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35 剣と願いと、です


「ズンドド、ゴゥーン、ゴゥーン、ハイゴルグ前腕ミサイル発射! どうだパープレア!」


「とうとうここまで来たか! とりゃっ、必殺ジル寒冷地仕様ミサイル返し! ぐるん、ドババババッ、ツインテ敗れたり!」


「なにを-! ハイゴルグ前腕ミサイル返し返し氷上スペシャル! ガシガシガシ!」


「ジルマシンガン北極大陸乱れ撃ち! ズガガガガガガンッ! どやっ!」


「くぅ、なかなかやるようになったなレアよ…」


 ツインテとパープレアはテーブルの上でロボットの玩具で遊んでいた。


「ふぅ、今日はここまでにしといてやるか、レア。 あと北極に大陸は無いからな、アホの子だと思われぬよう覚えておくように」


「おぅ、そうだったか。 随分と遊んだな。 あまり遊び過ぎると間接が緩くなるらしいぞ、コレ」


「そうなったらまた直してやる」


「いいなー、ツインテの修復魔法は便利で…」



「ユキとチルドがいないようだが、知ってるかレア?」


「チルドならさっきまでキッチンにいたな。 水を飲みに行ったら包丁を()いでいたぞい」


「まあ、昨日マリコが『包丁でも研いで楽しみにしてるといいわ』なんて物騒な事を言ってたからな。 真に受けるのもどうかと思うんじゃが…」


「それが、ずっと考え事をしながら研いでいたようで、研ぎ過ぎて包丁が一回り小さくなってたんです」


「チルドは思い詰め過ぎだよな、あれ」


「異空間でのツナマヨ達の戦闘ではいろいろと過酷なものを目撃してしまいましたからね。 どうしてもマリコの冗談が悪い方にだぶって見えてしまうのでしょう」


「そうじゃな、レア。 うーむ、全く在り得ないとは思うんだが、もしマリコ達がマッドサイエンティスト集団で今までの行動が全て大悪事の準備だとしたら、まあ大変なことになるだろうな。 だが、それは取るに足らない妄想、空想の産物だ」


「それであれでしょ、鬼畜殺戮マシン仕様にしたチルド量産機を大量生産してこの家に攻め込んでくるとか。 そんで攻め込まれた側が『やはり最後の敵は人類だったか』とか、カッコよく言うやつ。 くーっ」


