2話 深山深子は格好いい
その後、Aランチを持ってきて一緒に食べている花咲さんは学園について質問してきた。
学園のことは多少分かるので、分かる範囲内でその質問にこたえていった。
この学園の話をしているときに、表情が色々と変わっていく花咲さんを見て、男子共がアイドル扱いをしていたのが分からなくもないと思った。
「──まぁ、こんなところ。他に質問ある?」
「うーん、もうないかなぁ。あったら、また言うね?」
「手短に頼む。これから寝るという用事があるので」
「それ用事っていわないよね!?」
褒めて欲しい、ここまで話せたことがまず奇跡に近い。早く一人になって、寝たい。
なんでトラウマを植え付けられた人物と会話してんだ俺? 新手の修行かこれ?
そんなことを思っていたら花咲さんがAランチのご飯を勢いよく食べ始めた。
「──えっ、いきなりどうした?」
「手野君、食べ終わってるから。早く食べないと申し訳ないなって」
気にしなくても……って無理な相談か。俺でも気を使ってそうすると思うから。
「別にいいんだけど……。あまり勢いよくたべると喉に詰まらすぞ?」
「──うっ、みじゅみじゅ」
といったそばから詰まらして、俺の目の前にあった水を取って、ごくごくと飲み干す花咲さん………ってそれ俺の水!?
「ぷはーっ」じゃないから花咲さん! 結構問題発生しているから花咲さん!
「ごめんね、お水飲んじゃって。またお水汲んでくるから許してね?」
いやいや、俺が気にしてるのはそこじゃないよ花咲さん!
気にしているのは間接キスの方であって、水がなくなったとかどうでもいいからね!?
「いや、別に汲んで来なくても大丈夫だぞ。もう、食べ終わってるし」
「ほんとに? 遠慮しないで言ってよ?」
とはいえ、花咲さんは別に気にしてない様子。なんだこの温度差? 夏と冬ぐらいあるぞこれ。
「ほんとだほんと。なんなら神に誓ってもいい、神を信じてないけど」
「ふふっ、それ三回目だよ?」
「一日三回までなら言って良いルールなんだよ」
「そんなルール初めて聞いたよ?」
「今、作った」
「ははは、やっぱり手野君は面白いね」
ちょっと可愛くない笑いかたをしても、可愛くみえるのが花咲さんという美少女。
食器を下げようとトレーを持って運んでいる男子が、彼女の笑顔に振り向いてた。
完全に好きになったなこいつ。花咲さんは知らず知らずの間に、スキル「男子ホイホイ」を発動させてるからな。
そんなくだらないことを考えているうちに食べ終わっていたみたいで、花咲さんと一緒に食器を返却し、そのまま一緒に教室まで歩きだした。
(えっ、これ、このまま教室行ったら絶対に噂になるんじゃないの? それはまずくない?)
「──はっ、花咲さん。先に教室に戻っててくれる? 俺はちょっとお花を摘みにいってきますわ」
「女の子みたいな言い方だね。でも、分かったよ、先に戻ってるね?」
「はいぃ」
と俺はトイレに行くフリをして、自販機まで飲み物を買いに行くことにした。
それにしても危なかったな。途中で気が付いて良かったわ。ありがとう俺、愛してるぜ俺。
自販機は一階の中庭前に置いてある。ちなみに自分の教室があるのは二階。
そして、この中庭は普段はカップルどもでイチャついている。
だから飲み物を買ったら、村田とたまに来る場所に移動した。
第二体育館の裏の土手が芝生になっている、そこに何時ものように寝転がる。ここはほとんど誰もこない良い場所だ。
5月なだけあって、絶妙に暖かくて心地がよい。風もいい感じに吹いているし。
えっ、こんな場所が無料で行けちゃうの? お得だわねー奥さん。
……奥さんって誰だよ。
目をつむって寝ようとした所に足音が聞こえてきた。誰じゃ、我輩の眠りを妨げるのは?
「よっ、瑞人。やっぱりここだったんだ」
「あっ、ピンク……じゃねーや。なんだ深山か」
頭のすぐ横に立つ人影を見上げたら、幼なじみの深山深子だった。あと、ピンクだった。何がとは言わないけど。
「なんだとはなによ? あたしじゃ駄目だってか? 瑞人のくせに頭が高いぞ、ひかよろー」
「ははぁーってやるか!」
「あははは、ナイスツッコミだよ瑞人」
「毎回言ってるけど無駄にやらせんなよ……こんなこと」
こいつは小学校の時から明るくて、何時もテンションが高い。何度こいつにふりまわされたことか。
でも優しく、時には厳しく俺を叱ってくれる。まぁ、言うならば母親みたいな感じかな(本当のお母さんいるけど)。
普段は言わないけど、他の学校に転校するときにくれた星のネックレスをいまだに持っているくらいに大切な存在だ。
「そんなこといいつつも、何時ものってくれる瑞人があたしは好きだよ」
「はいはい。で? どうしてここに来たんだ? 何時も友達の水田達と昼休み過ごしてたよな? もしかしてハブられたのか?」
「んなわけないじゃん、瑞人じゃあるまいし。村田が休みだって聞いたから、一人きりで過ごしてるんじゃないかと見に来ただけ」
こいつ結構酷いこと言ってることに気付いてるんだろうか?
それに気遣いはとても嬉しいんだけど、友達が一人休んだだけで心配される俺って……。
ならもっと友達つくれよと言われるかも知れないが、そもそも友達ってつくろうと思ってつくれるものなのか?
それと友達の定義とはなんだ? そう、俺は問いたい。
「大丈夫だ。昔みたいに一人で泣いたりしないから、ちゃんと誰かを頼るよ」
「そっかぁ。うんうん。それならいいんだけど。辛いときには迷わずにあたしの手を握りなよ? 助けてやるから」
やだ男前。こいつは何時も心配してくれている。感謝しかないけど、これ普通は男の俺が言わなきゃいけないセリフでは?
「あんがとな。その時には握らせてもらいますわ、この呪われた手で」
「手汗が凄いだけでしょ? 別に呪われてるなんて思わないよ。それに瑞人の手、あたしは好きだけどなぁ」
結構ふざけてたのに割とガチで返されてしまった。ちょっと照れてしまうからやめてーな。
この手汗の酷さが、俺の女性へのトラウマを植え付けた原因の元になっている。
コンプレックスがトラウマになってしまっただけのことだ。
「もう気にしてないから大丈夫だ。それに今、気になっているのはお前がなんでギャルになったのかってことだ」
これ以上、この話題を話すとお互いに気を使ってしまう。そんなことを考えていた俺は、とっさに話題を深山の方にむけた。
それを聞かれた深山は一瞬、きょとんとしていが、
「えっ? なんでってそりゃ……可愛いからっしょ!」
と当然とばかりに言い切った深山は堂々と胸をはっていた。
(やっぱり、格好いいよお前)
好きなことには好きと間違っていることには間違っていると、ちゃんと言える所が深山の強さであり、良いところだ。
──だから、俺はまた深山深子に恋をしてしまうんだ。