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白の闘諍  作者: 死者モ
弐_狂気
20/73

弐-3 c9171e_鮮血

「あ、あの、すみません。」

「なんだ小僧。」

「えと、採血ってどれくらい取りますか?」

「1000mlだ。」

「せっ、1000!?」


 献血でも400かそこらなのに1000mlも持っていかれたらどうなってしまうんだろう。貧血で倒れるのではないだろうか。まさかそうなったときの輸血と称して抗体導入実験を行うつもりなのだろうか…。


「あの、気を失って、し、しまわれたら、こちらに、輸血パックが、あり、ありますから。」

「それ、もちろんMHC適応を示す抗体、入ってますよね。」

「ちっ、勘の鋭いやつだ。」


 どうなるか誰も知らない人体実験をさせられると分かった絶望は表現のしようがない。助けを求めてサトイさんをちらっと見ると、なんと電話をしており、こちらは見ていない。忙しい人だからしかたがないか、とほほ、と思い全てを諦める。


 なんだか連日死を予感しているなぁなどと能天気に考えていると、なんの声掛けもなしにぶすりと採血用の針を刺された。


「い゛っ…。」

「す、すみません、針が、太いですから、おき、お気を付けください。」

「今さら…そもそもあなた、人に針を刺す資格、お持ちなんですか?」


 ボクの質問も今さらである。現場の空気が一気に張り詰める。


「まずいですよ。元帥の娘にばれたらどうするんですか。」


 ちんちくりんは心配性なのだろう。ボクは、はぁ~、とひとつため息を吐いた。


「おい小僧。」

「すみません。ボクには名前があります。小僧ではありません。」

「なんだと生意気な。おい、今すぐ点滴に切り替えてもいいんだぞ。」

「せ、先輩。」


 ちんちくりんが指さす方をみると、サトイさんがガラスの向こうで、鬼のような形相で睨んでいる。これが軍の中枢の本気か…。流石にさっきまで威張っていた眼鏡も


「あ~、まぁ、生食打ってやるよ。」


 献血なんかをしたときには、水分を摂取することで貧血や失血性のショックを予防するらしいが、採血をした後に生理食塩水を点滴で打つのだろう。あぁ~やだなぁ。と思っている間に、あれよあれよと準備は整い、献血のときに使う装置が設置された。採血が始まる。


「さ、採血、はじめました。」

「そういえば、お嬢様は来てないんだな。当たり前か、ATBのゴミに執事の野郎が付いてきてくれただけ感謝しな。」

「ATB?」


 ボクが不思議そうに尋ねると、3人ともきょとん、とこちらを見ている。デジャヴだ。これはどこかで体感した。そうだ。入隊式の日。


「おいおい、こいつ、ATBも知らないのか。」

「先輩、こいつ、居住区Ⅵですよ、出身。」


 ちんちくりんが手に持っていた紙の資料をぺらぺらとめくる。


「ほ~、ま、居住区ⅥにはATBはいないもんな。」


 眼鏡が、かっかっかっと笑う。


「お前もどうせ、いつものAクラスのクソ野郎どもと同じだ。実験体にな…。」

「あら、ミズチはクソ野郎じゃないわよ。」


 全員がびっくりして部屋の入口を振り返る。しかし、人影はどこにもない。そういえば声は入り口からではなく、上の方から聞こえてきた。おや…?なんだかデジャヴ…と思って上を見ると、天井の一部が剥がされ、ルキが顔を出していた。


「こっちよ、こっち。」


 その声でようやく3人のおじさんたちもルキの存在に気づいたらしく、意外にも眼鏡が真っ先に腰を抜かしてしまった。薄毛が逃げようと、動き出した瞬間、ルキはしゅるりと穴を抜け、薄毛と、今まさに薄毛が向かっていた部屋の入口の間に着地した。


 今日は昨日みたいに天井ごとではなくルキだけが落ちてきた。しゅたっ、と華麗に着地を決めると、ゆっくりともったいぶって立ち上がり、にたりと笑った。


「ミズチの処置中でしょう?どこに行くのかしら?」


 かわいそうに3人とも悲鳴をあげ、縮こまってしまった。ルキはわざとらしく、眼鏡にしゃべりかけ、先ほどの会話を続ける。


「ミズチはこのワタシが名前を覚えてるんだもの。いつものAクラスの子とはちがうのよ?」

「ひぇ、あの、私はですね、あの~その、そういうわけで言ったつもりでは…。」

「じゃあどうゆうわけよ?」

「ひぃ…。」


 きっ、と眼鏡のおじさんを睨み、ボクに接続された装置を確認する。


「1000は取りすぎよ、失血性ショック確実ね。輸血パックもちゃっかり用意して…。だから研究所は嫌いなのよ。小賢しい。」


 ぴぴっ、と設定を変え、ボクが寝ているベッドにどすんと腰を下ろす。さっと身をよじり、座る場所を開ける。危うく手のひらでおしりをキャッチしてしまうところだった。


「あ~、さっきはごめんね。その、いろいろあるのよ。」


 ボクは心の中でごめんなさいサトイさんに聞いてしまいました、と呟く。ルキは気まずかったのか、さっとおじさんの方を振り向くと、矢継ぎ早に喋りはじめる。


「あんたたち、どこに許可貰ってこんなことしてるの。どうせここの所長でしょう。ミズチの体はLEUKの保護対象レベル5の申請中よ?…は~ん、なるほどね、申請中ならまだ保護対象じゃないってことね。普段使ってる実験体と同じ扱いになるわけか…。考えたわね。」


「そっ、そうなんです~、まだ保護対象でもないですし、ただの検査ですから、お願いです、クビだけは…。」


 ちんちくりんが分かりやすく手でごまをすって応答する。眼鏡と薄毛は完全に腰を抜かしてぷるぷる震えている。ボクはなぜか、最後に残ったちんちくりんを応援したくなってきた。


「甘いわね~。民間人なら本人の同意だけでいいんだけどなぁ~。軍の人間は、どうだっけ?」

「あ…。」

「Aクラスの大隊長に通達、来たかしらぁ?おかしいわね~。」


 あぁ、ちんちくりんさんの敗北が決定したようだ。涙目になり、小声で、クビだけは、クビだけは、と唱える。


「軍のトップにも話を通さないとね、軍のトップってだれだっけ~?」

「え、ルキ、軍全体のトップなのか?」


 思わず口を挟んでしまった。


「あら、知らなかったの、軍総長、熾ルキ様よ。」


 にこっと笑い、軍のトップであることを示すリボンを指さす。


LEUKにはコンタギオンと闘う軍隊の他に、この建物で働く人たち、すなわち研究部や、負傷した兵士を癒す医療部、学術的なことを研究したり、兵士に教えたりする学芸部、それから、Lnodeから指示を出したり人員の配置を考えたりする司令部や、全体のトップに立つ幹部などがある。という話を延々と続け、さらに、これらの部署のトップはほとんどルキとサトイさんが務めていると自慢げに語っていると、採血が終わったことを知らせるサインが鳴らされた。


「よし。まぁ、これは没収ね~。」


 なぜかご機嫌になったルキは、慣れた手つきで機械からボクの血液が入ったパックを取り出し、おじさんたちの前でゆらゆらさせながら煽る。


「検体は没収だし、クビになるし、かわいそうね~。」

「ちょ、ちょっと。その人たち、これだけでクビになるのか?サトイさんも見てたし…。それはさすがにかわいそうじゃないか?」

「ちーちゃんはミズチが実験に使われること、ワタシが知ってると思ったのよ。だから許したのね。だけど実際には、研究部の勝手な行動だったわ。さっき電話貰ったの。」


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