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白の闘諍  作者: 死者モ
弐_狂気
18/60

弐-1 fff3b8_昼食

 翌日、目が覚めたときにはかなり太陽が高く昇っていたようだ。完全にいつもの始業時間を過ぎていたので慌てて支度をする。実際、昨日は夜も遅かったので明日の始業時間の取り決めはなかったのだが。


 制服の上着を引っかけてリビングに飛び出すと、いつものようにルキがテレビゲームをしている。


 しかし、今日はいつもなら午前中は居室にいない曜日のはずだ。


「今日は外出じゃないのか?」

「ん?あぁ、そうね、今日は合同訓練ね。…。あ~、あのね、昨日の人…。」

「リカって人か。」


 ゲームの方に意識が集中しているので、返答が鈍い。


「そ。つい…かっとなってね。昔のワタシを見ているようだったわ。」

「そう…か。」

「それで…。殺してしまったでしょ。」


 やけにあっさり言うもんだ。


「いや、まぁ…ね。自己防衛で通せると…思ったのよ。だめだったわ。」

「つまり…その、どうゆうことだ?」

「にぶちんね~。謹慎よ、謹慎。今日は外に出られないわ。」


 一緒にいたボクにはなにもお咎めはないのだろうか…。


「あ、ミズチ、あんたにはペナルティはないわよ。」

「そうか、よかった。」


 またもや心の中を読まれた、というか顔に出ていたようだ。ルキがボクを横目にちらりと見て、少し心配そうな顔をする。


「あとね、お友達、なにくんだっけ。」

「しゅうぞーか?」

「そんな名前だったっけ。その子はもう地元行きの飛行機の中よ。」

「そうか…。」

「あ、伝言預かってたわ。」


 ゲームを一時停止させ、書類が堆積している棚をごそごそと探す。


「ここじゃないわ。」


 めんどくさそうにう~ん、とうなり、ソファーから立ち上がり、寝室に入る。なにやらサトイさんと口論している声が聞こえてくる。ドアをばん、と開けて出てきた時には両頬を膨らまし、不満を表していた。


「ちーちゃんったら、ちょっと『制服どこ?』って聞いただけなのにぷりぷりしちゃって、更年期かしら。」

「いや、それは、ルキの始末書を書かされているからでは…?」


 図星だったようで、むすっ、と黙り込んでしまった。そもそもサトイさんは更年期には見えない。20代前半か、ボクらのひとつふたつ上くらいだろう。


 ルキは風呂場に入り、自分の制服を持って出てきた。またもやごそごそとポケットの中を探ると、4つに折りたたんだ小さな紙切れが出てきた。ぽいっとボクに渡し、読めというジェスチャーをする。持っていた制服はハンガーにかけ、乱雑に棚へ引っかけた。どすん、とソファーに座り、ゲームを再開する。先ほどまでモンスターから離れて弓矢をちまちま当てていたのに、ストレス発散するかのようにモンスターに近づいて殴り始めた。



 ボクは紙を広げ、中身を見てみた。


「ミズチへ。ありがとう。お前のおかげで俺は生きて帰れるよ。」


 その一言だけだった。一言だけでもボクはしゅうぞーが感じた辛い気持ちを十分受け取ることができた。ボクなんて随分いい扱いをしてもらっている。普通に世の中に出たら田舎者なんてやっていけない。それだけ今の時代は都市部と田舎で格差が生まれているということだ。しゅうぞーには地元で元気に暮らして欲しい。


 ボクは少し涙を流した。ルキはちらりとこちらを見て、それに気づいていたようだったが、ゲームに集中して気付かないふりをしてくれた。


 お昼時になってもサトイさんは部屋から出てこなかった。


「おなかすいたわね~。ちーちゃんまだかしら。」


 ちょうどルキも腹が減っていたようだ。


「げっ。忘れてたわ。さっき怒らせたから、ワタシがご飯作らないといけないんだった。」


 さっきというのは、ものの30分前の話である。お嬢様はどうやら記憶力がよろしくないらしい。


「なによ。作ればいいんでしょ、作れば。」


 まずい、これ以上怒らせてはボクの命が危ない。昨日の恐怖に匹敵する。


「ボ、ボクが作ろうか?」

「なんなのよ、ご飯くらい作れるわ。」


 会話の選択肢を間違えたようだ。バッドコミュニケーションだ。


 手伝いも制止され、リビングで待とうにもなにもすることがなく、かと言って自室に帰ることもできず、ソファーに座り、爪の甘皮をいじりながら待つ。さすがに時間を持て余したので、自室から参考書を持ってきて読んでいると、20分ほどでなにやらいい香りがしてきた。


 登場したのは、今まさに地獄の窯ほどぐつぐつと煮えたぎっているグラタンである。怒りが沸き上がっているということを料理で示したいのだろうか。というか


「料理できたのか…。」


 はっ、とした。口に出てしまった。とっさに誤魔化す。


「いや、その、普段見ないから。」


 取り繕ってあわあわしているボクを横目に、意外にも


「いただきま~す。」


とご機嫌でグラタンをふーふーしている。どうやら上手くできたようで、一人で勝手にご機嫌になってくれたようだ。


「ん~、おいしい~。ほらあんたも食べなさいよ。」


 口に出さないように気を付けながら、なにか変なものとか入っていませんように、と願い、皿にスプーンを突っ込む。大量のチーズの島を掘り、ホワイトソースの白い海に突入すると、噛み応えの少ない伸びたスパゲッティーが沈んでいた。


 そういえばルキは麺類は伸びている方が好きだったんだ…。サトイさんはボクに気を使って普通の茹で時間にしてくれるのだが、ルキはいつも不満気だ。自分で好みの茹で具合にできたからご機嫌になってくれたのか。


 よかったよかった。と思ってルキの表情を見ると、いつの間にかしょんぼり顔になっていた。ボクの血の気が全員どこかに行ってしまった。


「どっ、どうした?」

「最近ちーちゃん怒らせてばかりだわ。ミズチに合わせてか、茹で加減もワタシ好みじゃないし…。」


 なんと理不尽な言いがかりなんだ。しかし本来なら怒らせないようになにか慰めるのが筋だろう。しかしボクはなぜか、あろうことか


「は~ん、サトイさんをボクに取られたのを気にしてるのか。」


と煽ったのだ。しまった、と思ったときにはもう遅かった。大声で騒がれるかと思ったが、無言ですっと立ち上がり、寝室に入った。5秒ほどで再び部屋から出てきた。その手にはLEUKのエンブレムがあしらわれたカードキーが握られていた。カードキーを部屋着のポケットに押し込み、スプーンとフォークとグラタンの皿を持って818号室を出て行った。



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