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白の闘諍  作者: 死者モ
弐_狂気
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弐-5 e73562_講義

「あら、遅かったわね。」

「洗濯物、片付けてたんだ。ルキ、昨日、研究棟の天井裏を這いずり回って、汚れ付けてきただろう。」

「げっ、後で洗い直すわよ。」


 ルキはふん、と少し不機嫌に向こうを向いてしまった。そのルキの奥にはなにやら、いかつい洗濯機の様な機械や、たくさんの試験管、それに定食屋の店先にあるようなショーケースが並んでいる。棚にはたくさんの瓶やフラスコと、いかにも実験室っぽい。一方で普通の食品用の冷蔵庫が置いてある。


 ルキは、とことことその冷蔵庫に向かい、がばっと一番大きなドアを開ける。


「ほら、ミズチ、これが昨日あんたから採れた血よ~。」


 ボクが乗り気でないのをおもしろがってにやにやしながら、冷蔵庫に手を伸ばす。血を見なければいけないのかという危惧は、危惧で終わった。なぜなら、血を血たらしめているその色が、すっかり変わっていたのである。


 なんでも、実験で使用するのは白血球のみであるから、他の成分と白血球を分離したというのだ。


「そんなことが可能なのか?」

「あら、だいぶ昔からある古典的なやりかたよ?これに入れてスイッチ押すだけ、簡単遠心分離よ。」


 洗濯機のような機械は、見た目だけではなく、機能も洗濯機と同じように、内側がぐるぐると回るらしい。たくさん穴が開いており、そこに血液を入れた容器を刺して高速で回転させると、重さの違いで沈むものと浮くものとに分けられるという仕組みだ。


「それで、これが白血球成分だけを取り出したものよ。」

「へぇ~。ほんとに白血球だけなのか?」

「何回洗ったと思ってるのよ。ちゃんと白血球だけよ。あ、バッファーも入ってるけど。」


 洗ったと聞いたので、つい洗濯物のようにじゃぶじゃぶ洗ったのかと想像してしまった。そうではなく、緩衝液という液を加えて、何回も遠心分離させ、要らない部分を捨てるというのを『洗う』というらしい。否、じゃぶじゃぶ洗うと言っても間違いではないか。


 10センチほどの細いプラスチック製容器に入ったボクの白血球を、けったいな装置の付いたスポイトのようなもので吸い上げる。


「いいミズチ?このろ紙は白血球の中でも顆粒球、つまり、好中球とか好酸球とかね、それがコンタギオンをやっつけるパワーを持つかどうかを調べられる加工がしてあるわ。」

「加工…。」


 ルキがろ紙に液体を数滴垂らす。机にマグネットで張り付いている真っピンクのキッチンタイマーをセットする。どうやらしばらく待たないと結果は得られないらしい。待っている間、Gクラスの戦闘員がどのように闘うのかについての講座が始まる。


「他のクラスでは授業みたいにして教えるんだけどね。」

「あんなクソ座学より実際に見たほうが100倍分かりやすいわよ。」

「ルキはいくつか講座を持っているんだが、あまり乗り気じゃなくてね。」

「そうですか…。」

「全員聞く気ないもの。いらいらするわ。」


 そりゃ、軍の訓練の一環なのだから、隊員たちは屈強そうなおっさんが出てきてなにやら物騒な話が始まるのを期待するだろう。年端も行かない少女が現れて、つらつらと専門用語を並べられても…。ボクがもし生徒になったら聞く気にならないだろう。


 サトイさんが小さなホワイトボードを手にして説明を始める。


「我々はコンタギオンに対面した時、まずコンタギオンの一部を切り取って型を調べる。そのとき採取したコンタギオンの一部を、指先なんかに注射したりすると、それが引き金になって顆粒球が集まるんだ。」

「コンタギオンを自分の中に入れるんですか…。」


「残念ながら、今はその方法が最適とされているよ。」

「かわいそうね…。」

「Lクラスは、キラーTも飛び道具隊員も、体内にコンタギオンの破片を取り込む必要はないんだ。デバイスを通して自分の免疫を増幅させられるからね。でも、Gクラスの隊員は立場も実力も弱いから、危ないことをさせられているんだ。」