「まるで先週一挙配信で見たアニメみたいな展開じゃな」


「『超世紀エクスゲリオン』ピキピキピキン!」


「それそれ、それじゃ」



               ・



「こんなところにいたのですかユキ」


 マリコとのやり取りがあった次の日の午後、2階の屋根に増設されていた大き目の飾り煙突をちょっとしたバルコニー代わりにしていたユキの(もと)にチルドがやって来た。


「うん、こういう日はここ風が気持ちいいの」


「このハシゴ上りますね」


トシトシトシトシ


 チルドが上ると煙突の中は丁度ふたり分くらいのスペースだった。


「何か考え事でしょうか?」


「そうよ。 あの壁の向こうにツナマヨがいると思うとね」


「私達には見守り待つことしか出来ません」


「はがゆいわね…。 私ツインテに言われちゃった、『リーダーが狼狽(うろた)えるな』ってね。 だめなリーダーね」


「ユキ…。 私もパープレアに言われました。 『マリコを信じてないのか?』と。 かつて永久を信じてなかった私を、また繰り返しそうになってました」


「いつの間にかツインテ、パープレアの方が大人なのね…」


「そうかもしれませんね」


ブルル…


「ちょっと半袖だと寒いくらいになってきたわ。 亜熱帯並みになっていた南極のこの地域の気温がこんなに下がるのは久しぶりのようね」


 肩を抱えたユキの吐く息が微かに白くなっていた。


「小雨も降ってきました。 予報によると気流と低気圧の兼ね合いで、偶々(たまたま)一時的に気温が低くなるレアケースのようです」


「そろそろ戻りましょうか」


「はい」


 ユキ達は煙突から2階へ降り、煙突は上部に設けられていた扉で閉じられた。



               ・



トコトコトコ


「おお戻ったかユキ、チルド。 丁度おぬし達の話しをしてたのだ」


「私達なら大丈夫。 どんと構えて待つわ」


「その意気じゃ」


「まあ、肩の力を抜くことだな」


「パープレアも偉そうに言うようになったわね」


「ユキ、元々私は言う方だぞ」


「そうね。 最初はあんなに口が乱暴でしたからね」


「もう、チルドまでぇ…」


「クスクス、フフフ、アハハハハ…」


 パープレアは口を尖らせ、皆は笑顔を取り戻した。



「ええと、マリコからメールが来てるわね。 うーんと、『もうすぐ届く、待つように』とだけ書いてあるわ…」


 4人は向き合い1回頷くと何も持たずに玄関に向かった。


ピンポーン


 少し待つと呼び鈴が鳴り、インターホンの画面には全身隠れる黒いレインコートを着てフードを深く被った小柄な人物が2人映っていた。


「来たわ。 こんな時に玄関のライトが点かないなんて…顔が見えないわ。 インターホン、私が出る」


「はい、どちら様でしょうか?」


「…です」


「開きましょう!」


「顔も見えないし、ワタシには今の声はよく聞き取れなかったのだが、いいのかユキ?」


 ツインテがユキに確認すると、パープレアが息を呑んで見守った。


「もちろん、ねっ、チルド」


「はい!」


カチャ、クゥィーン…


 ロックが外され扉が開かれると、玄関ドアの外に立っていた人物達がお辞儀をしていた。


「…」



「おかえりなさい…」


 ユキとチルドから自然に言葉が出た。


「ただいま」


 2人の人物は声を揃えて答えると、『パッ』と、遅れて玄関の人感センサー式ライトが点灯し明るくなった。



 顔を上げた二人が同時にフードを後ろに下げ、顔が(あら)わになった。


「ツナマヨ!」


 ユキ達の目の前には目を潤ませたツナマヨ達がいた。


 ユキとチルドはスリッパのまま駆け寄り、玄関にいたツナとマヨに抱き付いた。


「私達はこの家に帰ることにしました。 これからこの家に住んでもよろしいでしょうか?」


「もちろんよ、ツナマヨ。 歓迎するわ…」


「よかった…戻ってこれたのねツナマヨ…」


 涙声でユキが歓迎すると、隣のチルドの目にも涙があふれた。


「ずっと、ずっと、住んでいていいのよ…」


「ありがとうございます、ユキさん!」


 ツナマヨ達は目を潤ませたまま微笑み元気な声で答えた。


 ツインテとパープレアは後方からその抱擁を暖かく見守り続けた。



「全く、この玄関照明はいい仕事をするな、レアよ…」


「何か仕掛けでもしてあるんじゃないですかね?」


「ハハハ、まさか、そんなはずはあるまいて。 ロボの体温には反応しにくいだけじゃろ」


「我々みたいな者は疑い深くなっていけませんね」


「そういうことだ。 フンフンフン♪」



「いつまでも玄関先ではなんだ、ちょっと寒いし中に入ろうユッキー」


「ぐすん、そうねツインテ」


 ユキはツナマヨ達の持っていたボストンバッグを手に取りチルドに渡し、サッとふたりのレインコートを脱がした。 すると、やはりその下は例のメイド服だった。


「クスクス、ユキはこんなときでも脱がすのが上手なんですね」


「そうよチルド、そうなのよ、グスン。 さあツナマヨ、家に上がって!」



