参-7 f5deb3_危険
「へぁっ!あっ、すいません…あの……。」
「ったく、困るぜ~、まぁいい、もう1度説明するから、よ~く聞いておけよ。」
もう一度解説してもらったのをよく聞くと、つまりは、この居住区Ⅵには自動回収システムなんぞは存在していないので、手作業でこのゴミ収集車にコンタギオンの残骸を運び込まなければいけないということだ。
作業は隊長がコンタギオンを刻む役、ボクがそれを雪かきの時に使うようなスコップや、マジックハンドを大きくしたような道具でゴミ収集車に入れる役を担当する。
早速作業を始める。思ったよりも重労働だ。スコップで掬おうと思うと、つるつると逃げていくし、マジックハンドだと1つずつしか取れない。しかも、意外とゴミ収集車の車高が高く、コンタギオンの破片もずっしりとしているため、道具の上げ下げがきつい。
こんなにつるつる、ぶにょぶにょしているものを、よくあんな高枝切りばさみのような道具ですいすいと切れるものだ。よく見ると足で上手く固定し、切れた破片をボクの方へ蹴ってくれている。手さばきというか足さばきというか…さすが万年回収係…。
ボクの理想では、今頃は回収係を終えて実戦部隊へと配属されている。Lクラスの遠距離攻撃隊、すなわちB隊の一員として抗体をぼっこぼっことコンタギオンにぶち当てる夢は潰えた。キラーTでもよかった。否、なんなら多少地位は低くてもGクラスの戦闘部隊でもよかった。
あぁ、でも今は回収係。この役目だって、本当なら出来ていないはずだ。ボクは顆粒球も、傷害性T細胞も、抗体も使えない。そもそもLEUKに入隊出来ないのだ。
悶々としながら手を動かしているうちに、だんだんコツが掴めてきた。まず、スコップを地面に置く。マジックハンドでぽいぽいとスコップの掬うところにコンタギオンの破片を入れる。雪かき用なのでかなりスコップの幅は広いが、4個も乗せたらいっぱいになるので、スコップを持ちあげてゴミ収集車に入れる。
慣れてくると余裕ができて、隊長と世間話や出身地の話をするほどだ。実家の定食屋も最近はコンタギオンが多くあまり儲かっていないようだという話や、カワギシ君の話もした。どうやら、隊長が入隊した1期生の入隊試験は筆記試験がなかったらしい。カワギシ君は生まれる時代を間違えたな。あと15年早く生まれていればなんの問題もなく入隊できただろう。
ボクがLEUKを目指したきっかけについても話した。ボクが5歳の時に起きた、忌々しき『BSEプリオン』との闘いだ。その名前を出すと、さすがの隊長も少し顔が曇った。
しかし、すぐに気を取り直すように、明るい声に戻る。
「ようし、そろそろ向こうと交代するか。あっちは車から遠いからな。」
「そうですね、毎回、なんていうんでしたっけ、これ。」
「あぁ、元は農作業なんかに使う用の一輪車だな。」
「あ、そうです、それを押して来て、大変そうですもんね。代わりましょう。」
隊長が少し離れたところにいるまーくんとあおちゃんに声をかける。
それと同時に、ふと、上空に雲がかかり、あたりが暗くなる。
おかしいな、今日は朝からピーカン晴れで、かなり暑かったんだが。まぁ夏に近づいているのだから、いきなり雨が降り出すのもおかしくはないだろう。
「逃げろ!!」
突然、隊長の怒声がボクの鼓膜を震わす。それに驚いて固まり、目が泳ぐ。隊長がボクの手首をぐい、と掴んで引っ張る。ボクは2人と場所を交代するべく歩き出していたが、反対方向に手を引かれ、脚をもたつかせながら走り出す。
「わっ、どうしたんですか!?」
「どうもこうもねぇ!バケモンが来た!!」
「バケモン!?」
ごしゃ。
言い終わらないうちに、背後から音がする。走りながら後ろをちらりと見ると、肌色、ミミズのような形、長さは……1mはある物体が、10、いや30はいるだろう。折り重なって、我先にと言わんばかりに、こちらに向かってくる。
待てよ。今、この巨大なミミズのようなコンタギオンはどこから来た?
上だ。




