7話 村田奏は手助けしたい
皆さんは男から寝込みを襲われた経験があるだろうか? 今、俺は現在進行形で体験中である。
「おはよう、瑞人」
「出てけ! お前、なんで俺のベッドに居るんだよ!」
「夜這いではないから、朝這い?」
今日は土曜日。昨日、遅くまでスマホをいじり過ぎて、何時もより少し遅く起きた。
そしたら、これだよ! こいつ……ついに家まで侵入してきたか……!
学校の友人に恐怖を覚えた頃、スマホが鳴った。画面には花咲冬花の文字が。慌てて電話をとろうとしたら、先に村田にとられてしまった。
「もしもし? 確か同じクラスの花咲さんだよね? うんうん、瑞人? いるよ? なんで? 今日は僕と遊ぶみたいだから じゃあね? ばいばい」
電話をそのまま切ってしまった。
「おい! なんで切っちゃうんだよ! っていうか、勝手にとるなよ……」
「ごめーん、反射的にとっちゃった。それに今日は僕と遊ぼうよ? 此処んところ遊んで無かっただろ? 友人の仲を深めようぜ」
「いや、凄く嫌なんだが……」
確かに此処んところ花咲さん絡みで遊べて無かったが、わざわざ家まで侵入してくるか普通? むしろ、どうやって入ったのか知りたい。
「瑞人のお母さんに友人だって言ったら、嬉しそうに部屋まで案内してくれたよ」
「母さん……。そして、心を読むな」
「分かりやすい瑞人が悪い」
友人を家に呼んだことが無いから、嬉しかったんだろうな母さん。なんか心配かけてたみたいで、申し訳ない気分になった。
「とりあえず出掛けようぜ」
「何処に?」
「久しぶりにゲーセンでも行こう」
「ああ、分かった着替えてくるわ。だから、早く部屋から出ていけ」
「やけに素直だね?」
「俺もたまにはお前と遊びたかったからな」
「ツンデレのデレきたよこれ」
「うっさい……。はよ出てけ」
男友達と遊ぶのが久しぶりで、楽しみなのは内緒だ。俺には男友達こいつしかないからなぁ……。
俺が着替え終わるまで、一階で待っててもらった。寝癖を軽く直し、歯磨きをする。
リビングに行くと、母さんと村田が談笑していた。やけに楽しそうだなおい。
「おっ、瑞人。準備出来た?」
俺に気付いた村田が声を掛けてきた。
「出来たぞ」
「じゃあ、行こうか。瑞季さん、話はまた今度お願いしますね?」
瑞季さんとは俺の母さんの名前である。めちゃくちゃ仲良くなってんな、こいつ。
母さんの「いってらっしゃーい」を背中にうけながら、家を後にした。
二人で町中を歩く。村田は顔は美少年だから、町行く女性が振り返る。完全に注目の的となっていた。
「僕の美少年ぶりに皆が振り向く……。あぁ、なんと良き光景」
「性格はクソだけどな」
本当に皆、容姿に惑わされないでね? こいつ性格クソだから。頭おかしいから。
「ゲーセンの前にさ、休憩していかない?」
そう言って指差したのは、ラブなホテル。ないわー……。ちょーないわー……。
「冗談言ってないで、はよゲーセン行くぞ」
「まぁ……冗談ってことで良いよ? うん、そう
だね早く行こうか?」
不穏な言葉が聞こえたがスルー。神様、俺は今日無事に帰れるのでしょうか? 神を信じてないけどな。
ゲーセンに向かい、夕方まで遊び尽くした。二人で協力プレイやったり(初めての共同作業だね? って言われた時は殴りそうになった)二人で対戦してみたり。
本人には言わないが、久しぶりに充実した日を過ごせた。
その帰り道──
「この後どうする? 飯でも食べに行くか?」
「ごめーん、この後用事あるんだ。この埋め合わせは今度するね? 勿論、僕の体で」
「要らん。なら、はよ行け」
「いけずー。今度また遊ぼうね? じゃあね、ばいばい」
「おう、気を付けてな」
村田が手を振りながら去っていった。俺も帰るか……。
「もしもし? うん、同じクラスの村田だよ? 実は話したくてさぁ 学校近くの公園に来てくれない? 良いの? ありがとう! じゃあ、後でね? ばいばい」
彼は通話終了のボタンを押して、ため息をつく。
「ふぅ……。お節介かな? でも、瑞人には幸せになってもらいたいし? ちょっとだけ手助けしちゃお」
◇◇◇◇◇◇◇
花咲冬花は彼の到着を公園で待っていた。彼女と彼はクラスは同じだが、ほとんど話したことはない。
それなのに、同じクラスの村田奏に呼び出された。
確か彼は手野君と仲が良かった。それを踏まえれば話の内容は予測出来なくもないが、手野君が彼に私達の関係を言ったとは、到底思えない。
何故なら彼は……昔、私にトラウマを与えられた人間なのだから。
手野君の質問には覚えてないといったけど、本当は覚えている。
いや、忘れる訳がない。
あれがきっかけとなり、今の私が形成されたと言っても過言ではない。
あの時の手野君は辛そうな、泣きそうな顔をしていたなぁ。あれを思い出すだけで、体が身震いするほど高揚してしまう。
私はなんて最低な人間なのだろう。でも、今更止められない。私には私の欲しい物があるのだ。
その欲しい物のために、いくら犠牲を払おうとも私は構わない。
とりあえず、目の前の男をどうするか考えなくては……。
「やぁ、待った? 突然ごめんね? どうしても話したくてね? 花咲冬花さん」