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30/36

30 それぞれの結末、です


「姉さんいるかー、いるのかー、いたら返事をしてくれー!」


 魔力の激突による大爆発の熱と煙が残る中、パープレアは瓦礫を乗り越え姉であるエクセルシアを探した。


「うーん、まだ地面の熱が酷いな…。 姉さんは退却したような雰囲気ではなかったんだけど…。 そうだ、魔法帽子、探知機能!」


グワッ、ギュルンギュルン


 パープレアの魔法帽子の目が大きく開きギョロギョロと動き、猫耳が一回り大きくなりピンと立ち辺りを探索し始めた。


ガラガラッ


「むむむ、今、何か音がしたな。 こっちか…」


タタタッ


「魔法帽子からのイメージではここに瓦礫とは違う何かがあるな…ええと」


 そう言うとパープレアはマントを(ひるがえ)し風を起こした。


バサッ、ヒューン


 パープレアの周囲の煙が一時的に薄くなり、地面が十分に見えるようになった。


「姉さんここかー、この下にいるのかー」


ガラガラ、パラパラ…


 パープレアが瓦礫を押し退けると神官ロッドの上部が見えた。 ロッドを辿って薄暗い瓦礫の隙間を見ると、今度はロッドを握った腕が見えた。


「これは少し難しいな…。 うーん、もう魔力は殆ど残って無いんだけど小さいのなら1回くらいなら行けるかな…破壊魔法プチフットバシーノ!」


ドウンッ…


 パープレアが魔法で瓦礫を吹き飛ばすと(うつぶ)せになったエクセルシアの姿が見えた。


「伸びてますかー、あーやっぱりこりゃ重症だな…。 よっこらしょっと」


ズズズ…


 パープレアは残った小さな瓦礫から姉を引き出し、煙の中なんとか引きずり移動を始めた。


「こんなところで寝ていると風邪をひきますよっと。 まあ熱でまだ暑いんですけどね。 さあ、帰りましょう」


ズズズズ…


「そんなにそのロッドが大事なんですか…。 意識が無いのに手放さないなんてすごいですね…。 本当は意識があるんでしょ? なんで殺さないのですか? 今なら不意打ち出来るのに…」


ピキン! ズシャッ!


「うぐっ!」


 マントを突き破りパープレアの背中に鋭い氷の槍が突き刺さった。


「ふふふ、妹がでしゃばったことをするからよ。 本当にあなたは甘い…。 私がやらないと思ったの? 姉の方が絶対的に偉いの! それが世界の常識!」


ギュイン、ジャリジャリジャリ、ガシャン!


