29 魔力激突、です
「なんてこと、お人形達が私の操作魔法を破ったの!? そんなことはない、そんなことは今まで一度もなかったの。 だからこれは何かの間違い。 そうだわ、その人形に欠陥があったのよ、そうよ、私の魔法は何一つ間違えてない」
エクセルシアが初めて動揺した素振りを見せた。
「エクセルシア姉の支配力をツナマヨ達は超えた。 もう彼女達に操作魔法は効かない!」
パープレアが宣言するかのように言い放った。
「ふん、そのくらいで調子に乗らないでね。 駄妹が」
そう言うとエクセルシアはまた転送魔法を唱え、ジキタリスの従者2人を手元に転送した。
強引に引き寄せられた従者達は一瞬何が起こったのか理解できないようで周囲を見回した。
「おいおい、操り人形達を失ったからって俺の従者まで持って行っちまうのかよ。 勝手なことを」
左の空間で観戦していたジキタリスが剣で地面を突き嘆いた。
ジキタリスと同じ空間から見ていたユキとチルドは、先程まで行われていたツナマヨ対ツインテパープレア戦の後、安堵していたがそれも束の間、また透明の壁に手を着いて食い入るように見始まった」
「ツインテ、パープレア! 負けないで!」
ユキの声が壁に弾かれ空間に木霊した。
「破壊魔法デウエクセクラッシュ」
ギゴゴゴゴーッ、ドグワーンッ!!! ドッゴーン、グワワワワヮヮヮ…。
パープレアが2度目の破壊魔法をエクセルシアに撃ち込み爆炎が上がった。 が、1度目と全く同じようにロッドを掲げたエクセルシアに防がれた。
「ふー、だからそれは効かないって言ってるでしょ。 なんのつもり、零点破壊魔法使いのお馬鹿さん」
「修復魔法リペエイデス!」
爆炎が収まる間を待たずツインテが修復魔法を唱えた。
「ふん、何を直すと言うの? そのお人形さん達かしら? ん…?」
ブオオーン、キャリキャリキャリ、ギャリギャリギャリ
「あ、あれは!」
パープレアが身を乗り出し、エクセルシアの周囲に漂った爆炎が残した煙の中を凝視した。
煙の中、エクセルシアを取り囲むようにチェーンが出現し、それが急速に収束してエクセルシアと従者2人をセットで締め上げた。
「捕らえた!」
ツインテの腕に力が入る。
「あれはツインデイルチェーン! いつの間に!」
パープレアが叫んだ。
「これはだな、レアが1発目に撃った派手な破壊魔法のときに仕込んでおいたのだ。 チェーンを修復魔法の逆の原理で分解して煙の中、大気に忍ばせた」
「おお、それで気体になったチェーンが敵の間合いに入ってから、今度は修復魔法でチェーンを再生復活させたんだな」
「そういうこった。 気付かれずにこっそりやるのは大分難しかったがな」
「…全方位破壊魔法デウエクセイレーズ!」
ビキビキビキ、ズバババババリバリバリ、グゴゴゴゴゴォゥォゥォゥォゥ!!!
煙の中エクセルシアが破壊魔法を詠唱するとエクセルシアを中心としてとんでもない衝撃が発生した。
「ふう、魔力封じのチェーンで拘束されてもまだまだやれるのか…」
ツインテはやれやれといった呆れ顔をした。
「私の魔力を甘く見積もったわね。 でも服が汚れたわ、よくもやってくれましたね…」
全方位破壊魔法で周囲の何もかも吹き飛ばしたエクセルシアが今までにない厳しい表情でツインテを睨んだ。
「さすがパープレアの姉。 レアに似てるぞ行動パターンが」
「何を言う! そんな出来損ないと一緒にするな!」
エクセルシアが怒りを露わにすると、パープレアが引き怯えた。
「今の全方位破壊魔法で拘束していたチェーンは消滅したが、同時にあんたが呼び寄せた従者の2人も消え去ったぞ。 いいのか?」
ツインテが問い質した。
「それがどうした、たかが銀剣従者、惜しくはない!」
「ふ…、大変だなあんたの従者も…。 まだ勝負を続ける気か? 言っておくがあんたに勝ち目は無いぞ」
「ふざけた冗談を」
「うむ、反応があのときのレアそっくりだ」
グゴゴゴゴ…
「この振動、この空間の寿命が迫ってきた証だ。 もうあんたらのこの空間での優位性も弱まってきている。 その上2対1だ、それでもやるのか?」
「当然でしょ! 私は負けられないし負けるはずがないの」
エクセルシアの口元が微かに笑った。
「しょうがない、ではやるかのう。 レア、準備だ」
「ぉ、おう!」
3人は目を閉じ集中し魔力を高めた。
巻き上がった魔力と大気が反応し淡く光り、旋風のように3人の周囲を渦巻いた。
グゴゴゴゴゴ…
「………」
「ヨシ! 行くぞレア! 3、2、1!」
「超絶爆破魔法! ギガ魔ズドーンインフェルノ!!!」
「最大破壊魔法! デウエクセクラッシュマグナ!!!」
「空間爆砕魔法! ゲムエクセペリメンブラスト!!!」
3人から同時に全力全開の凄まじい攻撃魔法が放たれた。
ヒュイーンッ! ピキッギュワドギューゥゥゥゥゥゥゥゥン!!! ズバババズゴゴゴゴゴゴゴググゥォォォォォォーン!!!!!!… バリバリバリギャギャギャ、ガツガツガガガガガガガ…ズシャシャシャシャッー、グウォンウォンウォン…
とてつもないエネルギー同士がぶつかり合い混ざり押し合い弾けまた果てしなくぶつかった。
地面は衝撃で捲れ上がり砕け、熱で溶解し、振動で吹き飛び大きく歪み、舞い上がった大量の砂塵は光で焼き払われ、オレンジ色の閃光を放ち塵となった。 空間を隔てていた透明な壁にも大きな亀裂が走った。
「レア、退避だ!」
ツインテとパープレアはツナマヨを抱き抱え、爆発地点から遠ざかる方向へと
走った。 だが、然程走る間もなく猛烈な爆風が迫った。
「やり過ぎたか、吹き飛ばされる!」
グオーン!
「これは!」
パープレアが声を上げると、轟音と共に上空から飛んできた大きな物体が後方に次々と落下した。
ドスーン、ガキーン、ガキーン、ガキーン!
「これは…氷塊と遮蔽物…どちらもやたらと巨大だけど…」
パープレアが後ろを振り向くと、氷塊と遮蔽物が後方を塞ぎ爆風の大部分が逸れていた。
「おそらく、ユキとチルドの能力で作られた物体だな。 透明な壁が機能を失い、物が通れるようになったのだろう」
グゴゴゴゴゴゴ…。
「いかん空間が不安定だ…。 レア、どこに行く!」
「ツナマヨを頼みます、私は姉さんを見てきます! あんなんでも姉なんです」
「…まったく…。 これを持って行け。 エクセルシア捕獲に使おうと思ってレアから拝借しておいたチェーンブレスレットだ。 油断せずにすぐに使うんだぞ」
ツインテはそう言うとブレスレットを投げてパープレアに返した。
「ありがとう! 行ってくる!」
ブレスレットを受け取ったパープレアは、まだ熱を帯びた砂煙が立ち込める中
エクセルシアの元へと走った。




