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濡れ手でギャル  作者: こよみ
花咲冬花編
4/15

4話 花咲冬花は嗤う


 あの無駄にプリンを食べに行った日から、三ヶ月が経っていた。花咲さんは今では毎日のように一緒に帰るようになっていた。

 

 相変わらず女子三人組でイチャイチャしていて、俺の入る隙はない。

 

 今日もイチャイチャする三人組を眺めながら帰るつもりだったが、花咲さんに二人きりで話がしたいと呼び出された。

 

 深山と水田には事情を話しているみたいで、邪魔にならないようにと先に帰っていった。


 そして、俺は花咲さんを教室で待っていた。


「手野君、ごめんね? 遅れちゃって」


「別に大丈夫だぞ。それで、なんの話だ?」


「えっとね……? あの……」 


 花咲さんがとても言いづらそうにしている。


 放課後の教室、男女が二人きり、大体は何が言いたいかわかるけど、花咲さんの口から聞かないと分からないから聞く。

  

 けっして、花咲さんの恥じらう姿が可愛いからとかではない。 


「あのね……? 私は手野君のことが好きです! 付き合って下さい!」


 分かっていたけど告白だった。でも、俺は花咲さんの気持ちには答えられない。

 俺は深山深子が好きだ。


「ごめん、花咲さん……。俺は好きな人がいるから、花咲さんの気持ちにはこたえられない」


「うん、知っていたよ。深子が好きなんでしょ?」


「やっぱりバレていたか……」


「バレバレだよ? あんだけ好き好きオーラだしていれば、誰でも分かるよ」


「そんなに出ていたか……。じゃあ、もう包み隠さずに言う。俺は深山深子が大好きだ。だから、この先どんなに頑張っても花咲さんと付き合う気はない」


 期待を持たせることが一番の苦痛だ。だから俺は真剣に花咲さんに向き合う。

 ──いや、向き合わなきゃならない。

 

「そっかぁ……。やっぱりだめかぁ……」


 そう言ってうつむいてしまった。

 心が凄く痛む。花咲さんは俺以上に心が痛むのだろう。

 

 でも、俺は慰めない。慰める行為も花咲さんからしたら、また辛いだけだ。

 だから俺がここを立ち去るのが、一番良いのかもしれない。 


「話は終わりだよな? というわけで、俺は先に帰るわ。花咲さんも遅くならないうちに帰れよ」


「──えっ? まだ話は終わってないよ?」


「えっ? まだ何かあるのか?」


「うん。むしろここからが本題だよ?」


 花咲さんは笑顔を見せていた。良かったと思うと同時に少し気味が悪かった。

 笑顔は笑顔なのだが、何時もの笑顔ではない。

 

 それに本題が告白じゃないとすれば、なんなのだろう?


「そっ、そうなのか……」


「うん。本題はね、付き合って下さいじゃなくて、私と付き合えというのが本題だよ」


「──は? 何も変わってないような気がするが。結局は告白だとおもうんだけど?」


「変わっているよ? それに告白じゃないよ? 私と付き合えと言っているんだよ? 告白じゃなくてこれは命令だよ?」 


 何も気にすることなく、そう言う花咲さんに初めて恐怖した。

 

 目の前にいるのは本当に花咲さんなのだろうか? そう疑問に感じる程に彼女の雰囲気は変わっていた。


「命令って……どういうことだ?」


「命令は命令だよ? 命令の意味が分からなかった?」


「いや、命令の意味は分かるが……」


 何が言いたいんだ花咲さんは……。 

 そもそも、命令だなんて何時もの花咲さんらしくない。


 何時もならお願いぐらいはしてくるが、優しい花咲さんが命令なんてしてくるはずがない。


「悪い。何が言いたいかさっぱりだ。もっと分かりやすく言ってくれ」


「仕方無いなぁ……。じゃあ、これ見せてあげるよ」


 そう言って俺に見せてきたのは一枚の写真だった。

 そこに写っていたのは、深山深子がベッドに()でよこたわっている写真だった。

 しかも、その身体の上には避妊具が置かれていた。


「──なっ! なん……だよ、これ……!」


「なんだよこれって、簡単なことだよ? 深子が男と………これ以上言うのはやめるね? 手野君が可哀想だから」


 そこまで言われれば、流石に高校生だから分かる。そいうことをしたんだって………。

 

