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白の闘諍  作者: 死者モ
参_浄化
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参-4 47ff47_数独

 部屋に残った3人も、昼食をお茶で流し込んだ。


「さて、今日は午前中に出動があったから、しばらくは暇だと思うが、なんかするか?」

「なにかお手伝いできることはありますか?」

「う~む、如何せん再召集というのは初めてでな。新人なら、会議室に集められてコンタギオンに関する知識なんぞを養うんだが…。」


 ボクは今朝貰った、というか会議室の机に置いてあった資料をぺらぺらとめくる。


「特にそのような予定はないとありますね。」

「う~ん、俺はそこまで頭がいいわけではないですが、実務経験がありますし、今さらコンタギオンの基礎知識講座は遠慮したいですね。」

「ギャングは成績いいから講習なんて受けるまでもないだろうしな。」

「えっ、いやぁ、講習もままならない程度で除隊ですから…。」


 3人寄っての文殊の知恵でも、暇をつぶす案は浮かばず、結局各々で暇つぶしをすることになった。とはいえ、ボクは頼みの参考書を家に置いてきてしまったので、やることがない。母親に部屋に置きっぱなしの参考書を送ってくれるようメールを打ったものの、今すぐ届くわけでもない。


「あの、隊長、ボク、こんなに暇だと思わなくて、なにも持ってきていないのですが…。」

「はっはっ、そりゃあ1区で仕事してたんなら、目が回るほど忙しいわな。ほらよ、これやるよ。」

「あっ、ありがとうございます。」


 手渡されたのは、7~8mm四方の正方形が縦横9列ずつに並び、所々数字がはまっている図が描かれた1枚の紙だ。所謂ナンプレというやつだ。さっき、隊長がなにやら書類を作成しているように見えたのは、ナンプレを解いていたんだ。隊長の机の上をよく見たら、表紙が黄緑色の『ナンプレ 初級』と題名が書いてある本が置いてある。


「しかし、これは隊長のですよね?」

「まぁ、1枚くらいどうってこたぁないさ。またコピーすりゃあいい。」

「えっ、う~んと、じゃあボク、コピーしてきますよ。」

「ん~、まぁ事務室の場所も覚えたほうがいいか。ちょうどいいや、説明してやろう。」


 ホワイトボードに地図を描いてもらって、事務室の説明を聞き、居室を後にする。ひとつ上の階に上がり、3つめのドアの前で立ち止まる。普通の居室と同じようなドアを3回ノックし、小さな声で『おじゃましま~す』と言ったところで、はっ、と気付いた。しまった。入室要項を忘れていた。中からは返事がない。こんな蚊の鳴くような声では返事もくれないのだろう。そもそも聞こえなかったのかもしれない。とりあえず、もう一度ノックし、今度はもう少し大きな声を出すことにした。


「失礼します!」


 しばらく待ってみたものの、返事がない。待ちかねて、そろりとドアの取っ手に手をかける。なんなくドアは手前に開き、部屋には大量の本や資料のようなものが陳列された、天井まで高さのある本棚と、数台のコピー用紙が置いてあった。


 大きな事務用のコピー機は使ったことがなかったが、さすがにタッチパネルに煌々と輝く『コピー』の文字を見れば使い方は自明だ。居住区Ⅰに配属されていれば、最初に2年間訓練をするわけだが、その間に事務仕事や戦闘に関する知識なんかも叩き込まれるらしい。その後、GクラスもLクラスも関係なく一旦は回収係に配属されて現場に出ることを覚え、そこから実際にコンタギオンと闘うための部隊に配置されるというわけだ。


 どうやら今回の再召集は2年間の訓練を終えている人が多く、ボクは偶然飛び級が出来たということか。ただし、回収係への飛び級だ。なんてことを考えながら隊長に貰ったぺらぺらの紙をコピーし、元いた部屋に戻る。


「ただいま戻りました~。」


 そういいながらドアを開け、今度は別のパズルを解いている隊長に原本を手渡す。


「わざわざありがとよ。」

「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。あの、実家に荷物送ってもらうように連絡入れましたので。」

