参-19 af0082_羞恥
「ちょ、ちょっと!!なにするのよ!!」
「あっ、ごめん、いや、ちがうんだ。」
「なにが違うのよ!この変態!弱ってる所を襲おうって魂胆ね!」
「言いがかりだよ…。ルキ、聞いて。これ。」
ボクが真剣なトーンで話すと、ルキも我に返ったのか、自分の肩をちらりとみる。
「……ない…。」
「そう。ボクが触ったところ…。」
なぜかは分からないが、先ほどからボクが痣の所を触ると、その部分だけ痣が消えるのだ。
「あ…そういえば、肩の痛みがないかも…。」
「なんでだろう…。ボクが触ると、治るってことか?」
「そうみたいね!じゃんじゃん触ってちょうだい!」
「……は??」
少し体が軽くなったのか、いつもの調子を取り戻したのはいいが、自分が爆弾発言をしていることに気付いていない。よっぽどさっきの『おかあさん』より恥ずかしいと思うが…。
「いやいや、まてよ。それ、めちゃくちゃ熱いんだよ。」
「??まぁ、確かに熱は出てるからそれなりに暑いけど、そんなによ?」
「いやいや、たぶん、感覚おかしくなってるって、尋常じゃないぞ?」
ルキは自分の体をぺたぺたと触っているが、顔色一つ変えない。尤も、変わらず体調の悪そうな顔色ではあるが。
「じゃ、じゃあ、もっぺん触るぞ?」
「どこがいいかしら、あんたウブだから、最初は手かしらね。」
ぷぷ、と小さく笑われたが、聞こえていないふりをして、ご所望通り手首をそろりと握る。
「あっっっちぃよやっぱり!!」
先ほどと変わらない熱さだったが、痣が消えるのも同じだ。もしかして、痣が消せる代わりに熱く感じるということだろうか。そういえば、サトイさんはなんの抵抗もなくルキを触っていたから、特段熱くなかったのかもしれない。
「すごい!痣も痛みも消えたわ!他も触って!そうね、背中がいいわ、痛くて寝るのも辛いのよ。」
「いやいや、まってくれよ。ルキは治るかもしれないけど、これ以上触ったらボクの手がただれちゃうよ。」
「なによ、手のひらくらい、くれてもいいじゃない。ワタシ全身痛いのよ?」
そう言われて、はっ、とした。それもそうだ。気丈に振舞ってはいるが、まだ熱と痛みはかなりあるはずだ。ボクは覚悟を決めた。まずは準備だ。
一旦部屋を出て、風呂場へ向かう。桶を手に取り、脱衣所の洗面台で水を入れる。その間にキッチンへ行って冷凍庫から氷を回収し、桶に入れる。こぼさないようにそろりそろりとドアを開け、ルキの部屋へ戻る。
改めてみると、かなりの数のぬいぐるみだ。その中央でルキは座って俯いている。ボクの入室音に気付いて顔を上げると、その目には涙が浮かんでいた。
「あっ…。ねぇ、ごめんなさい。ワタシ…その、調子に乗ったわ。もう寝るから。」
「は?いや、違うよ。これ、用意してたんだ。」
「いいのよ。ミズチが辛い思いすることないわ。」
「せっかくいい方法が見つかったんだから、最後まで試してみよう、な。」
何度か説得すると、反抗するのも辛いのか、ゆっくりとベッドに横たわり、お願い、と一言小さく呟いた。ボクは予め氷水に手を入れ、まずは二の腕めがけて手を伸ばす。
「つめた…。」
「…っ、あちぃ…。」
同時にお互いに違うことを言うのが少し面白いような気もしたが、そんなことはどうでもよく、ボクはとりあえずルキの二の腕をすりすりと触りまくった。ルキはだんだんと気持ちよさそうな顔になるが、ボクはだんだんとしかめっ面になる。
「限界だ!水!」
真っ赤な手のひらを氷水につけて冷やす。これを全身分繰り返すのかと思うとなかなか骨の折れる作業だ。次は背中を冷やそうと思い、ルキに起き上がるように声をかける。
「ルキ、次、背中。」
「ん…。」
弱弱しく起き上がり、ボクに背を向ける。ボクはここで重大な事に気が付いた。もしかして、この痣は『前』にも出ているのだろうか。つまり、その、あぁもう考えるのはやめよう。これは治療行為だ。とにかく今は目の前の華奢な背中に集中しよう。
Tシャツの下から手を入れ、そろりそろり、とこすらないように背中を触る。六根清浄か南無阿弥陀仏か分からないがとにかく心の中で唱えながら背中の上半分だけを覆う衣類の下にも手を伸ばす。
