参-16 fdede4_白皙
扉を開けると、ボクの目には白と黒の美しいコントラストが飛び込んできた。
右側の低い位置で一つにまとめられている、手入れの行き届いた艶やかで不自然なほどに黒い髪。吸血鬼なら迷わずかぶりきたくなる真っ白な首筋。皺ひとつない真っ白の軍服。
「た、ただいま…?」
以前のルキなら飛びついて来ると思い、少し体に力を入れるが、そんなことはなかった。ボクをまっすぐと見つめ、ただ一言、
「おかえりなさい。」
と、微笑みながらつぶやいた。
「さ、長時間の移動で疲れたろう。ごはんにしよう。」
ボクの背後からサトイさんの声がする。お昼過ぎ、15時に宿舎を後にして車に乗り込むと、サトイさんが待っており、そこからずっと一緒にいたのだ。
「アイくん、向こうの生活が楽しかったみたいでね、別れを惜しんでたよ。」
「ちょ、サトイさん、それは言わないって言ったじゃないですかぁ。」
ボクは大概単純なやつだ。帰りの飛行機でサトイさんと話し込んでいたら、すっかり前の感覚に戻ってしまった。
否、まだ詳しい話があるとのことだった。サトイさんが夕飯を作る間、ルキと少し話すことになった。サトイさんとはもうすっかり元通りだが、やはりルキは久しぶりに面と向かって話すので、かなり緊張する。
「こっち。」
ルキが促したのは、数か月間ボクの部屋だったところだ。部屋に入ると、すぐさまそれを訂正せざるを得なくなる。今もボクの部屋のようだ。ボクが出て行ったときのまんまで残してある。座るように促され、ボクは椅子に腰かける。
てっきり、ルキはベッドかなんかに座るのだと思ったら、その予想は裏切られることになる。唐突に膝から崩れ落ちたと思ったら、床に手をつき、頭を下げる。
「ちょっとちょっと、一体どうしたんだよ。」
焦ってしまい、思わずボクも地面に正座をしてルキの頭を上げさせようとする。しかし、どれだけひっぱっても頭は上がらない。ちょっと、と声をかけ続けていると、いきなり大きな声で
「ごめんなさい!」
と、叫んだ後、すすり泣きが聞こえてきた。
「あ、あの…。熾さん?」
「…っ、ひぐっ……うっ…、っ…。」
「わ、分かったよ。十分信じたから。あんたは悪くないよ。」
こんな時、サトイさんやまーくんみたいにデキる男は背中でもさすって抱き寄せるのだろうか、なんて能天気な事を考えてしまう。
「っく…、うっ……だ、…だますつもりはっ…。」
「それはもう聞いたから、大丈夫だって。な、……それより、メールで言ってた、詳しい話とやってほしいことってなんだよ。」
ボクには肩にぽんぽんと手を置くのが精いっぱいだった。なんとか話を進め、この状況を切り抜けたい。
しばらくするとルキは、すっ、と立ち上がった。顔を見ると、目は真っ赤に腫れ、本当に申し訳なさそうな表情と涙でいっぱいだった。ボクはゆっくりと椅子に座り直す。
「もう大丈夫だから…」
そう言いかけたとき、ルキは上着を脱ぎ始めた。泣きじゃくったので、暑くなったのかなと思い、上着を受け取ろうと手を出したが、そこで異変に気付く。
ズボンのベルトに手をかけている。まさか、下まで脱ぐつもりか?
「お、おいおいおい、まてまてまてまて。」
触って止めるわけにもいかず、空を切るボクの手による抵抗虚しく、ズボンが下げられていく。仕方がないのでボクは椅子ごと向きを変え、ルキの方を見ないようにした。背後から衣擦れの音がする。もしや、中に着ていたシャツまで脱いでいるのではないだろうか。
なにをしているんだいったい。どういうことだ。もしや、体で謝罪しようというつもりか?ドア1つ隔てた向こうにはサトイさんもいるというのに…。なんてやつだまったく。
「ちょ、あの、熾さん?」
「見て、こっちを。」
「いやいや、服着てないでしょうが。」
「そう。」
「そう。じゃなくて、あのなぁ…。」
「真面目な話よ。」
「は?服脱いで、真面目な話ってどういうことだよ。」
ボクは今までのどんな覚悟よりも大きな覚悟を決めて、後ろを振り返った。




