7 帰還の途、修復のAIメイドです
動けないチルドの体はツインテが背負って移動することになった。
道中ほとんど寝ていたツインテが一番消耗が少ないからであった。
「チルドは寝ているのか? 動かないな」
「強いダメージを受けて動けないし、保護機能が働いてAIもスリープ状態みたい」
一行は森林大広間の奥から繋がる通路に入った。
「そこのキラキラしたスペースから微かにユキのいた空間の匂いがする。 入るか?」
「それしかないようね。 別れ離れにならないように一応手を繋ぎましょう」
「そうだな、それでは行くぞい!」
「おー!」
ツインテがキラキラした空間に足を踏み込むと3人の体は一瞬で光の粒子になり転送された。
「うわ、ここはどこだ」
「また似たようなダンジョンの一部ね。 とにかく前進するしかないわ」
その後も何度か転送ポイントと通路を通り歩き続けたが、行程に複雑さは無くほぼ迷わずに進めた。
「だんだん元の世界の匂いが強くなってきたぞ」
「1時間くらい歩き続けているのでそろそろゴールが来ると助かるわね」
ユキ達は期待を胸に薄暗い通路をさらに進んだ。
「うーん、そう言えば…ツインテが家に来た頃の話なんだけど…」
「んん?」
「私の記憶が確かなら、家にダンボール箱で届いた直後のツインテは爆発して起きたんだけど。 その直後に修復魔法を使っていたような。 起床後の爆発直後は魔法は使えないんじゃなかったか? あれはどういった理屈なの?」
「ああ、あれは復活時の爆発。 起床の爆発とは違って、爆発直後でもちょっとした魔法なら使えるのだ」
「なんて言うか復活直後は力が満ち満ちてるから、お釣り的な魔法は可能なんだな」
「ほー、復活までどのくらい活動停止していたの?」
「それが不明なのだ。 以前私がいたところと暦が違うみたいだし、西暦何それって感じでね」
「あー、そうなの? まあ疑問も大体解決したしいいか」
「また、キラキラポイントよ」
「これが多分最後で、ここに入ったら帰れるはず。 匂い的に。 でも出た場所に多少の誤差はあるかもしれない」
「誤差って? もしかしたら出たと思ったが壁にめり込んでいたとか? それ困るんだけど」
キラキラさんもそこは気を利かせた仕事をして大丈夫なんだけど、位置は元の場所と少し違うかもしれん」
「帰れるんなら贅沢は言わないよ。 よし入ろう!」
「手を繋げー、イクゾー!」
キラキラキラ…
「うーん眩し! 出たぞーユッキー!」
「やっと帰ってきた! でもツインテここはどこだー」
「ここは元の世界の誰かの家の中のようだな…。 主がずぼらなのか照明が点けっぱなしなので明るいな」
「キラキラさん、誤差大き過ぎだろ」
「人はいないようだし、ワタシの魔力も少し回復してきたのでここでチルドの修復をするとしようか。 このベッドが丁度いい」
「外もまだ明るいし、外に出たら人目もあるからそうしましょう」
ふたりの意見が一致したところでツインテは背負っていたチルドをベッドに下ろして横にした。
「修復魔法リペエイド!」
ヒュイーン、ワワワワワ~
「あれ、以前はリペエイデスって言ってなかった? あっちの方がかっこいい」
「よく覚えているな。 確かに以前部屋の穴を直したのはリペエイデス」
「だけどあれは回復量重視の突貫工事みたいな魔法なのでデリケートな品には向かないのだ。 原子や分子の位置は大体元に戻るが方向や繋がりはややズレる。 あと表面も雑な仕上がりになるんで、こだわりのある逸品には向かないのだ」
「ふーん、じゃあ今使ってる方は丁寧な直し方なんだ」
「そうだな。 だがちょっと時間がかかるぞ。 10分くらいかな」
「よろしくお願いしますドクターツインテ!」
ヒュワワワワワ~
治療が続いた。
カツカツカツ
「わ、誰か来た。 超ピンチ!」
ギャチャッ
「あれれ、どうされたんですか? 誰かと思えばユキさんじゃあないですか。 一応ここは僕の部屋なんですけど」
ドアを開けて入ってきたのは白衣の科学者永久だった。
・
「~ととと、ということなんです!」
ユキは慌ててジェスチャー交じりで言わない方がいい部分は隠しながら永久に一通り事情を説明した。
「ほうほう、チルドが階段で転んで故障。 それは大変。 …それにしてもだいぶ壊れてるような…。 彼女も意外とドジっ子なんですね。 で、この治療のようなことをされているお嬢さんは?」
「かかか、彼女はツインテ。 うちのなんの変哲もない金髪ツインテール居候よ」
「でもほら、手から光のようなものが出てチルドの傷を直してますよ。 これどうなってるんですか? そもそもこの建物にどうやって入ってきたんですかー? それなりにセキュリティーはあるんですけどねぇ。 これでも国連付属の研究所なもんで」
「緊急事態だったの…ここは目を瞑って見逃して」
「うーん、まあいいですけど。 ユキさんには人類レベルで借りがたくさんありますし」
「そうそう、借り借り」
「でも後でちょっと協力してくださいね。 なに簡単なことです。 3分で
終わります」
ユキは少しどきりとしたが承諾した。
「…髪、また色が白に近くなりましたね」
「最近気苦労が多くて…ね!」
「ふーん。 まだ自宅療養の身なんですから無理しないでください」
「それはもう、ゴロゴロしまくってたらチルドにも太るぞとか言われる始末です!」
「ほう、それは何か対策を考えねばなりません」
「私もちょっと見物させてもらいますね。 AIのチェックもしましょうか?」
「お願いします。 スリープ状態らしくて」
「じゃ、用意しますね」
永久は部屋を出て、少ししてから機材を持って戻ってきた。
「それじゃチェックします」
チルドの頭部に機材のセンサーのようなパーツが当てられて何やら診断が始まった。
「どうやら異常は無いようですね。 そのうち自動的に再起動すると思います」
「ああ良かった。 ありがとう永久」
ユキはちょっと照れた顔で言った。
「ははは。 ユキさんにお礼を言われるとか珍しいですね。 雪でも降るんじゃないですか?」
「オヤジギャグはいらないって…。 でもなんかほっとした」
ヒュワ~パパパ
「修復が終わったぞー。 ついでにメイド服もいい感じに直したのだ。 って、このおっさん誰?」
「聞いてなかったの。 チルドの量子コンピュータとAIを作った科学者永久よ」
「よろしく、ツインテさん。 私は永久、本当はながひさって読むんですが、皆えいきゅうって呼ぶのでえいきゅうでいいです。 有名読み上げソフトでもえいきゅうとしか読まないんですよ」
「おお、修復に集中してたんで聞いてなかった。 よろしくテイキュー」
「何かテニスみたいな名前になってるんですけど…」
永久は自分の後頭部に手をやり、たははと軽く笑った。