4.ドワーフ製鉄工所
<登場人物>
シモーネ ドワーフ製鉄工所所長
イリーナ ドワーフ製鉄工所副所長
<登場場所>
メルモ鉄鉱山、クラコフミスリル鉱山、 国境沿いのプロブディフアダマンタイト鉱山
<登場技術>
コンクリート(セメント)、木工合板材、 接着剤、 鉄筋、針金、ガラス
4.ドワーフ製鉄工所
ドワーフ製鉄工所に着くと、小柄で体格が良い女性が指示をし、自らも地震で散らばった工具や鋼材をかたずけている最中であった。
建物自体は、壁はひびが入っているところはあるが、むき出しの鉄骨自体は損傷を受けていない。
私を見つけると作業を中断して、駆け寄ってくる。
「このような時期に国王自らが訪問されるとは。」
少し驚いた表情である。
「現状、工具などは散らばっていますが、建物や設備の損傷は軽微で問題ありませんわ。」
小柄な女性はここの所長のシモーネで、女性初の所長とのこと。
副所長のイリーナもやってきた。
なんとこの2人、ドワーフの姉妹とのこと。
小声で少し離れていた内政大臣が「ちょっと」といい、手招きをし、耳元でささやく。
「あの2人、ハーフドワーフで25歳なんですよ。」
どうでもいい情報?
イリーナは挨拶だけして、現場に戻っていく。
「まず、町が壊滅状態であるために、建物にダメージがあれば医療院の復旧と、居住地区の建物の復旧を優先すること。そのために、物資を調達できるか、教えてくれ。」
「鉄鋼材は、ここの倉庫にはあまりありませんが、町はずれの鋼材置き場にはすこし在庫がありますわ。また、鉱石も在庫があるので、最終的に設備に問題なければ精錬し、作ることもできますわ。
あと、銅、ミスリル、アダマンタイト、その他の材料は、冶金、鉱石共にほとんどありませんわ。」
銅はいいとして、ミスリル?アダマンタイト!?
話を聞くと、ミスリルは鉄より加工しづらいが腐食のほとんどないステンレスのような材料、 アダマンタイトは、軽くて加工がしやすいアルミの様な材料ということが分かった。
「魔法導力研究所のブリシャス所長の喜びそうな話題ですね。」
建設大臣が言う。
鉄鉱石の鉱山は、この町から4日のメルモ鉱山、ミスリルは7日のクラコフ鉱山、 アダマンタイト鉱山は、国境沿いのプロブディフ鉱山にあるらしい。
「壁材となる石材や石膏、木材もある程度在庫がありますが、街中の建物を立て直す量には到底足りませんわ。」
製鉄工所ではあるが、石材や木材の加工もするらしい。
「あと人員も足りませんわ。物資を運ぶ道も瓦礫だらけで運べませんし。」
「王国軍がこれから、主要道のがれきを除去するので大丈夫だ。」
いろいろ話を聞いていると、コンクリートと木工板材、鉄筋の技術が必要か。
私はコンクリートと木工板材、鉄筋の説明をし、このようなものができないか、聞いてみた。
「以前とある謁見の場で、このような素材があることを聞いたことがある。建物の復興に利用できないか?」
ここで、昨日の夢に出てきた「脳内検索」を使ってみる。コンクリートと木工合板材、鉄筋のつくりかたは?
<コンクリート>
まずは現代で一般的に使われていたポルトランドセメントであるが、石灰石、粘土、珪石、高炉スラグを混ぜ合わせる。
「石灰石、粘土、珪石を調達できる場所はないか?」
「それなら、石膏や漆喰を作る材料として、日常的に使用されていますわ。」
あと、鉄を作るとき、石の様なものは同時にできないか?
「あれですか、使い道がなく、町はずれに捨てていますわ。」
「それらを炉で焼いて、粉々の粉にできないか?」
「試してみますわ。」
これができれば、あとは砂や砂利と混ぜる。
<木工合板材>
「ここでは、木角材は作っているようだが、木の板は作っていないのか?」
「太い丸材をノミとかんなで削っていけばできますが。」
製造方法として、丸材を大根のかつらむきの要領で削っていき、木目が縦横交互になるように合わせ、接着剤でくっつける。
<接着剤>
漆と小麦粉を配合すれば、原始的な接着剤ができるらしい。
漆があるかどうか。
「一つの節にいくつも小さな葉がつき、秋になると赤く葉が紅葉する木で、その樹液から黒っぽい樹液が取れる、染料に使われる、このようなもの、知らないか?」
「ああ、パンにかけると甘くておいしいものですよね。」
「違う。」
それは砂糖カエデ、メイプルシロップ。
「じゃあ、乾かすと弾力性があり、水をとおさないブニですよね。」
「ブニ?」
「そう。」
話を聞くと、ゴムである。
この世界、 メイプルシロップとゴムはあるのか。
「では、あっ、床が腐らない様に塗るワックス。あれですわ。」
散らばる樽から、サンプルの液を取り出し、見せてもらった。
漆である。
製鉄工所なのになんでもある。
「これと小麦粉を混ぜ、先ほど説明した丸材をかつら剥きした板の間に縫ってくれ。これで、強度が上がる。」
<鉄筋>
高炉で不純物を取り除き、溶かしたどろどろの鉄、製銑を細い流動口に流れているところを冷やし、せん断したのもが鉄筋であるが、シモーネに説明すると驚いている。
「そんな細い長い鉄の棒、何使うのですか?」
「先ほど説明したコンクリートをべニア板で成形した成型物の間に、強度を上げるために入れるんだ。」
「すごいですわ。どのような形の建物も強度を保ちつつ作れますわ。」
「製銑の流し込みを、砂型で作りましょう。」
話の要領が早い。
あと針金だな。
<針金>
金属棒材をダイスという入り口と出口の穴の径が違う治具を通し、棒材を引き抜いた材料。
一通り針金の製造方法を説明する。今まで叩いて針金を成型していたようで、鎖帷子が代表的な物であるが、こちらのほうが効率がいい。
「考えてみるとパスタと同じ原理ですわ。」
先ほどの鉄筋を針金で巻いて、鉄筋の枠を成型することを説明する。
この施設、町の中心部にあるが、将来いろいろなものを作ると手狭になるな。
「あと、長さの寸法と重さの標準原器を作り、設計図面とともに、管理をすること。」
メートル(長さ)とグラム(重さ)についても説明をした。
今までの寸法と重量管理は一部の人の知識で、出身国によってもばらばらであったためだ。
「どうしてしまったのですか?!国王。」
内政、建設大臣が驚く。
謁見時の伝聞も説明に限界があるか?
後、ガラスだ。
「ガラスはあるようだが、加工に時間がかかる。」
<ガラス>
高温の珪砂(珪石)、ソーダ灰(木灰)、石灰石混合物を型に流し込んで生成しているらしいのだが。ソーダ灰はいわゆる炭酸ナトリウムで、海水が欲しいところだが、ここは内陸国。なんか、効率的な生成方法はないものか?
ガラスの製造は「型」方式から、拭き竿で作った円筒ガラス管を縦に切れ目を入れ、窯にいれて徐々に平板に伸ばしていこう。
説明をする。
「試してみますわ。」
シモーネが言う。
とりあえずだ、セメントと鉄筋で作った建物の試作をするのだ。
今後、シモーネとイリーナは何回もレンネ城に来ることとなる。
作者のうしねこです。
ハーフドワーフのシモーネ所長とイリーナ副所長が気になりますが。
次回以降、周りの背景が少しづつ明らかになっていく?