               ・



「ヨシ!」


 リビングのテーブルの上にあったロボット玩具を片付けたユキが皆の待つソファーに座った。 


「では! ツナマヨ達の帰還を祝して! …何をしましょうか?」


「無策かユッキー!」


「もう嬉しくて嬉しくて何をすればいいのやら! まあ、とりあえず教えて、どうして戻って来れたのか。 皆、気になってたの」


 皆の視線が、ツナマヨに向けられた。


「それは…、あれを使ったのです。 あの剣を」


 腕を胸の高さまで上げたツナが、掌を上に向けて軽く開いた。


「私達は2本目の銀の剣を使いました」


 マヨが胸に手を当て何かに感謝するような柔らかな表情をして言った。


「2本目の銀の剣と引き換えに願いをひとつ申請しました」


 ツナの掌からどういう仕組みかキラキラと微かな銀色の粒子が出て煌いた。


「その願いとは、この家に帰還することでした」


 マヨは両手を軽く広げ、天を仰ぐように斜め上を見上げた。


「私達の願いは研究所に聞き入れられ、ユキさんが迎え入れてくれた場合という条件付きでここに住むことを許されたのです」


 ツナは胸の前でぎゅっと拳を握り締めユキの方を見て力強く答え、マヨも頷いた。


「そうなのね! ちょっとはそうかとは思ったんだけど、本当に戻って来れたのね。 良かったわ…ぐすん」


「泣くなユッキー、パープレアが湿っぽいのを嫌っているぞ」


「ううう、うわぇーん」


「お前が泣くのか、レア」


「だってツナマヨ達が苦労して帰ってきたんだよー、うわぇーん」


「はい、ティッシュをどうぞ」


「ありがとうチルド…、グシュシュ、ズズ…」


「クスクス」


 小さく笑ったチルドであったが、彼女もまた持っていたおしぼりで目頭を押さえていた。


 晴れやかな気分になったユキは、隣にいたチルドの手をポンと叩きソファーにめり込むように仰向けになった。


「チルド、良かったわね」


「ええ、とてもいい結果になりました。 ユキ」


「マリコを疑っておろおろしていた私達ってバカみたいね」


「マリコのジョークは分かりづらいです。 私でも理解に苦しむ部分が多々あります…」



               ・



「マリコの言っていたツナマヨ教官就任の話は本当だったの?」


「それは事実です。 記憶データの提出を拒んだ私達は、そのままでは新たに生産される正式量産機への経験のフィードバックができませんでした。 これでは正式量産機が人間社会に送られてから躓く原因になりかねません。 私達の経験が活かせないのは避けたいところでした。 なので1本目の銀の剣と交換するという形で、研究所から正式量産機の教育を担当する任を得たのです」


 ツナが答えた。


「つまり、この家の内情を喋らないという約束の為に1本目は使われたのね」


「偉いのうツナマヨは、そうは思わんかレアよ」


「私が名付け親ですから、えへん!」


「クスクスクスッ」


 ツナマヨ達が口に手を当てて笑った。


「仕事場は取りあえずは隣の研究所になりますので、この家から通わしてもらいます。 まだ詳細は決まってないですが、研究所での仕事は大体週5日、9時から17時です。 帰宅後と土日はこの家のメイドをします」


 マヨが意気込みのある口調で話した。


「まあ、そんなに働き詰めでなくて、家事はチルドと当番制にしてゆっくりやるといいわ。 いいわね、チルド」


「はい! ユキ、ありがとうございます」


「ヨシ、これで全て解決! ユキ家の明日は明るいわ!」


「今夜は皆で風呂でも入るか」


「おう、ツインテ、それいいな! ジル対ハイゴルグで水中大決戦だ!」


「たぶんジル寒冷地仕様は水中では弱いぞ。 大体、泳げるのかあれ」


「そうなのか!」


「クスクス、アハハ…」



               ・



 丁度その頃、隣の建物の窓からユキ家を見下ろす2人の人影があった。


「無事、帰れたみたいですねあの子達」


「永久さんがそうなるようにご尽力されたんでしょ」


「あれっ、おかしいなー。 川村君だって会議でだいぶ肩を持ってましたよ」


「まあ、そういう風にも見えたかもしれませんね。 うふふ。 今度一緒に遊びに行きませんか?」


「え!? この辺に行楽施設なんてありましたっけ? それとも海岸かどこかですか?」


「ユキさんの家に決まってるじゃないですか。 話しの流れ的に言って」


「ですよねー」


「さあ、私はもう少し正式量産機の実験の方を見なくちゃ」


 そう言うとマリコは白衣のポケットに手を入れ振り返り、(すそ)を揺らした。


「頑張ってますね、川村さん」


「それはもう。 人類復興が懸かってますから」


カツカツカツ…


 厚い雲の合間から覗いた夕日が研究所の窓ガラスに弱く反射し、2人の人影は満足気に建物の奥へと消えるのであった。




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