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6 おは魔人ドッカーン! です


 方向を見定めたユキは立ち上がり中央広場へ駆け出そうとした。


「チルドは…まだ戦っている! …でも、もうダメージが…右足も壊れかけてうまく動いていない…」


ガガガガガッ!


「何!」


 中央広場の天井が轟音をあげて崩れて青い3体目の鎧兵が出現してしまった。


 その登場は絶望を意味していた。


ドゴーン、ズズズズズ…。


 広場に着地した青い鎧兵は他の2体より二回りは大きい個体で、その兜の左右には上に曲がった太く大きな角が生えていた。 そして手持ちの巨大青龍刀とも言える武器は明らかにチルドを狙っていた。


「これは…まずいやつだわっ、確実に!!!」


 足元にあった石棺の蓋を持ち上げたチルドは青鎧兵の頭部目がけて投げつけた。


ドゴンッ…ガギガギガギッガー!


 あの重そうな石棺の蓋が、青鎧兵による青龍刀の一撃で鈍い衝撃音と共に大小様々な破片に砕けた。


 ユキには遠くて戦闘中のチルドが一瞬こちらを見たように思えた。


 鋼色鎧兵の斧がチルド目がけて猛スピードで振り下ろされた。


 チルドは最後の力を振り絞ったようにその鎧兵の股下へスライディングして反対側へ移動。 そこには石棺の載っていた台座があった。


 砂煙が立ち込めて鮮明には見えないがユキにはチルドが台座にあった残りの小さい方のスイッチを操作したように見えた。


ドドドドドドーッ!


 ふたりの丁度中間くらいの位置の天井から大きな壁が降りてきた。


 それは分厚く上下左右に巨大で、ギロチンの刃が残された全ての運命を引き裂くかの如く容赦なく落とされた。


 壁が落ちきる寸前ユキが最後に壁の向こうに見た光景は、台座の上で両膝を着き力なく上を見上げているチルドの姿だった。


 そして3体の鎧兵の巨大な武器が襲いかかった…。


ドスーーーーンンン!、ズズズ!


 あっと言う間に巨大壁は完全にふたりの間を隔ててしまった。


 ツインテと別れ離れになったときの壁と仕組みは同じながら、スケールが数桁違う超巨大な壁であった。


「そんな…小さい方のスイッチは意味が分からないって言っていたのに…解読できていたの…そんな…そんな…この壁を閉じるために私達をこんな離れたところに…チルドの嘘つき…」



「私に力があれば…」



…チカラ…。 



「また何か頭の中に聞こえた…」


 掌にわずかに冷気が渦巻いていた。


「どうして…、さっきの声が?」


 左手のブレスレットが淡く輝いていた。


 ユキは迷わず壁に腕を向けて氷結魔法を撃ち込んだ。


「撃てた!」


 理由は分からない。 だが、完全では無いにしろユキには氷結、氷雪能力が戻って来ていた。


「急がなければ…!」


 巨大壁に弾かれる氷結魔法を気にせずユキは威力を高めた。


「行け―! お願い…私の氷…がんばって…」 


 放たれた氷結魔法はどんどん威力を増し、水晶型以外にもあらゆる鋭利な物体を模した超硬質の氷が想像を絶するスピードと量で巨大壁へと撃ち込まれた。


ギュイーンッ、ズキャズキャズキャズキャッ!


