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白の闘諍  作者: 死者モ
壱_洗礼
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壱-11 7d7d7d_旧友

「これは…。また無断発砲、か?」

「はぁ~、もう~やんなっちゃう。ミズチ、ちーちゃんに連絡して。ワタシはLnodeに指示入れるわ。」


 ぽいっと渡されたケータイは先ほどサトイさんに電話をかけた画面のままで、そのままもう一度通話ボタンを押した。


「あ~もしもし?見てた?」

「あ、スイマセン、ルキは今Lnodeに連絡入れてます。なにかお伝えすることありますか?」

「お、アイくんだったか、すまん。」

「いえ。」

「まぁ今回も流通元とは無関係の下っ端の仕業だろうから、ルキに任せるよ。」


 はぁ、と返事をして電話を切ると、ちょうどルキも本部に連絡を入れ終わったようで、ふぅ、と一息ついた。


「ルキに任せるってよ。」

「そ、じゃあ直接捕まえようか。」

「え。」


 と返事をしたものの、ボクが入隊してから隊員が出動する戦闘の3回に1回ほど無断発砲があり、そろそろルキも頭に来ていたのは分かっている。軍で統制されるべきものが民間の手に渡り、勝手に使われているということはルキにとって名誉が傷つくことだとサトイさんに教えてもらった。


「角度からして…。あのビルね。」


 ぶおん、と車の目が覚める音が鳴り、2秒後には恐怖のジェットコースターが始まる。コンタギオンから逃げたときと同じように右へ左へ路地を曲がり、とある灰色のビルの前にたどり着いた。


「降りるか?」

「だめよ。まずビルの入り口を開けてもらうの。」


 そう言いながら無線を取り出し、ダッシュボードに張り付いているたくさんのボタンを手慣れた様子で操作する。同時に手元のケータイをついついと操作する。


「こちらAO01、Ⅰ-32地区、4丁目5番のビルに繋いでちょうだい。」


 相手の応答を待つ間、フロントガラスからビルを見上げる。発砲のあった地点を確認しているのだろう。


「了解。…もしもし?こちらはLUEK軍、A部隊長、AO01オキです。今すぐビルの入り口を開けなさい。さもないと軍からペナルティが課されます。ええ、分かっているでしょう。軍に抗うとどうなるか。どこの出口も監視されていますよ。…ええ。」


 ぴっ、と通話が切れる音がして2分ほど待つと、ビル1階の重そうな鉄製のドアがゆっくりと開いた。


「行くわよ。」


 ルキはコンソールボックスを開け、拳銃を取り出した。ボクは少しぎょっとしたが、そういえばボクたちは軍だったと思いだした。ルキはドアを開けた20代前半であろう茶髪のお兄さんの胸に拳銃を押し付け、


「ご苦労様。」


と冷たく言い放ち、すれ違いざまにお兄さんのうなじを銃のグリップでごんと殴った。膝から崩れ落ちたお兄さんを尻目にルキは正面の階段を上る。ボクもそれについていく。4階まで駆け上がったのでかなり息が上がってしまった。明日からジムを使わせてもらって鍛えよう。ルキは全く息が上がっていない。どんなトレーニングをしたらそうなるんだ。


 ごん、とドアを蹴破るとそこには若い男が一人焦った表情を浮かべてこちらを見ていた。男はこちらに気が付くと、ひどく驚いた。


「おっ、お前…ミ、ミズチか!!???」


 ルキが、がばっ、とこちらを振り返る。ボクは暗がりで男の顔をまじまじと見つめた。そいつはボクと同郷の、今年から居住区Ⅰの民間企業で働いているはずの友人だった。


「しゅうぞー…こんなとこで何してるんだ?」

「聞いてくれミズチ、俺は望んでやったんじゃ…。」

「黙りなさい。」


 言い終わらないうちにルキがしゅうぞーの顎に銃を突きつける。


「おい、ボクの友達だぞ。」

「関係ないわ。さっき使ったもの出しなさい。」

「ミズチ、頼む、見逃してくれ。こいつなんとかしてくれよ。」


 どうやら奴はボクとルキが普通の同僚に見えたらしい。否、今は制服も着ていないし、実際のところ同い年だから無理もないだろう。


「軍のトップの娘になんてこと言うのよ。」

「げっ、あんた、噂のお嬢様かよ。」

「は~ん、そうか、あんたもミズチと同じで上京してきたばっかりだからワタシの顔知らなかったのね。」


 ぐいと拳銃を突きつけられたので耐えかねて、近くの机の引き出しからライフルのようなものを取り出した。弾を詰める所に透明の液体が充てんしてある。


「いつもと同じマークね…。そうね…同郷の仲みたいだし、どうゆういきさつでこれ使ったのか、聞き出しといてちょうだい。」


 そう言うとルキは部屋から出て、ドアをばたんと閉めた。ルキなりの気遣いだったんだろうか。


「頼むミズチ、見逃してくれ。俺はあんなことしたくなかったんだ。」

「落ち着けしゅうぞー、まず、勤め先はどうしたんだ?」

「1週間でクビになったんだ…。田舎者だからってバカにしやがって…。」

「そうか。その気持ちはよくわかるぞ。」

「お前もいじめられてるのか?」


 いじめられていはいないが…。そう思うとルキとサトイさんは田舎者だからといって特になにも言わない。よく考えたら入隊式の日に他の隊員に笑われたくらいだ。


「でもどうしてこんな危ないことしたんだ、しゅうぞー。」

「しょうがなかったんだよ!」


 俯いていた顔をぱっと上げ、少し憤る。すぐまた俯き、ぼそぼそといきさつを語り始める。


「しょうがなかったんだ…。居住区Ⅰはなにもかも高くて、仕事がなかったらメシが食えねぇんだ。ははっ、軍はメシも住むところもなにもかもあるだろうな。笑ってくれよ。」

「LUEKだってきっちり働かないとメシは食えないさ。」

「でもミズチ、都会の食いもん、あるだろ?あのびちゃびちゃした栄養食。」


 びちゃびちゃした栄養食?入隊してから今までそんなものが食卓に上がったことはない。


「なんだ、それ…?」

「軍ではもっといいもん食ってんのかな?とにかくクソ不味い栄養食しか売ってないんだ。でもそれが高くて高くて…。」


 言葉を詰まらせる。しかし栄養食なんて一度も見たことがない。


「それで、夜にふらついてたら、割のいい仕事があるぞって声をかけられたんだ。」

「なるほど…。でも望んだわけじゃないってさっき…。」

「そりゃそうだろ、金があったらこんなことしてないさ。それに知らなかったんだ、直前まで聞かされなくて。」

「でもこれがいけないことだってのは知ってたんだろ?」

「……いや、正確には知らなかった。けど、ミズチがあんなに苦労して軍に入ったのに、勝手にこんなこと…、許されるわけがないって思ったよ。」


 しゅうぞーは目に一杯涙を浮かべて、地面に座り込んだ。否、座り込んだのではない。土下座しようとしている。


「ほんとにすまん!頼む!見逃してくれ!」

「やめろよしゅうぞー、頭上げてくれ。」

「見逃してくれ…。頼む…。」

「出来ることなら見逃してやりたいよ…。でも、でもな、やっちゃいけないことはやっちゃいけない……。」

「タイムアップね。」


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