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白の闘諍  作者: 死者モ
参_浄化
45/73

参-8 a9a9a9_運転

 慌てて見上げると、ボクが雲だと思ったものは全てこのコンタギオンだった。浮いている、いや、飛行しているのか?コンタギオンが飛行する?とにかく、うねうねと上空で蠢いている。


「ひっ。」

「ほら、逃げるぞ!クソっ、なんだありゃ!?」


 悪態を吐く隊長を追いかけようと、視線を前に戻そうとしたその時、視界の端にちらりと、まーくんとあおちゃんが映り込んだ。


 ボクの目が正しければ、まーくんは、うずくまっていた。


 もう一度確認する。やはり、うずくまっている。あおちゃんが無理やり起こそうとしている。ボクの前には気色の悪い巨大ミミズが折り重なっているが、その向こうにはまーくんとあおちゃんがいる。このまま隊長と走れば、あの2人を見捨てることになる。


「おい!なにしてんだ!こっちに来い!」

「っ…どうしてですか!まーくんが…!」


 その間にも、次から次へとミミズの大群は上空からぼたぼたと落下してくる。


 うーうーと街中に警報が鳴り響き、無菌ホーム以外の建物も次々にシャッターが閉まる。


「いいから走るぞ!とりあえず車まで行こう!」


 ボクは激しく後ろ髪を引かれながら、隊長が引っ張るのを振り解けなかった。隊長の力が強かったわけではない。いくらボクが貧弱な少年だからと言って40を過ぎたおじさんの握力に負けるはずがない。恐怖に負けたのだ。


 じゅる…ずぞ…という気色の悪い音が追いかけてくる。必死の形相で、Lnodeからここまで乗ってきた装甲車に乗り込んだ。この車が装甲車でよかった。びたんびたんとミミズが車の外を囲む音がする。


「あれは…なんですか…。」

「俺も詳しいことは分からねぇが、恐らく結核菌だろう。いや、結核菌なのは確かなんだが…。」

「普通…飛ばないですよね…。」


 口に出したところで一気に恐怖が倍増する。


「しばらくすれば上の隊員がやってくるさ。」

「しばらくすれば…って…それまであの二人はどうするんですか?結核菌は細胞壁が頑丈なんですよ。Gクラスの顆粒球では倒せないはずだ…。」

「だからって、お前、なにか出来るのか?」


 はっ、とした。回収係に来たということは『そういうこと』なのだ。今だって、結核菌という単語を聞いて、知っている知識をひけらかしただけだ。所詮本の中で見たコンタギオンしか知らない。


いやしかし、ボクにでもできることはあるはずだ。まだ出会って2日しか経っていないが、みすみすあの二人を見捨てる訳にはいかない。


「この車、手動に切り替えられますか?」

「ん、いやぁ、どうだろう、分からんな。」


 ボクたちは、3列ある座席の真ん中に座っていた。天井に頭をぶつけないように注意しながら、1番前の座席に移動し、ダッシュボードを漁る。インパネは手動の車となんら変わりない。ハンドルは…あった、インパネの中央に開いている穴にがちゃりとはめる。最近の自動運転の車はスペースの確保のためにハンドルがない場合が多いが、有事に備えて必ず車のどこかにはあるはずだ、という見立てが合っていた。


「おい、ギャング、お前、車の運転できんのか!?」

「できるもなにも、入隊資格の中に、車の免許があるでしょう。」

「い、いや。そういう問題じゃなくてだな…。今どき実際に運転できるやつなんていないだろうよ。」

「ええ、まぁ…。あ、動きそうですね。」


 ずん、と低い音でエンジンがかかる。装甲車には窓がないため、外の様子を見ることのできるスコープを装着する。たしかに、自動運転が主流となった今、運転免許は筆記試験のみで取れるし、運転できる人はまずいないだろう。だが、ボクに運転を教えてくれたのは親父と……熾ルキ。


「行きますよ!」


 がるがると大きな音を立ててタイヤが回り始める。2人は大通りの方にいたはずだ。このまま逃げてきた道を引き返せば戻れるが…。


「おいおい、来た道は無理だぜ。」


そのとおり、来た道はもうミミズの巣窟である。だが、ボクには案がある。


 この辺りは冬になるとかなり寒くなる。雪も積もるし、なにより風の冷たさが尋常ではない。なので、繁華街の地下には風よけのための通路があるのだ。本来なら装甲車で通るものではないのだろうが、この際しょうがない。たしか、この先にスロープで入れるところがあったから、そこから入ろう。


「おいおい、いったいどこに向かってるんだ?」

「もちろん、仲間のところですよ。そうだ、無線かなんかで向こうと連絡取れますか?」

「お、おう。普段は使わないんだが…。やってみるぜ。」


 思ったより冷静な自分がいる。なぜなら、LEUKに対する思いが変わっているからだ。熱い思いなんぞ持ち合わせていない。仮にあの2人を助けられなかったからといって、ボクはそれほど後悔しないだろう。


 かと言って見捨てる訳にもいかない。


 地下道の入り口にたどり着いた。


「よかった。まだあった。」

「収集車の無線に繋いでみてはいるが…。」

「難しそうですか。あ、ちょっと揺れますよ。」


 地下道を閉鎖するために設置されている申し訳程度の鎖を突き破り、ずごごごご、と大きな音を立てて、装甲車は地下道に入る。視界が暗くなるが、すぐにライトのスイッチをオンにする。


「うわっ。なんだこれ。」


 思わず声が出る。外の様子を映すモニターには、蜘蛛の巣が張り巡らされ、もう何年も放置されていたであろう地下道がぼんやりと浮かぶ。


「これはいったいなんなんだ?」

「なにかと言われると…。ただの地下道ですよ。」

「俺は任務で初めてこの地域に来たから知らねぇが、恐らく地元の人間からしたら当たり前なんだろうな。」

「はぁ、まぁ、そうですね。」


 たしかに、この地下道が開発されたのは、全国で電柱を地下に埋めようという話が持ち上がった時期だから、ボクが7つくらいの時だろう。地下道なんぞ開発すれば地下に電柱を埋めるスペースがなくなるぞという論争をしていたと母親に聞いたことがある。その時には既に隊長は軍に入っていたのだからそのあたりの事情に疎くても仕方がないだろう。


「そろそろ出ますよ。」


 ボクの記憶と土地勘が正しければ、ここを上れば先ほど作業をしていた辺りに出られるはずだ。


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