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濡れ手でギャル  作者: こよみ
花咲冬花編
6/15

6話 手野瑞人は決心する


 俺が訪れたのは夜の公園。この時間帯になってくると人通りも少なく、静けさが辺りを包み込んでいる。


 こんな所にいるのは、深山から呼び出しをうけたからだ。


 一日に二人に呼び出しをくらうとは、モテ期が来たんじゃないかと思いたい。

 まぁ、絶対に違うが。


 公園の入り口付近にあるベンチに腰をかけて、深山の到着を待っていた。


 そして、数分後に深山が到着した。


「遅れてごめん」


「いや、4、5分ぐらいしか待ってないから大丈夫だ」


「そこは『俺も今来たところだよ? キリっ』って言うところでしょ?」


「それ『キリっ』も付けなきゃ駄目か?」

 

「むしろ、そこが重要でしょ?」


「んな馬鹿な」


 俺達は何時もの会話を何時ものように交わす。重たい空気など一つもない。


「でさぁ、冬花と付き合っているって……ほんと?」


 何気なく深山がそう聞いてくる。大々的に花咲さんが拡げたから、深山が知ってても不思議ではない。

 

 俺は迷う。ただ迷う。水田にはああ言ったが、本当は話したい。付き合ってないと。だが……だが、それを言ってしまったら、きっと深山を傷付けてしまう。


 だから、俺は曖昧な返事でまた誤魔化してしまう。


「……まぁな」


「そっかぁ」


 何かを想う顔をしながら深山は「うんうん」とうなずいた。

 そして──


「ちゃんと幸せになりなよ? 冬花泣かせたら、あたしが怒るからね?」


「ああ、任せとけ。俺が花咲さんを幸せにしてやるよ」


「そっかぁ……」

 

 そう言った深山の横顔はとても儚げで綺麗だった。


「あとさ……?」


「どうした?」


「──これ以上、嘘を言ったらあたし怒るかんね?」


「──っ!? 深山……お前っ……!」


「じゃあね瑞人。また明日」


「待ってくれ……! 深山……!」


 俺の言葉を聞かずに深山は公園から去っていってしまった。一人になった夜の公園で、深山の言葉を思い返す。


「ちゃんと幸せになりなよ……かぁ……。あれはもしかして……」


 あれは俺と花咲さんに向けられた言葉じゃなくて、俺一人に向けられた言葉だとしたら……。

 『花咲さんを泣かせたら許さないからね』は、ちゃんと花咲さんと向き合えということだろう。


 俺が最初から嘘をついていたことは、知っていたってことか……。

 そんな嘘をついた俺にアドバイスまでくれた。 


 深山は多分……いや、かなり怒っていただろう。昔の『嘘をつかない』って約束を破ったのだから。


 約束を破ってしまった。約束とは信頼だ。その信頼を無下にしてしまった。

 

 だから俺は……信頼取り戻すべく。何度だって花咲さんに向き合ってやる。


 なぁ、深山。ありがとう。


 俺、頑張ってみるわ……。



◇◇◇◇◇◇◇


 時間は経ち、翌日の昼休みの教室。教室の友達と食べていた花咲さんを呼び出した。

 場所は屋上とかではなく、俺達が何時も寝転んでいる第二体育館裏の土手。


 話すことを頭の中でまとめていると、ご飯粒を口許に付けた花咲さんが駆け寄ってきた。


「何かな? 瑞人君」


「突然、悪いな花咲さん。まぁ、まずは口許のご飯粒取ろうか?」


 花咲さんの顔がちょっと赤くなり、ご飯粒を素早くとりティッシュに丸めた。


「ごっ、ごめんね? それで……話って何かな?」


「全然大丈夫だ。話っていうのは本当の事が知りたい」


「本当のこと?」


「ああ、本当の事だ。花咲さんは何かを隠してると思ってな」


「隠してないよ?」


「いや、俺には隠しているよ──「それにさぁ、隠していたとしてなんで瑞人君に言わないといけないの?」


 そうくるだろうなとは思っていた。俺も馬鹿ではない。色々と想定はしてきた。今までの俺ならここで怯んでいただろう。

 

 しかし、ここで怯んではいけない。ちゃんと向き合うと決めたから。


「俺は今、花咲さんの彼氏だからな」

 

「彼氏だからって、何でも話すって事では無いんだよ?」


「知っている。だけど、花咲さんの事大切だから、ちゃんと話して欲しい」


「瑞人君に話したとして、なんか変わるの?」


「変わるか変わらないかで言ったら、正直分からん。でも、俺は変わらせたいとは思っている」


「思っている? 思っているだけじゃ駄目だよね?」


「だから、こうやってちゃんと向き合っている」


 俺は花咲さんが怖い。今も恐怖で体が震える。それでも俺は花咲さんの本当が知りたい。


「ふーん、そっかぁ……。それはどうせ深子に言われたんだよね?」


「──っ!?」


 図星だった。俺は深山に言われなかったら、きっとそのままにしていただろう


「あっ、これは予想外の質問だった? ごめんね? 色々と考えてくれたんでしょ?」


 花咲さんの質問に頭が回らない。そんな俺に追い討ちをかけるかのように、どんどん近付いてくる。


「なんで……?」


「なんで知ってるかってこと? 盗聴器仕掛けてるから、昨日深子と会ってたことなんてお見通しだよ?」


「えっ、どっ、どこに仕掛けてるんだ!?」


「嘘だよ? なんか今日は何時もより変だったから、カマかけてみただけだよ?」


 くすくすと笑いながら言う花咲さん。俺はもはや何も言うことが出来なかった。

 ただ、立ちすくむ俺の頬に手をあてて耳元で花咲さんはこう言った。


「もう、そんな顔しないでよ? もっともーっと、いじめたくなるから……ね?」


 頬を高揚させ、真正面から見つめてくる花咲さんに堪えられ無かった。


 逃げ出した。これ以上、この場にいたら心が崩れそうだった。

 

 こんな情けない俺に深山はなんて言うのだろうか。多分、深山のことだから励ましてくるに違いない。それが一番辛い。

 

 だから、俺はこの事を胸の中にしまいこんで何気無い顔をしながら教室に戻った。


 

 教室に一人で帰った俺は、一旦、深呼吸をしてクラスの中に入っていく。見知った顔があったので声をかけた。


「戻ったぞ」


「あ、おかえりー。どうだったの? 花咲さんとの密会」


「別に何にも無かったぞ? 強いて言うなら、花咲さんは今日も可愛かったな」


「おー、ノロけてるねぇ。瑞人にあんな可愛い彼女が出来るなんて予想外だったよ。まぁ、僕の方が可愛いけど」


 確かに村田は可愛い。美少年と言って差し支え無いくらいだ。ただ、性格が悪い。


「あと、僕というものがありながら、他の女子に手を出すのはいただけないなぁ……。掘っちゃうぞ?」


 紹介をやり直させて貰おう。村田は女の子に興味がない。つまりは、圧倒的なホモである。

 

 こっちもこっちで色んな意味で怖いことを思い出した。










 



 






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