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濡れ手でギャル  作者: こよみ
花咲冬花編
8/15

8話 花咲冬花は手に入れたい


 この男は見た目以上に厄介そうだ。慎重に言葉を選ばなくちゃいけない。

 

「ううん、全然待ってないよ? 話ってなにかな?」


 まずは相手の出方を伺う。右に行けば右に合わせるし、左に行けば左に合わせる。今までそれをやってきた。


「まずはそのクソブサイクな仮面をとりなよ? 本音で話し合おうよ花咲冬花さん」


 最初から挑発してきたか……。それとも、これが素なのだろうか……。まだ分からないから様子を見るしかない。


「仮面って何のこと? それに本音って何?」


 どう返してくるか見物だな。何時も通りに可愛く小首を傾げてみたけど、多分、通用しないだろう。


「なるほどね……。何時もその感じでいってるんだ? なら、仮面を被ったままで良いや。そのままで僕の話を聞きなよ」


 やはり通用しなかったか。当たり前だ、この男は私のことなんて端から見ていない。興味が無いといった様子だ。


「僕はさぁ……瑞人が大好きなんだよ。こんな性格ひん曲がっている僕と、友達になってくれたのは瑞人だけなんだよ。そんな瑞人がどうやら最近悩んでいるようでね? 僕はその悩みを解決してあげたいけど、この問題は瑞人自身で解決する問題だと思うから、我慢しているんだけどね? でも、ちょっとだけ手助けしたいから話合いに来たんだけど……。……あっ、ごめんね? 話が長くなってしまったよね? 僕が結局言いたいのは……本当を知らないお前が、瑞人の本当を奪おうとするんじゃねーよ」


 こっちがこの男の素か……! それにこの男、私になんて言ったの……? 私が本当を知らないって……!! 

 

 ……駄目だ冷静にならなくちゃ。ただの挑発だ……。軽く流せば良い。


「さっきから何を言ってるの? 私は本当を知ってるし、持っているよ?」


「あははは! それ本気で言ってるの? だとしたら、お笑い草だね?」


 この男……! 何処までも私を挑発してくる……! 乗ってはいけない……乗っては……


「知らないなら教えてあげるよ。君の周りの物は全て偽りや見せかけだ。そうやって、君は今まで生きてきたんだろう?」


「──っ!! お前に……! お前に何が分かる!! どうせお前は平凡な家庭で平凡にのうのうと生きてきたんだろ! 私は違う! 母さんと父さんが毎日喧嘩して! 挙げ句の果てには……っ!!」


