弐-20 f8b500_仲間
がたがたと全員が席を立ち、隊員の宿舎に向かう。ボクも書類を鞄に片付け、立ち上がろうとしたところ、後ろから声をかけられた。
「おい、お前、ファーストに入隊したんだって?」
振り返ると、ボクより二回りほど年上であろうお兄さんが立っていた。ファーストというのは居住区Ⅰのことだ。ファーストセカンドサードの言い方を好む人もいる。確かに、そっちの方が言いやすい。
「はい。でも、適性検査がだめで、すぐに除隊になりました。」
「へぇ~。それならなんで最初からここに配属されなかったんだろうな。」
「ど、どうしてですかね。」
MHC適応0の珍しい検体だったから居住区Ⅰに呼ばれたんです、とは言えない。なぜかGクラスの隊員番号を新しく貰ったので、G適も不可というのも言えないだろう。
「俺はセカンドの配属だったんだが、ちょっと大きいけがをしてな。」
「そうですか。」
「けがする前はなかなか強かったんだぜ?」
「そ、そうですか。」
このお兄さん、と言っても30歳代だろう。どこかで見たな…。なかなかに整った顔立ちだ。
「セカンドの全体演習ではLクラスで優勝して、伍長を貰ったんだが…。」
「あぁっ!」
ボクは記憶がびびっとつながった。この人は、ルキが抗体人形を試した時に演習で優勝していたお兄さんだ!なんと、かなり強そうに見えたが、けがをしてしまったのか。
「ど、どうした?」
「ルキ…さんと闘ってた人、ですよね?演習で。」
つい呼び捨てでルキと言ってしまうところだった。
「ルキさん?あぁ、熾姫のことか。そうだね。あの時は驚いたなぁ。」
「オキヒメ?」
「なんだ、知らないのか。親・熾ルキ派はみんな熾姫と呼ぶんだ。もしかして、配属してた部屋長が反・熾ルキ派だったとか?」
「えっ、えっと、すぐに除隊になってしまったので、よく知らなくて。」
「そうかそうか。」
そういう設定にしておこう。いや、このお兄さんが演習で優勝したところは見ていたと言ってしまったので、そこまでは在籍していたことにしないと。自分で自分の首を絞めてしまった。
歩きながら話しているうちに宿舎の部屋にたどり着いた。なんと、このお兄さんも同じ部屋だった。
「お、お前も同じ部屋か、じゃあ、これからよろしくな!」
「よろしくお願いします…。」
親・ルキ派のお兄さんと同室か…。非常にやりづらいかもしれない。お兄さんが部屋の扉をノックする。しかし、中から返事はない。
「う~ん、出動か、訓練かな。」
「さっき、門のあたりで現場に向かっておられたの、もしかしてここの隊員かもしれないですね。」
「そうかそうか、じゃあ、失礼して。」
がらがら、と引き戸を開けると、事務机が6つ、並んでいた。
「やはり、今は出払っているようだね。ドアのネームプレートは3人しかいなかったから、俺たちの机も十分あるだろう。ま、座って待ってようか。」
「は、はぁ。」
ボクは言われるがまま、空いていた座席に座り、と言っても荷物がなかっただけで本当は空いていないのかもしれないが、貰った書類を眺める。
「そういえば、名前、聞いてなかったな。あ、いや待て、覚えてるぞ、お前最初に名前の確認してただろ、たしか…なんとかミズキ!」
「ミズチです。饗ミズチ。」
「そうか、すまんすまん。よろしくなミズチ。」
言い終わらないうちに、この部屋の住人が帰ってきた。引き戸から入ってきたのは、50手前くらいで中肉中背のおじさんと、びくびくと肩を震わせているボクと年の違わないくらいの青年の二人だ。
「おっ、おめぇらが再召集組か!」
「ひっ…。」
それぞれがボクたちに気付き、一言ずつ発する。間髪入れず、お兄さんが立ち上がり、クソデカボイスで挨拶を始める。
「勝手な入室失礼いたしました!私この度…。」
「あ~やかましい!」
「…はっ、失礼しました!」
「いやだからそれがうるさいってば。」
おじさんはめんどくさそうに応答し、青年はすっかりびびり散らかして顔を覆ってしまった。
「あ~、おめぇ、元々どこに配属されてたのか知らんが、ここは入室要領もねぇし、ちゃんとした訓練もねぇ、ほとんど走り込みだ。ましてやおいらたちは回収係だからな。そんな肩肘張らず行こうや。」
奇しくも、ボクはアットホームな隊に2回も配属されたようだ。なんの奇跡か運命かは分からないが、今回もGクラスの回収係だし、思い描いた軍隊の生活とは程遠いようだ。
話によると、このおじさんは居住区Ⅳ~Ⅵの回収係を転々としているらしい。どこも回収係は訓練もだらだらとしており、おじさんも思い描いたような活躍ができずに悔しい思いをしているらしい。
30分経っても話は終わらない。おじさんの生い立ちなんぞ全く興味がない。
「すいません。部屋の案内をして頂いてもよろしいでしょうか。お恥ずかしながら、お手洗いに参りたく…。」
お兄さん、あ、名前を聞いていないな、とにかくファインプレーです。そして、部屋の案内を聞いた後、ネームプレートを部屋の入口に設置した。初めてお兄さんとおじさん、びびりさんの名前を確認した。
「あと一人はどちらに?」
「あぁ、こないだ辞めたよ。労働力が少なくて困ってんだ。」
「そうでしたか。」
辞めた人のネームプレートを外し、おじさんがボクたち部屋のメンバーに向かい、挨拶をする。
「よし、これでいいな。LnodeⅥ、B支部、第2大隊、第1小隊、新メンバー揃ったな。あっ、LnodeⅥは隊員の人数が少なくて中隊がないがな。とにかく、よろしくな!」
「は、はい。」
「はっ!」
お兄さんはとても威勢が良かったが、ボクは腑抜けた返事になってしまった。
思ってもみなかった第2の軍生活が始まる。本当だろうか。夢じゃないんだろうか。居住区Ⅰの研究部は追いかけてこないのだろうか。なにもかもが謎のまま、新たな生活が始まるようだ。




