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白の闘諍  作者: 死者モ
弐_狂気
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弐-10 507ea4_脱走

「おい!お前!なにをしてる!!」


 しまった。見つかった。どこぞの監視カメラに抜かれていたのだろう。こちらに向けられた懐中電灯の明かりはボクの目にはあまりに明るい。


 しかしボクはこんな簡単なことくらい予想できる。しょぼしょぼする目を無理やり見開き、急いで手に取ったのはスコップと一緒にくすねてきた催涙スプレーだ。本当に中身が催涙スプレーかどうかは分からないが、とりあえずふきつけてみる。


 最初はかすっという音と共に、ただの空気が発射される。やがてガスが発射されると、警備員が悲鳴をあげる。


「ぐあっ、なんだこれ!おい!くそっ、増援を…。」


 もたもたと無線に手を伸ばし、否、増援を呼ぼうとしたのだから無線に手を伸ばしたのだろうという予想だ。暗がりでほとんど見えない。逆に無線は相手側からかかってきたようだ。


「ち、ちょうどよかった、増援を頼む!えっ?いや、こっちは脱柵が一名、はっ?なんだって?待て、今向かう!」


 警備員はボクが脱走しようとしていたのを忘れて、どこかに立ち去ってしまった。助かった。実際、催涙スプレーも本当に効いていたかどうか怪しい。


 さらに掘り進め、やっと人ひとりぎりぎり通れるくらいの穴が掘れた。柔らかい地面で助かった。正面玄関の方は舗装してあったが、宿舎の裏なら敷地のすぐ外が山になっており、舗装もないだろうという予想が当たってよかった。


 上京したときに持ってきた鞄を、柵の向こう側に投げ、スコップと催涙スプレーを捨てて穴に潜る。身をよじり、なんとか脱柵することに成功した。少しズボンが穴の中に置いてけぼりになりそうだったことは秘密だ。


 出られたのはいいのだが、如何せん街中には監視カメラの死角がない。むしろ死角があっては、コンタギオンとの戦闘になったときに時に対応できない。


 しかしボクは仕事で監視カメラの映像チェックをしていたので完璧な抜け道を知っている。それは居住区の外だ。


 居住区の外は人間の住むところではないから、監視カメラがない。そして実は、今ボクの目の前に立ちはだかっている山は居住区の外なのだ。市街地とは違って、山と軍の敷地の境、つまり居住区と外界の境目には鉄壁がない。


 この山を直線的に超えれば空港に行くことが出来る。カメラチェックと人員配置の仕事をやっていて助かった。居住区と外界の境界線は隊員が多く配置されているが、ここは立地的に軍もあるし、山の向こうは空港の滑走路しかないのであまり人もいない。


 山の左手は軍の演習場、右手は外界なので、どちらかというと安全な演習場寄りの左の山肌を進む。


 ボクは今、丸腰で居住区の外をのそのそ歩いているというわけだ。コンタギオンは昼夜関係なく現れる。勤務時間外に出現したコンタギオンはサトイさんが対応してくれているらしく、ボクは見たことがないが、基本的に昼間のものと同じらしい。


 とにかくボクはどんなコンタギオンでも出会ったら終わりだ。否、ただの物理攻撃でも、動きは封じられることは知っている。ボクは、これまたくすねてきたヘルメットと、なぞの槍のようなものを手に持って山に足を踏み入れる。


 管理されていない山道を踏みしめる。ざくざくざくと落ち葉が鳴く。ちらちらと懐中電灯の明かりが揺れる。


 木々の呼吸のせいだろうか、蒸し暑い。しかしヘルメットは外せない。汗だくになりながらけもの道を一歩ずつ進む。


 さわさわという木の葉の笑い声が恐怖心を煽る。すべての音に警戒しなければいけないので、神経が磨り減る。否、本当に神経細胞が磨り減ったら困る。


 そこまで高くない山なので、星の位置を頼りに、小一時間ほど真っすぐ進めば空港付近に進めるだろうという予想が甘かった。満月はもうかなりその位置を落としている。


 滑走路が見えたときには既に空港はその目を覚ましていた。この空港の第1便は朝5時で、それに乗ろうとしている人たちが集まっているのだ。奇跡かどうかは知らないが、山中でコンタギオンには出くわさなかった。


 脱柵した時の、軍の敷地と居住区外の境目と同じように、滑走路と山の境目は鉄壁ではなくただのフェンスだ。数時間歩いてへとへとの脚に鞭を打ち、フェンスをよじ登る。なんとか空港の敷地に入ることが出来た。


 問題はここからだった。空港の敷地に入れたのはいいが、ここは滑走路の端っこである。ここからどうやってターミナルに行くのかということを考えていなかった。滑走路を横切りなんぞすれば一瞬で見つかるだろう。とりあえず滑走路の端っこまでこそこそと歩いて移動してみた。


 休憩がてら打開策を考えていると、なにやら遠くの方で大きな物音がする。次に空港の中からアナウンスのような声が聞こえる。と、次の瞬間、建物から3mほどの巨大なコンタギオンが飛び出した。空港の中に持ち込まれたウイルスがコンタギオン化したようだ。


 しかし、その形はボクが今まで見たどのウイルスにも似ていない。にょろにょろと触手のようなものが生えた球体にどでかい円柱が突き刺さっている。いや、円柱が躯体の中心で球体と触手は移動のためのものなのか?円柱は半透明で、中にコイルのようなものが見える。すぐ側にとまっていた飛行機に触手を伸ばし、びったりと張り付く。


 そういえばここは空港だった。生身の人間が普通にいるところにコンタギオンが発生したとなると、今すぐLクラスの隊員がやってくるだろう。この騒ぎに便乗して空港の中に入ればいい。


 この居住区に住んでいる人たちは普段、買い物も仕事も家から行うため、めったに外に出ることがないらしい。しかし、1日に3便ほど小型の飛行機が離着陸するほどには、他の居住区に移動する人がいる。つまり、空港には外界の空気に触れた人が一定数やってくるので、かなり危険な場所であるということだ。

 

 しかし軍の施設もかなり危ないのではないだろうか、隊員は毎朝外で点呼を取ってから宿舎に入っているし、建物の中なんて雑菌やウイルスだらけだろう。


 とにかく騒ぎに便乗して滑走路の端を全力疾走して建物に向かう。そこまで広くない滑走路だったので、なんとか走り抜けることが出来た。飛行機を引っ張る車の出入り口に到着したころ、軍の隊員も丁度駆け付けたようで、例のごとく殴り合いが始まった。ちょうどよかった、職員も避難しているようで、従業員の通るような道を行ったり来たり、とにかく手当たり次第にドアを開けているうちになんとか誰にも会わずにターミナルまで来られた。


 本当は迷子を装って切り抜けようかと思っていたのだが、騒ぎに便乗できてよかった。トイレに入り、鏡を見て初めて泥だらけの服に気付く。個室で持ってきた服に着替える。遠くから飢えたコンタギオンの暴れる音が聞こえてくる。どーん、どーんと遠雷のような音が響く。


 着替えをすまし、トイレに入る一般的な目的も果たす。ここはシェルターではないので安心はできないが、かなりコンタギオンからは離れているはずなので、とりあえずここに籠ることに決めた。


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