「そうかそうか、まぁパズルはいくらでもあっからよ。」

「ありがとうございます。」


 結局、隊長にいくらかパズルを貰い、解くだけで1日が終わった。昼食とほぼ変わらない夕飯を済ませ、風呂の時間だ。大浴場に疲れ切った男たちがわらわらと密集する。シャンプーやボディーソープ、ドライヤーなどは備え付けてあり、ボクは幼稚園の時に1回だけ経験した宿泊学習を思い出した。そう考えれば、寝室の2段ベッドも宿泊学習のようだ。


 そんなわけで、その日は少しわくわくして床に就いた。この時には幸か不幸かLnodeⅠへの不安はほとんど感じなくなっていた。


 翌日は6時に目覚めた。否、正しくは5時57分に目覚めた。一応6時ぴったりに目覚まし時計をセットしたつもりだったのだが、時計が狂っていたのか、部屋に鳴り響くチャイムが少し早かったのか、目覚めたとき時計は57分を指していた。隊長が『ほげっ』と奇声を発すると同時に、まーくんがベッドから飛び出す。


「おはようございます!」

「んが…んおっ!?……あぁ…昨日2人増えたんだっけな…。」


 隊長が驚き、すぐに状況を理解すると同時に、ボクもベッドを降りてまだ半分寝ている隊長に挨拶をする。


「おはようございます。」

「んあ~…まだ寝てていいぞ…。」

「しかし…起床時刻は定められているはずですが…。」


 まーくんの呼びかけ虚しく、隊長は2度目の眠りについてしまった。あおちゃんはそもそも起きていないようだ。どうやったらあんな爆音のチャイムが鳴っている中で寝ることが可能なんだろう。ボクとまーくんは目が覚めてしまったので、しょうがなく居室の小さな流しで顔を洗い、制服に着替え、ベッドを整えた。


 まーくんの手際はとても良く、感動して見入ってしまう程だ。顔を洗う時でさえ背中が丸まっていない。着替えやベッドメイクは目にも止まらぬ早業だ。


「すごいですね。」


とボクが声をかけると、こちらを見てきょとん、という表情を浮かべる。


「……すごいって、これがか?」

「えっ…あっ……。あ~はい、あの、そういうのも、覚える間もなく…。」


 酷い言い訳だ。LnodeⅠに数か月いた設定なのだから、これくらいボクも出来て当たり前なのだ。ベッドメイクは適当で敬礼すらまともにしたことがないなんて、まーくんが知ったらどうなるだろう。


 小さくため息をついて、寝室から居室に移動するまーくんの後を追いかける。それぞれ隣同士の席について、ボクは隣をちらっと見た。そこで初めて、まーくんの制服に開いた無数の穴を目の当たりにした。それも左胸にたくさん、この距離でなければ見つけられないような、小さな小さな穴だ。


「あの、それって、バッジの穴ですか?」

「ん?あぁ、これか。階級章な。」

「あ、そ、そうですね…。」


 階級章という名前らしい。決してバッジではない。


「これが伍長の階級章の穴、これはLクラスの第2中隊、第5小隊を示す名札を止めてた穴だな。あとはLnodeⅡとか中隊長とか、いろいろだな。」

「なるほど…。」

「ま、今日新しいのが貰えるだろうさ。」


 そういえば、ボクは階級章なんてひとつも貰っていない。穴なんて一つも開いていないきれいな制服のままだ。そうか、Aクラスとは名ばかりで、実験体だから階級章を与えるに値しなかったというわけだ。まーくんのきっちりと着こなされた制服がサトイさんを思い出させる。


 とんでもない墓穴を掘った。服に開いた小さな穴なんて、なぜそんなところに気が行ったのだろう。めまいがする。酷い気分だ。視界が歪み、ふらふらとよろめいて机に手をつく。


「…い、おい、大丈夫か?」

「……えっ、あ、あぁ……大丈夫です……ちょっと、その……もう1回顔、洗います。」

「大丈夫ならいいんだが…。仕事が始まるっていうので、少し精神的に来たのかもな。俺と同期で入隊したやつもそうだったよ。回収係としての初任務の直前になって、ぶっ倒れてなぁ~。」


 これでもう少し丁寧な口調だったら、ますますサトイさんを思い出して気分が悪くなっていただろうが、思い出話を聞いているうちに少しましになってきた。一休みしていると、隊長とあおちゃんが寝室から出てきた。


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