「ぎゃ!」


 煙を裂いて高速で飛来したチェーンが、エクセルシアを近くの突き刺さっていた大きな瓦礫ごと雁字搦(がんじから)めに拘束した。


「っく…、どこから?」


「これはユキが飛ばしたツインデイルチェーンのようですな…弱っている相手にならこんなこともできるんですね。 ゲフッ、ゴホッ」


「そこまでだ!」


 駆け付けたツインテが叫んだ。


「なんでこんなことを…返したチェーンをすぐに使えと言っただろ!」


「そうなんですが、ちょっと姉にやられてみたくなって」


「姉の顔を立ててやるつもりだったのか? 本当に馬鹿なんだな…」


ドスンドスンドスン


「また何か来たぞ…」


 煙の中から薄っすら姿を現したそれはチルドの3Dプリンタ機能で作られ動かされた鋼色鎧兵だった。 


シュタ、シュタッ


 近付いた鎧兵からふたりの人影が分離し、煙の中から現れた。 それはユキとチルドだった。


「おおユッキーとチルドか、いいところに来た」


「パープレアは大丈夫!?」


 ユキが近付きパープレアの背中の傷を心配した。


「だ、大丈夫です、ゲフッ」


「ううむ、おぬしわざと刺されたようじゃが、刺さったのが氷の槍でまだ良かったな」


「そうなんです…。 私のスク水魔法服は水系攻撃にある程度の耐性がありますからね…致命傷にはなってないはずです。 まあ普通に痛いんですけどね。 ゴフッ」


「遠くからセンサーを通して見ていたのですが、最後に何をしているのかと思い心配しました」


 チルドが安心したような表情で話しかけた。


「私のチェーンもチルドに方向を指示してもらって飛ばしたのよ。 ちゃんと命中したみたいで良かったわ」


「うむ。 チルド、向こうにツナマヨ達もいる。 だいぶやられているがまだ生存してるぞ」


「はい、何かとんでもない事態になっていたようですが、無事で良かったです」


シューン、キラキラキラ…。


 時間切れとなった鎧兵が、ピンク色の粒子になりチルドの左腕に戻った。



ギューン、ガキュイン、ジャラジャラジャラ…


「今度はなんだ!」


 遠くから投げられた大型の剣がエクセルシアを拘束してたチェーンを一気に切断し、エクセルシアは力なく地面に落ちた。


「これはジキタリスの剣じゃな。 エクセルシアのロッドまで真っ二つだが…」


 ツインテが難しそうな顔をして言った。


 風が吹き立ち込めていた煙が去ると少し離れた上空にジキタリスがいた。


「ガハハ、お前達は強いな」


「まだ闘う気!」


 その場にいた皆が警戒態勢を取った。


「まあまあ、話しを聞け。 お前達は6人中、重傷者2人、軽傷1人、だが一応全員生存。 こっちは従者4名を失い、俺は元気だがエクセルシアはもうあのざまだ、その拘束していた鎖で最後の魔力も尽きしばらくは戦力になるまい。 俺も馬鹿ではない、1対4で勝てるとは思ってない。 あれだけボロボロになっても奮闘したツナとマヨとかいうやつと同じ外見のチルドか、こいつが無傷でいるのも厳しいな。 今回の決闘は俺達、背信者討伐隊の負けだ。 認めよう。 俺達も役人の端くれ、勝ち目の薄い闘いはしないのだ。 エクセルシアはそこのところ見誤ったようだがな、ガハハ」


 ユキ達は、ハッとしたような明るい表情になり顔を見合わせた。


「お前達は勝利した。 勝者であるお前達はもう魔法界の役所の刺客から命を狙われることは無い。 この剣とロッドはお前達の勝利の(あかし)だ。 持って帰るがいい。 あぁそうだ、俺の剣とエクセルシアのロッドの宝玉は取り外してもらった。 あれは戦闘記録も入っていて役所への報告に使うんでな。 ガハハ」


 そう言うとジキタリスは念動力のような力を使い、周囲に散乱していた剣と壊れたロッドを集めユキ達の前に差し出した。


「これが闘いに勝った証…」


 ユキは闘いが終わってほっとしたような表情で肩の力を抜いて剣を見た。


「ふむ、ツナマヨ達に負けた従者の銀の剣2本もあるようじゃな。 では…修復魔法リペエイデス!」


 ツインテが修復魔法を唱えると周囲の煙の一部が大量に集まってきて細長い状態になり、さらに銀の剣が2本現れた。


「これはエクセルシアの破壊魔法に巻き込まれて消えた従者の分じゃ」


「ガハハ、うまいことやるな。 それもお前達の戦利品だ。 好きなようにしろ」


ゴゴゴゴゴゴ…


「どうやらこの空間ももう直ぐ消滅するようだな。 お前達にはなかなかいい闘いを見せてもらった。 ユキとやら、お前の腕のそれはツインデイルの腕輪と魔女の腕輪、ツインテとパープレアに信頼されているようだな…ふたりを頼んだぞ。 ではさらばだ! エクセルシアいつまで寝てる、行くぞ!」


 ジキタリスは上空に空間の裂け目を作り、念動力でエクセルシアを引き寄せ、脇に抱え裂け目へ向かい、最後に「ガハハ」と言い残しやがて空間の向こう側へ消え去った。


「終わった…、終わったのよ…。 私達も帰りましょう。 ってこの空間が消えれば自動的に戻れるのよね?」


 ユキがまた心配そうにツインテに尋ねた。


「そうだな。 そのはずだ、問題ない」


「チルドはどこいった? あぁ、あっちか」


 パープレアが見回すと、チルドがいつの間にか離れた場所にいたツナマヨを抱えて戻って来るところだった。


「剣も持ったし、みんな、忘れ物は無い? よし! 帰るわよ!」


 ユキが皆の手を繋がせた。


ブワワワン


 空間魔法が解除され始まり、辺りの光景がさらに歪みゆらゆらと揺れだした。


バッ


「…おっとこれは???」


 空間魔法が解除される途中、ユキ達一行が目にしたのは空の上から見た視界全面に広がる素晴らしい空と大地の光景だった。


「これは魔法界の上空からの光景だ。 あの大爆発で空間の構造にだいぶダメージを与えてしまったので空間仕様がバグって魔法界が見えているようじゃな。 まあ一時的なものだ、直ぐ戻れる。 安心せい」


「わーこれが魔法界…」


 ユキは眼下に広がるあまりの絶景に思わず目を丸くして見入った。


「これはエクセルシアお姉さまからのプレゼントかもしれませんよ!」


「レアよ、いいこと言ったつもりだろうが、ここでエクセルシアにそんなことを思えるやつはお前だけだからな」


「ゲフッ…ニャッ!」



               ・



ズギャーンッ…ピシピシ


「わー、やっと戻って来た。 うちの廊下だ廊下! なっつかしい!」


「ユキ、まだあの空間に入ってから4時間しかしてませんよ」


「長い4時間だったわね…チルド。 まあまあ、何か飲んでからお風呂でも入ろー。 あ、ツインテはツナマヨ達の修復を先にやってあげて疲れてるところゴメンね。 パープレアは背中大丈夫? 剣は取りあえずそこら辺に置いといて。 みんな! お疲れ様でした!」


「オー、ワイワイ、ガヤガヤ、ゴフッ」


 ユキ達一行はやっと通常空間に戻り、廊下に賑やかな会話が響き渡った。




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