「そうですか…。」

「自分の体に取り込むなんて、危なすぎるわ。だからワタシとか研究部が、もっと顆粒球の力を安全に応用できないか研究してるのよ。」


 化け物の一部を自分に注射してまでGクラスの戦闘員は闘っているのか…。少し深刻な空気になった。サトイさんはひとつ咳払いをして続ける。


「そして、この集まった顆粒球がどのようにダメージを与えるのは分かるかな?」

「お勉強得意なんだからわかるわよねぇ。」


 ルキお得意の煽りだ。こちらも負けじと必死についていく。


「もともと、顆粒球は病原体を体の中に取り込んで、顆粒がその病原体をばらばらにするんですよね。」

「それで?実際に集まった顆粒球はどうするんだっけ?」


 今から言おうとしていたんだよ。


「病原体をばらばらにする力、つまり分解作用が増幅して、コンタギオンに攻撃を与えられるんですよね。」

「その仕組みは僕たちもよく分からないんだけどね。体内にいれたコンタギオンの一部が引き金なのは間違いないんだが、人間の神秘だね。」

「神なんてそんな非科学的な話じゃないはずよ。絶対証明できるはずだわ。」


 ルキは下を向いて、どこか悔しそうな表情を浮かべる。コンタギオンに対する怒りなのだろうか。右手に持っていた装置付きスポイトのボタンを力強く押す。すると、スポイトの先端がぱぁんと飛んで行った。


「あっ、こらルキ、チップに検体が残ってるかもしれないのに、飛ばしちゃだめだろう。」

「それ、取れて大丈夫なものなんですか?」

「ピペットマンって知らないのね。まぁ、知らないか。いろんな液体が混ざったら困るでしょ。だから先っぽだけ、付け替えられるのよ。」


 少しドヤ顔になり、ボタンをかちかちと空押しする。さらにピペットマンとやらの説明が始まった。どうやら目盛りを調整することで1マイクロリットル単位で、吸い上げる液量を変えられるらしい。


 目をきらきらさせて説明しているところを見ると、どうやらルキは相当科学オタクらしい。吸い上げは自動で行うというのを非常に強くアピールされたが、いまいちすごさは分からなかった。


 このままだと、他の装置の説明も始まりそうだったので、ボクは先ほどから気になっていたことを質問してみることにした。


「仕組みが分かっていないのに、この紙切れ一枚で調べられるのか?」

「ん?さっきちーちゃんが言ったじゃない。」


 さっきっていつだよ。ボクはう~んとうなり、少し考えたが、サトイさんもよくわからなさそうな表情を浮かべていたので、諦めることにした。


「サトイさん、なにか言ってましたっけ…。」

「いや、分からないな…。このろ紙にはコンタギオンの破片を溶かした液が染み込ませてあるんだよ。」

「あ、なるほど。」


 ボクは手をひとつぽんとたたいた。


「コンタギオンが原因となって、分解作用の増幅という結果が得られる…。」

「そうね。過程は分からないけど、因果関係は分かってるんだから、それを使えばいいのよ。」


 つまり、どうしてそうなるかは分からないけど、とりあえず顆粒球とコンタギオンをくっつけてみれば、反応の有無が分かるというわけだ!


「それで、その分解作用が増幅しているかどうかは、どうやって確認するんだ?」

「うふ、勉強熱心ね。」


 今週1の笑みだ。ボクでなければかわいさの暴力で死んでいただろう。とりあえず、今回の講座で分かったことは、ルキは自分の好きな話になると大体ご機嫌で、しかもドヤ顔でボクに説明できると来たら、超ご機嫌になることだろう。


 百聞は一見に如かずと言わんばかりに、ろ紙片をボクの方にずいと突き出す。椅子から立ち上がり、どこに行くのかと思ったら、電気をぱちんと消す。


 すると、ろ紙片は、なんと、なにも変化は見られなかった。


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