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濡れ手でギャル  作者: こよみ
花咲冬花編
1/15

1話 花咲冬花はからかう


 例えばだ。例えば、昔トラウマを植え付けられた人物が同じクラスに転校してきたとして、さらに隣の席になったとしたら、皆ならどうする?

 

 俺ならこうする── 


「先生、隣の花咲(はなさき)さんが俺の隣が嫌って言ってるので、一番前の席の田中くんと席を交換したいです」


「言ってないよ!?」 


◆◆◆◆ 


 ここは県立蓮根(れんこん)学園、その二年C組のクラス。そんなC組のクラスに転校生がやってきた。


 名前は花咲(はなさき)冬花(とうか)


 誰が見ても美少女だと言うだろうと、そのくらいの美少女。

 さっきからクラスの男子共に質問攻めにあっていて、それを身ぶり手振りで返す所はさながらアイドルにみえる。

 

 そんな美少女の隣の席になった男子は普通はこう思うだろう、「よっしゃー!」と。でも、俺はそうは思わない。


 何故なら彼女が俺に女性へのトラウマを植え付けた張本人なのだから。

  

 とは言っても彼女は覚えてないだろう、些細なことだったし。何時までも気にしている俺が愚かなだけだ。

 

 そんなことを考えていると、右肩を叩かれた。叩かれたといっても軽くだが。 

 

 叩かれた方に振り向くと、花咲さんが不満げな顔で俺を見据えていた。

 うわー嫌な予感が……。不満げな顔に心当たりがある。絶対あの発言だ。


手野(ての)君、あれはどういうこと? 私、手野君の隣が嫌なんて言ってないんだけど?」 


 案の定言われた。確かに嘘を付いた俺が悪いよ? でもね、これはお互いのためなんだよという言葉は言えずにただ一言

 

「まぁ、あれだよあれ」 


 しか返せなかったことには深くは触れないで欲しい。なんかキョドってるみたいで恥ずかしいから。まぁ、キョドってるんだけど。 

 

「いや、どれなの?」 


 ごもっともで。こうなったら素直に謝るしかないな。 


「嘘ついて、悪かった」


「それは別に気にしてないんだけどさ、ただ──」


「ただ?」


「私の隣が嫌なのかなって……。私なんか嫌われるようなことをしたのかなって……」


 ちょっと伏し目がちにいう花咲さん。あれ? これ罪悪感はんぱないぞ?

 

 こっ、こういう時はどうしたらいいんだ? 落ち着け俺! まだ打開策はあるはずだ! 


「いやいや、嫌じゃないし。それと嫌ってもいないぞ」 


「ほんと?」


「ほんとだほんと。神に誓っていい、神を信じてないけど」


「えーなにそれ? 急に信憑性がなくなってきたんだけど?」

 

 そう、笑いながらいう花咲さんに俺はちょっと見惚れてしまった。


 元々可愛い方だから仕方無いと、心の中で誰も聞いていない言い訳をする俺であった。 


 そんなこんなで「結局さっきのはなんだったの?」と聞かれ、「俺なりのジョークだ」って返したら、納得してもらえなかったけど許してはもらえた。 



 その後、なんのイベントも起こらずにただ授業を消化していった。

 花咲さんが途中ちらちらとこっちを見てくる視線は気になったが。


 そして、皆が待ち望んだ昼休みの時間。急に教室が騒がしくなる。

 机をくっ付けて一緒にお弁当食べる者や、一緒に友達と学食に行く者。 

 

 それぞれが思い思いの昼休みを過ごすなか、一人で学食を食べている者の姿があった。俺だった。 


 いや違うんすよ? たまたまなんすよ? たまたま友達の村田が休んでしまっていて、一人なだけなんすよ? 


