参-5 ff0000_出動
「おい~っす、おはようさん。」
「おはようございます。」
「おう、まーくんもギャングも、そんなに早く起きるこたぁねぇぞ、メシまでに着替えを済ませたら問題ねぇ。」
「なるほど…分かりました。」
ボクがそう言い終えないうちに、朝食が運ばれてきたことを知らせるブザー音が鳴る。すかさずあおちゃんが箱を回収し、目にも止まらぬ速さで配膳し、飲み物を用意する。最初に隊長の用意を整えるが、自分の分を後回しにしてでも隊長の次にボクたちの分を用意してくれるということは、少なくとも敵意を持たれているわけではないだろう。しかし、相変わらず会話をしてくれそうな気配は感じられない。
朝食はあまり喉を通らなかったので、半分ほどまで食べたところで箱に戻し、後で食べようと机の上に置いた。LnodeⅠを脱柵してからは、環境の変化についていくのにやっとだったが、1晩寝たことで少し思考に余裕が出来たのだろう。つい1週間、否、10日ほど前の記憶が蘇ったり、薄れて行ったりを繰り返す。
「さて、点呼も済んだことだし、あとは自由に過ごしていいぞ。」
そういわれても、やることがないので、そわそわと落ち着かず、あおちゃんと同じくらい顔色が悪くなったり、戻ったりを繰り返している。少し部屋の外に出たかったのだが、さすがに、いつ召集があるか分からないのに部屋を出ることは許されないらしい。案外、体を動かしたり、なにか作業をしたり出来ないので苦痛を感じる。
体を動かす…。そういえばLnodeⅠにはジムがあったな…。忘れようとすると思い出してしまう。下手な恋愛ソングの歌詞のような言い回しになってしまったが、とにかく、ぐるぐると思い出と現実と恐怖が意識の中を飛び回る。
机上の時計がかちこちと時を進めるのを眺める。ただひたすらに。
しばらく机に突っ伏していると、少し落ち着いて来たので、また隊長にクイズを貰おうと立ち上がったその時だった。ウィ~ン、ウィ~ンという音が鳴り響き、それと同時に部屋中が真っ赤に染まる。
ボクは驚いて腰を抜かし、その場で縮こまった。ちろちろと視線を動かすと、部屋が赤く染まったのは、廊下に出るドアの上に設置されている赤色灯のせいだと気づいた。一方、まーくんは素早く椅子から立ち上がり、気を付けの姿勢で隊長の方を見る。そして隊長はというと、
「おっ、今日の出動は随分はえぇな。」
と小さく呟き、ボクたちに少し待つように指示を出し、寝室からあおちゃんを引っ張り出してきた。
「よしっ!新生第1小隊、記念すべき1回目の出動だ!」
「ひぃ。」
半分引きずられているあおちゃんが情けない悲鳴を上げる。そんなのお構いなしとばかりに、隊長はぐいぐいと引っ張ってドアを開ける。ボクとまーくんもそれに続いて居室を後にし、別の部屋へと向かう。
向かった先の部屋には、ずらりと縦に細い形のロッカーが並んでおり、部屋に入って右側のロッカーの列に案内された。
「おっ、おめぇらのロッカーも用意されてるな。よし、活動着に着替えてくれ。あとは着替えながらあそこの画面に流れる情報よく見とけよ。」
「はいっ!」
勢いよく返事をして、ロッカーを開ける。中にはハンガーにかけられた真っ黒のつなぎ、中棚にヘルメットと手袋、一番下に安全靴のような靴が置いてある。
しまった。
ボクはこの服を着たことがない。そりゃあ、普通に着たらいいのだろうが、靴は最後に履き替えるのか?中にはなにを着たらいい?意外と、普通に分かりそうなことも、やったことがないと戸惑うものだ。
しかし、ボクはそこまであほではない。手慣れているであろうまーくんを参考にすればいいのだ。ここまでの思考にかかった時間は1秒にも満たない。しかし当のまーくんは既に鬼のような速さで服を脱ぎ、パンイチである。とりあえず、パンイチになったらいいらしい。ボクも急いで服を脱ぎ、目の前に掛かっている濡羽色のつなぎに手をかける。
「おい、あれ見とけよ。情報出てるぞ。」
「へっ?」
活動着に片足を突っ込んだまま、まーくんが指さしている方を見ると、部屋の奥の壁にかかっている大きな画面に様々な情報が映し出されている。
「百日咳菌…。」
「それなりに大きい個体だったみたいだな。結構な人数出動してるじゃないか。」
「ひぃ。」
「ほれっ、あおちゃん、さっさと着替えろよ。」
隊長があおちゃんを急かしている間に、ボクたちも着替え終わった。着てみればそんなに難しいことはなかった。なぜなら、恐らくだが、これはかなり最新の素材が使用されており、着た人の体にぴったりと吸い付くからだ。ある程度雑に着ても安全を保つことができるだろう。
「よし、みんな着替え終わったか?じゃあ作戦会議でもすっか。」
「はいっ!」
「は…あの、こ、ここで、ですか?」
まーくんは速攻で威勢の良い返事を返したが、ボクはおどおどしてつまらない質問をしてしまった。一言返事だけをしておけばよかったと後悔する。
「おうよ!よっしゃ、じゃあちょっと集まってくれ。」
隊長はとてもいい人だろう。どこぞのモラハラ上司なら怒鳴られていてもおかしくはない。
作戦はこうだ。現場へは自動運転の装甲車で向かう。到着したら、まずは隊長とあおちゃんが、既に討伐されたコンタギオンの様子を見に行く。ボクとまーくんは車内待機。安全が確認され次第、4人で回収作業を行う。作業には装甲車に備え付けの道具を使用し、作業終了時に必ず道具の点検をすること。
単純且つ明快な作業だ。だが、ボクにとっては初めての作業となる。しかし、しかしだ、ここではある程度慣れているという体なのだ。これが厄介だ。作業を経験済みだと思われているからか、詳細は教えてもらえなかった。
どこでボロが出るか分からない。なんともおかしな点に注意しなければならず、変な汗がたらりと額を伝う。
更衣室を出て、駐車場に向かう。大小さまざまな装甲車がずらりと並んでおり、奥の方にはヘリポートが見える。駐車場を管理しているような人と隊長がなにやら今回乗る車について話し合っている。
程なくして、駐車場の入り口から2番目の装甲車のドアが自動で開いた。
「よし、じゃあ待機組から奥に乗ってくれ。おい、あおちゃん、行くぞ。」
「ひぃ。」
ほとんど服の肩の部分を掴まれて引きずられるようにしてあおちゃんが乗り込み、自動でドアが閉まる。




