いんだもの。」


 驚くボクに対して二人は冷静である。確かに二人が外出する時は割と直前に出かける旨を伝えられる。もう少し早く言っておいてくれればな、と思うこともあるが、この二人も元帥から直前に言い渡されているのだろう、と思うと納得がいく。それにしても2時間後とは、大変だ。


「さ、あんたもお風呂入っときなさいよ。」

「はいはい。………え?」

「え?じゃなくて、あと2時間で出発するのよ。」

「あ、なるほど、ボクも行くのね…。」


 もはやこれくらいでは驚かなくなってきた。


「アイくん、恐らく3人で行くと思っているだろう。残念ながら僕は他の業務が当たっていてね。今回は2人で行ってもらうよ。」

「………えぇえ!!??」


 それは流石に驚いた。


「やっぱりね…。」

「え、いやいやいや、大丈夫なんですか?ボクがルキのお守りってことですか?いやその、自分で言うのもなんですけど。かなりの距離ありますよ。戻ってくるまでどれくらいかかるんですか?」

「なによお守りって。一応ワタシ現役最強なんですけど。まぁいいわ、前は1週間くらいだったわね。」

「いっ、1週間!?いやそういうお守りじゃなくてだな。いや1週間!?」


 まさかサトイさんがルキをそんなに長時間野放しにするわけがないと思い、二度見ならぬ『二度言い』をしてしまった。


「それがね、今度は南の方で新たな問題が発生していてね。いやこっちは人間が起こした問題じゃないよ。少し厄介なものがいるというだけでね。」

「えっ、あぁ、あ~なるほど。サトイさんはそっちに行くんですね。」


 そんな問題が起こっていたとは露知らずだった。確かにコンタギオンはこちらの状況を考えてくれるものではない。移植の件がまだ完全に解決していないことなんてお構いなしか。そりゃあ、あちらこちらで問題が起きていて、お嬢様の体も心配となると、サトイさんも大変だ。


「パパも酷い人ね。」


 ぼそり、とルキがつぶやく。ボクはこのコンタギオン片移植問題にどれだけ元帥が関わっているか分からないが、どうやら少しはなにかがありそうだ。ルキは自分の父親のことをどう思っているのだろう。というか、母親はどこにいるのだろう、出身は?きょうだいは?よく考えればルキについてほとんど知らない。


 そういえば以前、サトイさんのことも聞こうとして上手く聞けなかったような気がしてきた。せっかく珍しく2人で行動するんだ。この機会にルキに聞いてみよう。と思ったのが間違いで、この時はその所為でより謎が深まるとは思いもしなかった。


「さ、アイくん、部屋のことは今日はもういいから、準備してきて。そうだな、期間は大体5日くらいで荷物の準備をお願いするよ。」

「5日…。分かりました。」

「荷物くらい大丈夫よ。あっちになんでもそろってるわ。」

「あのねぇ、それを準備しているのは誰だと思ってるんだ。」


 2人の小競り合いを聞きながら、とりあえず必要そうなものを一番大きなカバンに詰め込み、リビングへ出る。あまりに唐突過ぎてまだぼんやりしている感じがする。


「あの、もう少し具体的な指示とかは…。」

「あぁ、それについてはルキを通して伝えるよ。」

「はい…。」


 そんな適当な感じで大丈夫なのだろうか。なにも事が起こらなければいいが。


 ルキが先に風呂に入ったので、その後でシャワーを浴びようと思っていたが、ルキの長風呂のせいでボクの風呂に使える時間は既に20分ぽっちになっていた。


「おい、あと20分しかないじゃないか。」

「しょうがないじゃない、しばらくゆっくりできないのよ。」

「ルキ、それはアイくんだって同じだよ。」

「なによちーちゃんまで。」


 急いでシャワーを浴び、全身を洗って風呂場を出たが、髪の毛が絶妙に乾いていない。しかしもう出立の時間になったので、慌てて準備を進める。一方、ボクがこんなに焦っている原因を作ったルキはというと、先ほど小競り合いをした時は濡れていた髪もきれいに乾かして作業服を身に纏っている。


「制服じゃなくて作業着でいいわよ。」

「Aクラスの作業着なんて持ってないぞ。」

「そりゃそうだわ、作業する人いないもの。違うわよ、ついこないだまで着てたやつあるでしょ。」


 最近着た作業着、というと居住区Ⅵで回収作業をする時に来ていたものだ。そういえばこちらに戻ってくるときに着て戻ってきてそのままだった。ボクが自室で着替えを済ませてリビングに戻ると、ルキはもう出発する寸前で、危うく置いて行かれる勢いだ。


「はやく~。」

「こらルキ、言えた口じゃないだろ。」

「知らないわよぉ。」

「はぁ。じゃ、気を付けてね。」

「分かってるわよ~。」

「あ、行ってきます。」


 とっくに日は暮れているというのに、急に長時間の移動を指示され、向こうでは辛い任務が待っているとは思えないほど上機嫌だ。それとは対照的に、ボクはゆっくりと頭を下げてサトイさんに挨拶をし、重い足取りでルキの後を追う。


 ルキは806号室と書かれたドアのキーパッドに、LEUKのカードキーをべん、と押し当てる。通路を抜けてエレベーターを降り、建物を出て少し歩くようだ。


「あ。」

「っぶね。なんだよ。」


 建物を出て左に曲がり、3秒ほど進んだところでルキが急に立ち止まったので、後ろを歩いていたボクは追突しそうになった。


 ぐるり、とルキは向きを180°変え、先ほどとは逆向きに歩き始める。


「ちょちょちょ、まてよ。飛行場にいくんじゃないのか?」

「いいもの見せてあげるわ。」


 慌ててルキの横まで小走りで追いかけ、その横顔を見ると、絵に描いたようなにやにやを浮かべていた。


「うわ、それ、ルキにとってはいいものかもしれないけど、絶対ボクが見たら嫌なやつだろ。」

「さぁね。」


 敷地の端、人気のない場所にあるそれは、案の定ボクにとっていいものではなかった。


 脱柵した日に掘った穴があったところだ。


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