 わ、私は何を口走ろうとしていた……? つい、むきになって感情のまま話そうとしていた……。一回落ち着かせないと、これまでの全てが無駄になる。


「そこに花咲冬花の原点があるのか……。良く分かったよ? あと、それと……仮面被ってない方が僕は好きだけどね」


「お褒めの言葉、ありがとう。ごめんね、寒くなってきたし私はそろそろ帰るね?」


「うん、そうだね。じゃあね、ばいばい」


 私に背を向けて立ち去っていく。その背中を見て、私も家に向けて歩いていく。

 今日は失敗だった。終始ムカついてしまった。うろたえてしまった。


 これじゃ、相手にヒントを出し続けているようなものだ。次こそは上手くやる……。


 そして、いつか───私は本当を手に入れる。



◇◇◇◇◇◇


 俺が友人を連れて来たことによって、今日の夕飯は気合いが入ってて、とても豪勢だった

 夕飯を作っている時の母さんの嬉しそうな顔を見ていたら、こっちまで幸せになった。


 俺の家は父さんが仕事で遅く、姉も仕事で遅い。

 姉の仕事が辛いと言ってビールを飲んでいる姿は、最近、父さんに似てきているのは内緒だ。多分、言ったら怒るから。




 そんな姉が今日は早く帰ってきた。仕事が早く終わったらしい。俺を見るなり絡んできた。


「おーい瑞人ぉ? とりあえず、風呂入ってくるから、ビールとビールとビール用意しとけよ?」


「何で俺が……ってもういねーし……」


 姉を一言で表すならば自由な人。家では俺をこき使い。俺が何かと注意しても、「断る」と屁で返事をしてくる始末だ。


 「私の辞書に自由以外の文字はない」とまで豪語していたに、仕事をきちんとやってきてるのが、未だに信じられない。


 姉のために、優しい俺はビール三缶を用意しといた。そして、ソファーに寝転がり何気無くテレビを見始めた。


「おっすおっす! 上がったぞー!」


「体と髪の毛ちゃんと拭いてこいよ……。床がびちょびちょじゃねーか……」


 何時もながら、この姉は体と髪の毛をちゃんと拭いてこない。しかも、下着姿だ。色気もクソもないな。

 だから、この歳になって彼氏の一人も出来ないのだろう。


 この憐れな姉に、どうか救済の手を……アーメン。


「何拝んでんだ? まぁ、そんなことよりビールだ……ビール……」


 ビールに手を伸ばそうとしていた手が止まり、方向転換して俺の方に向かってきた。


「おい、瑞人! あれはどういうことだ……!」


「いや、ビールだろ? ビール三缶……」


「あたしがなぁビールとビールとビールって言ったら……夕飯とビールとおつまみだろうが! 何故分からん!」


「分かるかボケ!」


 くっそ理不尽な事言い始めたぞこの姉……! むしろ最初からそう言えよ! 伝わらねーんだよ!


「別にこれでも良いけど」


「良いんかい!」


 なんなのこの姉!? 駄目だ……相手していると疲れる。さっさと自室に戻ろう……。

 

「おい、何処行くんだよ?」


「何処って、自分の部屋だけど?」


「一杯くらい付き合えよ? ……露骨に嫌そうな顔をすんなよ……」


 「ほら、ここ座れ」と差し出された椅子に座らずに、ちょっと遠目の椅子に座る。


「たくっ、可愛げがねーな……。それよりもだ……何かあたしに話したいことねーか?」


「特にはないな」


「じゃあ、あたしから言うぞ? 瑞人お前、花咲冬花って女の子と付き合っているらしいな?」


「──どっ、何処でその話を!」


「深子から聞いた」


 そう言えば、この姉と深山は仲が良かったわ……。ご近所でも美人姉妹として名が通っていたわ……。姉妹じゃないけど。


「昔はよく、深子ちゅきちゅきーって言っていたのに、他の女の子と付き合うなんて以外だったぞ?」


「そんなこと言ってねーよ!」


「じゃあ、お姉ちゃんちゅきちゅきーだっけ?」


「それも言ったことねーよ! それどころか、言いたくもねーよ!」


「まぁ、冗談はここまでにして……。ここからは真面目な話だ」


 雰囲気が変わった。こんな真面目な表情の姉初めての見るかもな。


「瑞人、お前逃げてんだろ? 確かに逃げることは悪いことじゃないが、時と場合はちゃんと選べ。もし、どっちかを傷付けてしまったとしても、生きてれば関係なんて修復可能だ。何度だってやり直せば良い。気楽にやれ。答えなんて最後に当たってればそれで良いんだからよ。とまぁ、真面目タイムはここで終了だな」


 確かに俺は逃げてた。いや、逃げ続けていた。怖かった。ただ怖かった。大切な友人、大好きな人を傷付けてしまうのが。

 

 だけど、これは俺の独りよがりだ。自分だけが辛い思いでもして、ヒーローにでもなったつもりか俺は……!

 あんな頼りになる友人が近くにいるのになんで相談しなかった……! 


 何が言う気はないだ……! あの時のちゃんと言えば良かったんだ……! 


 俺は今、ちゃんと気付いた


 気付かせてくれた姉に、感謝の代わりに戸棚から高いおつまみを出した。


「おっ、これたけーやつじゃん?」


「やるよこれ」


「まじか! いやっほーい!」


 何時もの姉に戻ってしまった。この姉も真面目な姉も悪くは無いなと思った。







 






 

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