 だが、俺は信じられない。いや、信じたくないと言う方が正しいのかもしれない。 

 動揺、嫉妬、怒り、様々な感情が頭を駆け巡る。


「ごめんね? いきなりだったから動揺するよね?」


「…………」


 言葉も出ないとはこういうことなんだろう。


「今からこの画像を使って、手野君を脅すから私に従って付き合ってね?」


「………なんでそんなことを」


「なんでそんなことをするのかって? それは………ね?」


 未だに動揺している俺に一歩一歩近づいてきて、まるで相手を嘲笑う(あざわらう)ようにこう言葉を続けた。


「私はね……人が絶望する瞬間の顔が大好きなんだよ? だから、今の手野君の顔はたまらない! もっとその顔を見せて?」


「さっきから何を言っているんだよ! 花咲さん!」


 花咲さんの今の発言を受け入れられなくて、拒絶してしまった俺を見て、更に楽しそうに花咲さんは嗤う。

 

 その光景に恐怖を覚えた俺は少しずつ後退り(あとずさり)をするが、それでも花咲さんは近づいてきた。


 そして、俺は机に足を引っ掛けて転んでしまった。転んだ時に不思議と痛みは感じなかった。

 

 転んだことよりも恐怖が勝っているからだろう。

 

 そんな転んだ俺に花咲さんはしゃがみこんで、頬に手をそえて真正面に顔を見つめてきた。


「ねぇ? まだ返事もらってないんだけど? 告白の」


「もし……もし、断ったらどうするつもりだ?」


「深子って男子とかに人気なんだよねぇ……。だからさ……間違って廊下でこの写真落としちゃったりしたら、他の男子とかにこの写真つかったりされて脅されちゃうかもね? それにこんな写真が出回ったら、学校に来れなくなっちゃうかもね?」


 暗に断ることは出来ないと言いたいのだろう。


 選択肢なんて最初から一つしかなかったということだ。

 なら、俺は──


「花咲さんと付き合ってやるよ。ただし、その写真は俺が預からせてもらうぞ」


「ん?」


「だから、花咲さんと──ぐっ!」


 話している途中でいきなり首を絞められた。花咲さんは今までにない無表情で俺を見据えていた。 


「手野くーん? 今、どっちが立場が上なのかわかっているのかなぁ? 写真なんていくらでもあるから、一枚くらいあげてもいいけどさぁ……。ちゃんとお願いしないと私、怒っちゃうかもなぁ?」


「ごっ、ごべんなざい」


 俺が必死に謝ると首を締める力を緩めてくれた。 


「──ごほっ、ごほっ、はぁはぁ……」


「ほら、もう一度お願いしてごらん? 聞いてあげないこともないよ?」


「はっ、花咲さん……! お願いします……! 俺と付き合って下さい……!」


「うん、いいよ? 付き合ってあげる」


「ありがとうございます。それで写真は………」


「写真かぁ、どうしようかなぁ。じゃあ、土下座してくれたら落とさないであげるよ?」


 なりふり構ってられない。全ては深山深子を護るため。

 そのためなら、俺は進んで泥水をすする。

 

 俺はそう覚悟を決めて、人生で初めての土下座をした。


「お願いします……! どうか、その写真だけは……!」


「彼氏のお願いだし、聞いてあげるよ。でもね、もし……もし、私を少しでも怒らせたりしたら、分かっているよね?」


「はい」


「よしよし、良い子だね。もう、遅いから今日は帰ろっか? また今日の夜に電話でもするよ、み・ず・と君?」


 そう言って、土下座をしたままの俺を放置して帰っていってしまった。

 

「ごめん、深山……。まだお前の手を握れそうにない……」


 誰に聞かせるでもなく、一人きりになった教室で俺はそう呟いた。





 


 


 




 




 


 






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