見ていないので分からないが、背中の痣は大方消えてきたと思うので、問題の『前』は後回しにして、次は足の痣を消すことにした。
「ルキ、次、足触るぞ。」
「ん…お願い。」
少し楽になったのか、先ほどまで辛そうなリズムだった呼吸が穏やかになる。ルキはボクから見て右側に頭、左側に足を向けて座っているので、まずは近い方の左足から触ることにした。
足のつま先まで痣は広がっており、熱を持っている。丁寧に、ぴたりぴたりと手を押し当ててその痣を取り除く。膝から下が綺麗な肌色を取り戻し、ボクは一度氷水に手を付ける。もはや氷も小粒になっており、氷水と言えるかはかなり怪しくなってきているが。
「次、その、ここ、触るぞ。」
なんだか太ももという言葉を口にすることすら恥ずかしくなってしまい、誤魔化してしまった。否、ベッドの上の美少女を全身くまなく触れと言われて恥ずかしくならない人がいるだろうか。いるんだろうなぁ。
ショートパンツを履いているため、その足は大部分が露わになっており、かなり鍛えられているはずだが、見た目はむちむちとしていてかなりやわらかそうである。
なるべく精神を統一し、今までよりゆっくりと太ももに触れる。ふにっ、などという陳腐な擬音では表現したくないくらいだが、それしか思いつかないほどふにふにしている。なるほど、これは高潔な人間でなければ今頃パンツが白濁液で汚されていただろう。ボクはもちろん高潔なので大丈夫、なはず。ちらりと己の股間に目をやると、染みはできていないようなので安心する。
内ももは後回しにして、右足も冷やすことにする。
「ちょっと、こっち向いてくれ。」
「いたた、ちょっと、あんたがベッドに乗ってこっちに来ればいい話じゃないのよ。」
「は?いやちょっとまてよ、逆にいいのか?」
「なによ、やってくれるっていったじゃない。」
「ベッドに上がるとは言ってない。」
「無理よぉ、おしり痛いもの。」
「……はぁ、しょうがないなぁ。」
かなり楽になってきているのか、口が回るようになってきた。ボクはのそり、とベッドに足をかけて這い上がる。かなり広いベッドなので体が密着することはないが、ひとつのベッドの上に座っているという事実は変わらない。
ルキの右側にあぐらをかいて座り、再びそろりと右足に手を伸ばす。同じように内ももを除いて大体の痣が消えたところで一旦手を止める。
「次、おなかの方やってちょうだい。痛くてまともにしゃべれないのよ。」
「十分しゃべってるじゃないか。」
「なによ、余裕ね。」
お嬢様を苛立たせてしまったようだ。ボクは意を決してTシャツをめくろうとするが、伸ばしかけた手を止めた。
「なに?早くして欲しいんだけど。」
「いや、まてよ。最初にさ、ボク肩触ったよな。」
「そうね、押し倒されたわ。」
「ぐっ、いや、その、そうだけど。」
「それがなによ。また押し倒したいってこと?」
「ち、違うよ。いや、よく考えたら、さっき、服の上からでも消えてたな、と思って。」
「あら、気付いてなかったの。」
「えっ。」
「背中お願いしたとき、どうして直接触るのかなとは思ってたのよ。まぁどうせむっつりすけべのミズチのことだから、触りたかったのかなと思ってほっといたのよ。…まぁその時は痛くてそれどころじゃなかったけど。」
「………………すみません……。」
あぐらをかいていた足を正座に直して謝罪をした。触りたかったという意思は微塵もないつもりだった、否、心の奥底にはあったかもしれないが。でもそんなことを言っても今は見苦しい言い訳にしかならないだろう。
恐らくボクの顔はゆでだこよりも真っ赤になっているだろう。もはや赤を通り越して紫とか、その辺の色になっていてもおかしくはない。ルキの助けになっているという感情が前面に押し出され、後ろの方に触りたいという感情が見え隠れしていた、というダブルパンチが効く。
もうだめだ。話を逸らそう。服の上からおなかに手を添えながら苦し紛れに話しかける。