 だからボッチとかじゃないんで。そこんところよろしくー。

 なにしてんだろ? 俺は……。

 

 早く学食食べて教室で寝よう。 

 よし、そうしようとAランチ(400円)を食べていたら、前から人影が。


「前良いかな?」 


「はい、どーぞどーぞ。別に俺だけの場所じゃないんで。なんなら、俺どけますけど?」


「手野君やっぱり私のこと嫌いなんだ……」 


「いやいや、嫌じゃないですよ。神に誓っていい、神を信じてないって……花咲さん!?」


「はい、花咲でーす。それと二回目だよ? このやり取り」


 学食にがっついてた俺はなんか聞き覚えある声だなーぐらいにしか思っていなかったけど、ふと上を見上げると、ふふっと口元に手をおいて笑う花咲さんがいた。

 

 絵になるなーじゃなくて、なにしてんの? この人。

 

「えっ、まさかの花咲さんもボッチ? 転校初日に大変だね? なんかあったら話聞くよ? 多分」


「違うよ!? あと多分なんだ!?」 


「えっ、違うの? なら、どうしてここに?」


「違うよ、手野君と一緒にご飯食べようかなと思ったから」


「はいぃ?」 


 意味がわからなくて、相○の○京さんみたいな返事しちゃったよ。

 何故に俺なのですか? 俺である必要がないし、必然性もない。

 

 それに、花咲さん色んな人から学食行きませんかって声かけられてたよね? 主に男子だったけど。

 

 それを断って俺に来るほど、俺達は仲良くないはずだ。なら何故?

 

「ほら、手野君、私と小学校同じでしょ? だから顔馴染みっていうか、話しやすいっていうかさ。というわけでこっち来ちゃいました」


「あっ、はい」


「返事冷たっ!?」


 今、俺は今世紀最大に動揺している。いや、言い過ぎか……。

 まぁ、そのぐらいに動揺している。 

 

 花咲さんが覚えているとは思わなかった、小学校が同じだったことを。


 まさかあの時のこと覚えている? それとなく探りを入れてみるか。


「悪いぼーっとしてたから。そんなことより、小学校で俺と何かあったっけ?」


「そんなことって……。うーん、小さかったからなぁ……。手野君が同じクラスにいたってことなら覚えてるんだけどなぁ。思い出せないや。なんかあった?」


「いや、なんにも? 俺もなんかあったかなと気になっただけ。やけに話しかけてくるし」


「それなら良かったぁ。それは、あんまり小学校でも話したことなかったと思うし、手野君とちゃんと話してみたいから。駄目かな?」


 いつの間にか目の前の椅子に座っていて、上目遣いで言ってくる花咲さん恐るべし。可愛くないわけがないじゃん。

 

 それにさっきから胸がテーブルに乗っかってるんだよ! 以外と胸があるんだなぁって今はそんなことどうでもいいんだよ! 

 

 駄目と返事を返せ手野(ての)瑞人(みずと)! これ以上話すとボロがでて、あの日の事を花咲さんが思い出す前に! 

 

「ぜっ、全然駄目じゃないでありますよ」


 俺のアホー! ちゃんと断れよ! それになんだよ「ありますよ」って……。くそ恥ずかしいじゃんか!

 ほらもう、クスクス笑ってるし花咲さん……。


 穴があったら入りたいっていうか、自分で穴掘って入るレベル。 


「はー、笑った……。手野君はやっぱり面白いね?」


「わっ、忘れて下さい」


「嫌でーす。忘れませーん」


「そっ、そんな……」


「嘘だよ? 忘れるから、そんな絶望した顔しないで」


「ほんとにほんと? 俺信じちゃうよその言葉」


「まぁ、たまにネタにするけどね?」


「それ、忘れてねーじゃねーか!」


 またもや口元に手をあてて笑う花咲さん。完全にからかわれたな。

 

 でも、あの時の出来事は覚えてないみたいで助かった。謝られでもして、気まずくなるのは嫌だからな。


 謝って欲しいわけじゃないし、思い出して欲しいわけじゃない。

 このまま、何もなかったことで良いんだ俺は。 


「手野君が食べてるのって、なにランチ?」


「Aランチだけど」


「ふーん、そっか。私、食券買って注文してくるね?」 


「どうぞどうぞ」


 食券を買うために立ち上がり、食券機がある方に歩いて行った花咲さん。

 終始、からかわれてたなぁ……。あんまり話したことなかったから、あんな感じだとは知らなかった。

 

 俺はご飯を食べる手を止めた。花咲さんと話した辺りから止まってたけど。先に食べ終わって教室に戻ろうかと考えたけど、後が怖いからやめておこう。

 

 ところで、何の話をしよう? 話をふってくれるのだろうか?

 

 ──はぁ……どうしたもんかね……。

 

 








 



 



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