参-11 800000_聴収
ボクは思わず息をひゅっと飲む。いつかサトイさんにびびり散らかしていた研究部の人がいたな、と思い出す。
「これはこれは、サトイ少将。どうなされましたかな。」
「えぇ、まぁ。そちらの少年とは、直接話をさせて頂いても?」
「は?いえ、その、はい。もちろんですとも。」
サトイさんもいつものやわらかい笑顔はなく、淡々と要件を伝えるだけであった。では、こちらへ、と一言発し、隣の部屋のドアを開けてボクを通した。
部屋は小さな会議室で、ロの字型に茶色の長机が置いてあり、一番奥にルキが足も手も組んで偉そうに座っている。ここに来るまでに逃げ出そうかとも思ったが、どうせどこかで捕まるのが関の山だったろう。
おっさんともう一言二言交わして部屋に入ってきたサトイさんが、ロの字でいう右側の縦の席に座るように促す。サトイさんが左側に座ったのを見て、ボクは覚悟を決めて促された席に座る。
「さて、今日は、昨日の活動についてお話をして頂きますね。」
「は、はい。」
「まず、あなたはLnodeⅥ、B支部、第2大隊、第1小隊配属の饗ミズチ君で間違いないですね。」
「…はい。」
ボクに関する記憶がすっかり抜け落ちているかのように、第2大隊、すなわちGクラス大隊であることを確認する。人口が多い居住区では軍の規模も大きく、クラスごとに分かれる大隊の次に、Gクラスの中でも回収係をする隊員と基本的な戦闘力を持つ隊員を分ける中隊が存在するが、ここでは規模が小さいため大隊の次は小隊となる。
「僕たちはLnodeⅠの者です。昨日、今までにない行動を伴うコンタギオンが観測されましたが、その場にいたあなたに直接お話を伺いたいと思い、こちらに参りました。それでは、いくつかお伺いしますね。」
「どうぞ…。」
その後は本当に昨日あったことを見たまんま話しただけで、どうやらもう終わりのようだ。しかし、かなり長時間喋っていたため、疲れてしまった。
「他に、なにか伝えておきたいことはありますか?」
「………いえ、ありません…。」
さてと、と小さくサトイさんがつぶやきながら立ち上がる。ルキに目配せをすると、ルキもめんどくさそうに立ち上がる。そして、なにを思ったのか、わざわざボクの後ろを通って部屋の外に出ようとする。今度こそ殺されるのではないだろうかと思うと自然と体がこわばる。
ちょうどボクの真後ろに来た時、ルキはボクの肩、というかほぼ首に、ばん、と強めに手を置いた。ボクはびくっと肩を震わせる。本能で、目を合わせてはいけないと思い、俯いていると、
「期待してるわ。」
と、一言声がかかる。恐る恐る顔を上げると、ルキと目があう。その表情は、ボクが思っているものとは違った。
悔しそうに顔を歪め、唇を噛み、下を向いている。
ボクが顔を上げたことに気付いたルキは少し慌てて、肩から手を外して背後から立ち去ろうとする。
「……っ。」
今にも潰れてしまいそうな、弱弱しいルキの背中に言葉を投げそうになる。しかし、違和感のような、なにかおかしい気配を感じる。ボクのことを覚えているなら、二人ともあんな態度は取らないだろう。逆に、ボクのことを覚えていないなら、ルキはあんな表情は見せないはずだ。
ここで声をかけるべきか、悩んでいると、ふとサトイさんが目に留まった。相変わらず厳しく、涼しい表情だが、一瞬だけこちらをちらりと見る。人差し指を口元に近づけ、ほんのわずかだがほほ笑んだように見えた。
ボクは今にも動き出して、ルキにあの日見た光景や聞いたことが本当なのか訊こうとしていた。しかし、それに気づいたサトイさんがストップをかけた。なにか事情があるのだろう。この部屋に入るまでは2人への恐怖しか感じていなかったが、あれは全てうそだったのではないかという思いがふつふつと湧き上がってくる。
そのまま、2人は部屋を後にし、すれ違いで入ってきたおっさんに連れられて居室に戻ってきた。
「おう、ギャングよ、遅かったな!」
「え、隊長は、もう聴取終わったんですか?」
「なんだかよくわからねぇが、ギャングが行ってすぐに呼び出されてよぉ。わりかし早く終わったぜ!」
「ど、どうしてでしょうね…。」
「2人とも、別の部屋で聴取を受けてたんですか?」
ボクは部屋に入ってすぐの所に立っていたが、背後からまーくんの声がしたので振り向く。どうやら部屋の外になにか用事があって、今戻ってきたようだ。
「そうみてぇだな。俺はここの一番偉いボスに話したぜ。」
「え、それって、今朝大声で騒いでたおじさんですか?」
「ぶははっ。そうそう、そうかそうか、まだ来たばっかだから知らねぇわな。ははっ…くっくっ…わはははっ。」
隊長は笑い出すと本当に止まらない。おじさんが相当ツボだったようだ。
「じゃあ、君は一体どなたに聴取を受けていたんだい?」
「え、あ、え~と、その…。」
「ひひひっ、あ、あれじゃねぇか、ははっ、ここで2番目に偉いボスもおじさん、ふはっ、おじさんだぜ?ぶははっ。」
「あっ、あ~そうですね、たぶんその方だと思います。」
「ほ~、そうなのか。ちょうどあおちゃんと俺の聴取が終わったのがお昼どきでしたから、そのあたりで2番目の、その、お、おじさんの手が空いたんでしょうかね。」
「ふははっ、まぁ、そんなところだろうな。」
ボクは幹部の2人と直接話したことは言ってはいけないと本能で感じ、ついごまかしてしまったが、同時に罪悪感を芽生えさせてしまった。
結局その日は出動もなく、1日中居室で過ごした。待機時間が終了すると隊長はまーくんを連れて体を動かしに行ったが、ボクはなんとなく乗り気になれなくて遠慮した。もう季節はすっかり夏模様で、比較的涼しいこの辺りでも流石に暑く、制服を脱いでTシャツに着替え、ベッドに転がる。




