参-14 00947a_会見
夜勤の翌日は非番だが、特にいつもの出動がない時と変わらず居室でごろごろしていると、どこかに行っていたまーくんが目をきらきらと輝かせて戻ってきた。
「聞きました!?隊長!ミズチ君!」
「な、なんだぁ?」
「なんだじゃないですよ!熾姫の快挙ですよ!」
熾姫と聞くと、ボクの体は少し震えた。日に日にボクの中であのアドレスの存在感と恐怖が大きくなってきている。
「ファーストにある本部の汚職を摘発したらしい!」
「ほ~そりゃまた、大儀だな。」
本部の汚職、と聞いて、ボクは嫌な予感がした。
「どうしてそんなに落ち着いてられるんですか!10年以上実戦に出ていなかったことでお飾りだかなんだか言われてましたが、やはり熾姫はもってるお人なんですよ!」
「そ、その汚職というのは…。」
ボクが興奮するまーくんをなだめながらそう尋ねると、ボクの予感は的中してしまったようだ。
「研究部がとんでもない実験をしていたんですよ!いやぁ、セカンドでもちょくちょく話題になっていたんですが…。」
「えっ、研究部の実験って、みんな知ってたんですか?」
「6区のやつらは知らねぇだろうなぁ。俺も知らねぇもん。」
「ミズチ君はファーストにいたから知っているんだね。」
研究部が隠していた、MHC適応の少ない人を化け物にする実験のことだ。
「MHC適応の少ない人を…。」
「そう、現代は免疫適応が全てだからね。力の弱い人は逆らえないから、研究部がいいように使っていたんだよ。」
「ほお、てことは、俺ももし1区にいたらやばかったんじゃねぇか?」
「そうですね…。隊長くらいの適応だと危なかったかもしれません。」
そして話はいよいよ本題に入る。
「で、その適応量が小さい人をどうしてたんだ?」
「コンタギオンを直接…」
「そう、正確にはコンタギオンを抗原として、それに似せた物質を摂取させていたらしいんだ。」
コンタギオンを直接体の中に移植したと聞いた気がするが、正しくは少し違ったようだ。もしくは少し違うことを公にしているかの2択だろう。
「接種したら、いったいどうなっちまうんだ?」
「抗体が活性化する…。だったらよかったんですが、もともと適応が少ない人達ですから、そうはいかなかったようですね。」
抗体が活性化する?どうやらあの怪異と化した人々のことは公表されていないようだ。
「研究部のやつらは全員クビになったのか?」
「いやぁ、それが、そこは発表されてないんですよね。恐らくクビでしょうが。」
もしや、研究部の人たちは消されたのではないだろうか。あのお嬢様のことだ、やりかねない。実際、ボクは目の前で人を一人殺しているのを見た。
しかも今まさに、現在進行形でボクの命を狙っているようなやつだ。貴重な検体であるボクが研究部の手に渡らないように、根こそぎ殺したんだ。
「あ、ほら、姫の会見が始まりますよ。」
居室のモニターには記者会見の様子が映し出される。
「はぁっ。なんて麗しいんだろう。」
「そうかぁ?俺には子どもにしか見えないが…。」
「隊長にはこの美しさが分からないんですか?」
会見用のマイクと座席が用意されており、ちょうどルキがつかつか、と歩いて席に座るところだった。質問者は画面外から質問しているようだ。内容は概ね先ほどまーくんが話していたことだった。終始、画面の奥からこちらを狙われているような気がして、ボクはとてもじゃないけど画面を見ることはできなかった。
しかし、最後の一言がルキの口から放たれた瞬間、ボクは思わず顔を上げてしまった。
「これはワタシなりのけじめよ。」
目が合った。
「待っているわ。」
ひゅっ、と喉が鳴る。冷や汗があふれ出し、頬を伝うのを感じる。
「これで会見を終わります。」
「なんだぁ最後のは?」
「軍に是非、入隊してくれということじゃないですかね?いやぁ、それにしても毅然とした態度も最高でしたね。」
「まぁなぁ、小さい頃から軍人さんやってるんだから、肝は据わってそうだよな。」
まーくんが話を逸らしてくれて助かった。ボクはふらふらと寝室に戻り、相変わらずゲームをしているあおちゃんを横目に、ベッドに横たわった。
「終わった…。」
確実にボクを呼んでいる。逃げ出すか?いや、どう考えたって勝ち目はない。まずもう一度軍から脱柵できるかどうか。この前の聴収で、否、恐らく実家に帰った時からここにいることはばれている。さらに、実家には到底帰れないだろう。
外に出る?居住区の外に。そんなことをしたらすぐにコンタギオンの餌食だろう。どっちみちボクは非常に危ない立場にあるようだ。
冷や汗と震えが止まらない。止まれ。止まれ…。ベッドの上でのたうち回る。
ボクの手はいつのまにか端末を開いてメールの画面を見ていた。
「はっ…。」
削除したはずのアドレスが戻っている。
「なん……だよ…これ……。」
もう逃げられない。これはLnodeⅠに、Aクラスに戻ってこいという最後の警告だろう。
いつのまにか流れていた涙をぬぐいながら、アドレスをタップする。新規作成画面を開くが、なにを書けばいいのか分からず、震える指でそのまま送信ボタンを押す。
ぐったりと横たわり、深呼吸をしようと試みるが、うまくいかない。とにかく手を握ったり開いたりして、気を紛らわせようとする。
体感では数時間にも思えたが、時刻を見ると3分しか経っていない。ケータイで時刻を確認したその時、バイブとともに通知が来る。