 放たれては砕け、放たれては砕けを繰り返していた氷結魔法の氷の1本がとうとう壁の表面にひびを入れた。


「ああ…力が尽きる…ブレスレットはこんなに輝いているのに…このブレスレットは私の力とは関係ないの…?」


 果てしの無い激しい攻防にユキの意識が遠くなってきたとき、背後から何か気配がしてきた。


「むにゃむにゃ…」


 ユキは、失いそうだった意識をハッと戻した。


「誰かがワタクシを呼んだゾ…むにゃ」


「ツインテ!」


「ツインテ起きて! …今、すぐに! 即!」


「むにゃ? おお、ワタクシは寝ていたのか? ユッキーよ、今ワタクシに目覚めよと申したか?」


「そう! 早く起きて!」


「うーん、それではいつものいくか…」


「特大のをお願い!」


「方向はあっち! 氷がぶつかってる壁の方向! 地面にはまだチルドがいるから、ほんのちょっと上を狙って!!」


「3、2、1!」 


「メガトン超爆破魔法! おっ! はっ! 魔人! ドッカーン!!!」


 その直後、ユキの背後から光と共にとんでもないエネルギー量の衝撃波交じりの爆発が一筋放たれた。


ヒュイーンッ! ドギューゥゥゥゥゥゥン!!! ズゴゴゴゴゴゴゴググゥォォォォーン!!!!!!… バリバリバリ、ガガガガガガ…


 光、熱、衝撃、振動が収まると壁に溶断されたような断面の大穴が開いていた。


 煙はさほど残らず、莫大なエネルギー量の前に煙さえも焼き尽くされ消滅させられたかのようであった。


「…見え! …見えた!」


 陽炎の中、巨大壁の穴の向こう側に見えた光景は、鎧パーツの混ざった3つの砂の山であった。


 各砂山の上には、ツインテの爆破術で所々破壊された武器がまだ高熱を発する状態で墓標のように突き刺さっていた。


 その3つの砂山の中央に、両膝で立ったままユキが最後に見たときと同じ体勢で佇むチルドがいた。


 ユキは高熱になっている壁の大穴を残った最後の冷却能力で冷やし、穴を通り抜けチルドの元へ急いだ。


「もう訳が分からなくてもいい。 チルドが生きていてくれさえすれば…」



 駆け寄ったユキはチルドの目が微かに動いたのを見て、チルドに抱き付き泣き崩れた。


 チルドは満身創痍のシャットダウン寸前で手足を動かすことさえ困難であったが、その中枢機能はまだ健在であった。



「生きていてくれてありがとう…」


 ユキの瞳に涙があふれた。



               ・



 ツインテの記憶はまた曖昧で、ダンジョン内でユキと別れ離れになってから目覚めるまでのことはよく覚えてないと言っていた。


 ただユキが聞いた謎の声と同じような声を聞いて目覚めたことは薄っすらと覚えているとのことだった。




 ユキの髪はまた白に近い色になった。


 だが、今回は魔力が底を突くことはあっても完全に力を失うことは無かった。


 ブレスレットに正体不明の力があるようには思えたが、これも今後の課題ということで保留とした。




 鎧兵の残した鎧の中は亜麻色の土砂だった。 彼らの鎧の中はダンジョン内の土で作られたゴーレムだったのだ。


 あの巨大壁が落ちて閉まったとき、絶対絶命だったチルドの周辺に何らかの力が作用したのは明らかであった。


 チルドの周辺の時間がとてもゆっくりと流れた可能性もあれば、全く別の現象だった可能性もあった。


 このダンジョンでの出来事は何か所々ユキ一行を試していたような節がある。


 そう考えるユキであった。


 ツインテを助けようとして後を追ったユキ。 ユキを救助しようと追ったチルド。 そのチルドを最終的に助けたツインテ。


 どこかで誰かがそれを観測していたのではないか。


 いくつかの謎は残った。


 だが、そんなことは今のユキにはどうでもいいことだった。


 大切な家族が助かったのだから…。



               ・



「おお、チル! いたのか。 じゃあそろそろ帰るか! 体も服もずいぶん壊れてるな。 わんぱくもホドホドにしろよ。 ユッキーに嫌われるぞ。 帰ったらワタシの修復魔法で直してやるからなっ」


 そう言ったツインテが指差した方向には大広間の奥の通路があった。


 そこにはキラキラと光るユキ家の地下室の床から転送されたときと同じ光が、柔らかく輝いていた。



「帰ろう、わが家へ」


 ユキはチルドの手をとって、そっと語りかけた。




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