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白の闘諍  作者: 死者モ
参_浄化
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参-2 add8e6_蒼白

 寝室のベッドはどこを使ってもいいと隊長に言われたので、まーくんさんと相談して、2段ベッドの上をボクが、下とまーくんさんが使うということにした。枕元に時計を置きに寝室に入ると、あおちゃんさんがベッドに横たわって携帯ゲーム機を操作していた。


 ボクに気付くと、びくっと肩を震わせ、壁向きに寝返りを打ってしまった。どうやらイヤホンをしていたのでボクがドアを開けた音が聞こえなかったようだ。


「おじゃましま~す。」


 一言小さく断りを入れたが、聞こえていないだろう。ここに長居することはないだろうと思って、大した荷物を持ってこなかったので、まーくんさんが荷解きを終えるのを隣に座って待つことになってしまった。


「ギャングは随分身軽だなぁ。」

「あ、そ、そうですかね?」


 白を切る。服は洗濯機があるからいいが、参考書が少なすぎる。あおちゃんさんの様子を見たところ、携帯ゲーム機が少なくとも3台、机にはパソコン、ノートパソコン、タブレット2台が居座っている。つまり、相当に暇ということだ。


 大した趣味もないボクは、参考書がないと後は寝るくらいしかやることがない。逆に参考書ばかり読んでいたので、入隊試験の筆記は満点だったのだ。


「それ、なんですか?」


 まーくんさんの荷物から巨大な洗濯ばさみのようなものが出てきた。


「これかい?これはハンドグリップといって、握力を鍛える器具だよ。」

「なるほど。」


 次から次へと筋トレグッズが出てくる。どうやらこの人は筋トレが趣味のようだ。ボクが暇そうにまーくんさんの荷解きを眺めているのを見越した隊長が声をかけてくれた。


「おう、ギャングよ、点呼機に登録する署名でも書くか?」

「あ、そうですね。どこに書いたらいいですか?」


 机に置いていたペンを手に取り、隊長の机に近づく。


「あ、おめぇ、それボールペンか?」

「はい。黒色です。」

「いや、悪い。あの機械は古くてな、赤外線式なんだ。」

「あ、じゃあこれはだめですね。」


 ここ10年で人間の文字入力はかなり進歩した。しかし、入力の補助が進歩しすぎて文字を実際に手で書いたことがない世代が現れるだろうという懸念から、紙に手で書いたものを読み取る技術もまた、進歩した。半世紀ほど前に開発された技術は、特定の波長、例えば今ここにある機械で言うと赤外線を照射して、反射した光の量で紙に書かれたものを読み取る技術だ。


 この仕組みの弱点は、光の波長と反射率の設定が限られることにある。特定の光を当て、決められた量の光が反射した時に読み取る仕組みだからだ。光の反射量はペンの種類によって違う。つまり、ひとつの機械に対して決められた種類のペンしか使えないということになる。


 今、赤外線式と呼ばれている装置は、文字読み取り機器の中でも初期のもので、炭素を使用したペンしか読み取ることが出来ない。


「ここに刺してあるぞ。使った後は、ここに戻してくれ。」

「あ、ありがとうございます。」


 隊長の机に、専用の紙束の隣にペン立てがあり、これまた専用の炭素入りペンが指してある。


「お借りします。」

「はいよ。ここに名前書いてくれ。登録は俺がやっとくよ。」

「ありがとうございます。」

「あ、書き終わったら、まーくんの署名も貰ってくれ。」

「分かりました。」

「おい、まーくんよ、ギャングの後にこれ書いてくれ。」

「承知しました。」


 まーくんさんはわざわざ片付けの手を止め、立ち上がり、隊長の方を向き、敬礼をして返事をした。LnodeⅡにいたときの癖だろう。隊長は、んぁ、と気合のかけらもない一言を放った。


 幅5cmほどのクリーム色の長い紙とペンを机に持ち帰り、名前を書いた。我ながら汚い字だ。小学校のときの先生に汚いけれど丁寧な字だねと言われたことを思い出す。まーくんさんの分の余白を空けてなるべく下の方に書いた。


「まーくんさん、次どうぞ。」

「おう、ありがとよ。ここに書けばいいのか?」

「そうですね。あ、そこの上、空けといたので。」

「了解だ。あと、別にまーくんに『さん』は付けなくてもいいんじゃねぇか?」

「う~ん、そうですかね?」

「まーくん自体は隊長のこだわりらしいから外せないが、ここでは同期だしな。」


 そんなわけでまーくんさんはまーくんになった。二人分の名前を書いた紙を隊長に提出し、雑談をしていると、寝室のドアが開いた。奥からあおちゃんさんがちらっ、と顔を出したが、すぐに引っ込んでしまった。


「あっ。」

「なんだギャング?」

「今、あおちゃんさんが…。」

「おっ、もうそんな時間か。というかあおちゃんにも『さん』はいらねぇだろ。」


 あおちゃんさんもあおちゃんになった。隊長は、はっはっ、と軽く笑い、寝室のドアを勢いよく開けた。


「おい、あおちゃん、遠慮するなよ。」


 隊長に手を引かれ、あおちゃんが居室に入ってくる。しかし、ものすごく面倒くさそうというか、恐怖にまみれたような顔だ。遠慮というより人見知りなのではないだろうか。あまり無理させないであげて下さい隊長。


「ほら、ギャングは年も近いだろうし、遠慮せずに、な。」

「ひっ。」


 ボクとまーくんを見るたんびに悲鳴をあげている。


「年が近いって、おいくつなんですか?」

「いくつだった?はたちくらいじゃねぇか?」


 隊長が問いかけると、ますます小さくなって、右手の指を2本、左手の指を1本立てて、21歳であることを示したようだ。


「21だったか。まぁ同じようなもんだろ。」


 隊長が言い終わらないうちに、居室のドア付近からぴー、ぴー、という音が聞こえた。




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