弐-6 00ff00_実験
待てど暮らせど変化はない。ルキ曰く、この実験はすぐに反応が現れるらしい。どうやら、ボクの顆粒球はコンタギオンに微塵も反応しないらしい。
そんな感じで、ボクの白血球を付けたろ紙片はなにも変化しなかったが、なにか視界の端にぼんやり光るものがある。そちらに目を向けると、なんとろ紙片が光り輝いているではないか。
「すご…。」
「これはどっかの伍長さんの血液ね。さっき付けといたのよ。」
「伍長というと?」
「中隊長になると、伍長が貰えるよ。全隊員のうち十数人しかなれないから、結構優秀な血液だね。」
そういえばGクラス戦闘員が闘っているときは、手のあたりが白くぼんやりと光っていた。いつもは昼間や、夜でも街頭に照らされているから分かりづらかったが、こうして暗い所で見ると、かなりはっきりと光が見える。
「顆粒球適応試験って言うんだけど、G適ってやつね、全部こうやって試験されてるのよ。」
「でも、これをどうやって、その、定量的に表すんだ?」
「どうやってって、光の強さは定量的でしょ。」
夜空に輝く星が1等星、2等星と我々人間に見える光の強さで分けられているのと同じように、G適も試験の光の強さによって優、良、可、不可で分けられているらしい。
もちろんボクは不可である。ちなみにこの伍長さんは、ルキとサトイさんが見た感じ、良らしい。かなり強く光っているように思えたが、これで良なのかと驚いた。
その後、キラーTとMHC適応についても試験したが、ボクの結果は全くもってだめだった。
キラーTは自分の血液を専用の容器に入れて爆弾を作るのだが、試験では白血球の検体と爆弾の元を特製の容器に入れて反応させ、これまたしばらく待つ。爆弾の元というのも、今度はコンタギオンの絞り汁ではなく、破片そのものが登場した。
「うえっ。なんだこれ…。」
真っ黒でぶつぶつがたくさんついたカットスイカのような形の破片が登場した。しかもうねうねと動いており、非常に気持ちが悪い。普段は戦闘員が頑張ってこのくらいまで粉々にした後、Lnodeに設置されているゴミ処理場のようなところで完全に消失させられるが、これはその直前にくすねてきたものらしい。
「ルキはいつも勝手に持って帰ってくるんだよ。それも始末書なんだ。」
「大変ですね…。」
「だって、正規の手続き面倒なんだもの。」
「その手続きもやるのは僕じゃないか…。」
「手続き踏んでたら欲しい検体を逃しちゃうじゃないの。」
始末書の話が始まると、決まってサトイさんは、げんなりする。そんなにげんなりするのにやってあげるのにはなにか壮大な理由がありそうだ。そういえばどうしてサトイさんはAクラスにいるのかもボクは未だに知らない。
うねうねの破片に、ボクの白血球をくっつけてもなにも起きなかった。かわりに先ほどの伍長さんの白血球をくっつけると、コンタギオンの破片は四方八方に飛び散った。と言っても、頑丈な容器の中で飛び散ったのだが。
Gクラスの殴打よりはこの爆弾の方が殺傷能力は高いのだが、直接コンタギオンに穴をあけてぶち込む必要がある。キラーTの隊員はその穴を開けるためにコンタギオンに近づき、殴るなり切るなりする必要がある。さらに、もし不発だった場合、爆弾の型だけ学習されてしまい、以降爆弾は効かなくなる。大胆且つ慎重な攻撃が必要だ。
「そんな危険な目に逢ってまで爆弾で攻撃しなくても、直接白血球をコンタギオンにぶっかければいいんじゃないですか?」
「う~ん、距離を確保できれば安全だと思うが…。」
「距離、ですか。」
「あんた、今見たところでしょ。コンタギオンに白血球が付着したらすぐ爆発するのよ?」
「う~ん、防犯用のカラーボールみたいなのに血液を入れればいいんじゃないか?」
「そうだねぇ、それだとコンタギオンの体積1㎥に対して、ボールは1000個ほど、必要になるね。」
爆弾に使われる血液は、日ごろからLクラスの隊員の血液を集め、濃縮したものらしい。そして、いくら濃縮したとしても、コンタギオンがウイルスの場合、その固い殻があるために、外から投げつけても意味がない。結局、爆弾を直接コンタギオンの中に入れ込む方法が一番効率がいいということだ。
「爆弾は2層構造になっていてね。濃縮した白血球とコンタギオンの破片がそれぞれの層に入っているんだ。」
「隊員が被害を受けない位置に避難したくらいの時間で、層を隔てる壁が溶けて、2層が混じり合って、爆発するのよ。」
サトイさんがホワイトボードに描いた爆弾の絵に、ルキが手を加えて説明してくれた。と言いたいところだが、サトイさんの絵の上にぐちゃぐちゃと線を描き、爆発しているような落書きを加えただけだ。
「時限爆弾ってわけか。」
「そうそう。白血球のみを、さっきアイくんが言ったようにカラーボールみたいにして、コンタギオンにねじ込んでみたこともあるんだけどね。」
「うまくいかなかったんですか。」
「ワタシのは上手く行ったんだけどね。」
「そうなんだ。どうやらキラーT細胞にも強さがあるらしくてね。」
白血球の一部のリンパ球。さらにそのリンパ球の1種であるキラーT細胞も、顆粒球と同じように強さがあって、強いものは今まさに動いているコンタギオンをも倒せる。しかし、弱いものは濃縮しても太刀打ちできない。小さい破片なら弱いキラーT細胞でも反応してくれるので、それを利用して爆弾を作っているというわけか。
「強いキラーT細胞を持っている人は、少ないのか?」
「今のところワタシだけね。」
「いや、可能性としてはもう一人いるだろう。」
「ん、そうね。まぁ1~2人ってとこね。」
「そ、そうなのか。」
もう一人が誰なのかというのは教えてもらえなかった。
ここまでの即席授業で、ボクのイメージでは軍隊は格好良くコンタギオンを討伐していたのだが、現実はぎりぎりの闘いを強いられているということが分かった。危険を冒して化け物に近づき、化け物の一部を体に入れたり、爆弾を作ったりしてやっと倒せるかというとそうでもなく、失敗することもある。
と言っても、6~7割のコンタギオンはこの方法で爆発さえしてしまえば倒せる。こんどはサトイさんが目を輝かせ、爆発という単語について語り始める。
「爆発というのも、ふたつの意味があってね。物理的に、コンタギオンの破片とキラーT細胞が反応して爆発するという意味と、日本語の表現として、キラーT細胞の力が増幅するという意味で爆発するという…。」
「ちーちゃん、ちーちゃん、ミズチの顔見て。」
「おっと、すまない。盛り上がってしまったね。」
思わないところでサトイさんのテンションが爆上げになったので、驚いて目が点になってしまった。
「ちーちゃん、日本語大好きなのよね~。」
「分からなくもないですよ。」
「分からなくも、か…。」
むしろ、いつも冷静沈着なので、こんなに興奮するほど好きな分野があることを知れたのは少し嬉しい。サトイさんは苦笑いを浮かべ、少し照れたような素振りを見せる。




