27 送られた3つのコマンド、です
「あの子達、ダメージを受けて完全に停止してたはずなのに、どうして動いてるの? 何か目覚めのおまじないでもしたのかしら? 魔法はこの透明な壁を通らないはずなんですけどね」
神官のロッドを左腕に持ったままのエクセルシアが、中央の空間を見ながら不思議そうに言った。
「通ったんだよ、チルドからの目覚めの信号が。 あんたの従者が止まってる間にな。 ショーを自分で直接楽しむために、手足のように動かせる従者をマニュアル操作にしていたのがまずかったな」
ツインテがそう言うとエクセルシアは少し驚いた顔をしたが、直ぐにまた通常の余裕ぶった表情に戻った。
「ツナマヨ、がんばって…」
両腕を前方にぶら下げるようにしてふらふらと立ち上がったツナマヨを見て、パープレアは呟くようにエールを送った。
「ふふふ、でもね、あれじゃ勝てないの、従者だって強いのよ。 この従者はそれなりの上位魔法を込められて作られた魔法界でもハイレベルな品。 マニュアル操作はもう止めて、敵殲滅モードにするわ。 さあ大変、もう私にも止められない。 どんな具合で切り刻まれるんでしょうね、わくわく。 はい、ショータイム続行!」
「ガハハ、お前達、今俺が向こうの空間の戦闘を見てる間に従者のローブを剥ぎ取って小細工したな!」
ツインテ達の反対側の空間でジキタリスが笑いながら怒った。
「服を剥ぎ取るのは得意なのよ! チルドのナイフでちょっとだけ切らせてもらったけどね」
ジキタリスを睨みユキが声を上げた。
「この空間はあなた達に都合のいいように改変され作られた空間。 あの壁をあなた達の声だけが容易く通るのがいい証拠。 あなた達は壁に遮られることなく行動できる!」
「ほう、それだけでよく気が付いたな」
「分析して答えを導き出したのは隣のチルドよ」
「エクセルシアの従者が中央空間に転送されたのは、壁の通り抜けを自分達だけが知る情報として隠したかったから。 隠し玉として万が一の場合に壁の向こうに逃げ込み反撃するなどメリットが多々あるでしょうから…」
右腕に焼け焦げボロボロになった従者のローブを巻き付けたチルドが、ジキタリスに向かって言った。
「ガハハ、それで俺の従者のローブを奪い腕に巻いて壁を貫通させたか。 うーむ、腕の先から何か命令を送ったんだな」
「その通り」
「なかなか頭が回るようだなこの人形は。 ガハハッ。 それでどうする。 あっちのお前そっくりのお人形2体は立ち上がったが満身創痍だぞ」
「このローブだけでは壁を通る効果は低かったので、短い間腕を貫通させるのがやっとでした。 ローブが燃え尽きるまでに通信できたのは短い間。 彼女達には電波で3つのコマンドとひとつの情報を送りました。 コマンドのひとつは『再起動』、もうひとつは『自分の意思での行動』、最後のひとつは『生きろ!』。 送った情報は『その敵の正体』です」
「それでどうなる?」
「それだけで十分です」
「ガハハ、それは面白い! では見せてもらうぞ、このショーの続きをな! あぁ、俺への不意打ちは無しで頼むぞ。 俺は今、このショーの結末を見届けたいんだ!」
そう言うとジキタリスは中央の空間に目をやった。
ギュイーン、ズガズガズガッ!
中央の空間ではツナ、マヨ対エクセルシアの従者2人の闘いが行われていた。 それは丁度1対1の状態で火花を散らし凌ぎ合う激しいものとなっていた。
殲滅モードになった従者2人は両腕の肘から先が刃物になり、猛烈な殺戮マシンと化していた。 高速で振られまくる左右からの斬撃をツナマヨ達はチルドから与えられていた盾とナイフで何とか防いでいたが、劣勢の防御態勢が続いた。
グワッ、ピキ、ズギューン!
閃光と共に轟音が響いた。 2人の従者の仮面の口部分から強力なエネルギー弾が撃ち放たれ、防御したツナとマヨのシールドを軽々と粉砕。 エネルギー弾を撃った従者達の仮面の下半分は割れて白い煙が漂い、人のような銀色をした素顔が見えていた。
「普通に押されてるじゃないか、所詮壊れかけ人形。 盾も吹き飛び、あれをもう一発受けたらおしまいだ。 時間の問題だな、持ってあと1、2分。 ガハハッ」
観戦中のジキタリスが笑った。
ジャキジャキジャキン! シュタッ、シュタッ
双剣を振り回す従者の猛攻をツナマヨは小刻みなジャンプを繰り返しぎりぎりのところで避け続け、従者が攻撃パターンを変えた。
ギュグッ、ギューン!
大きく体を捻りその反動で回転した従者がツナマヨに襲い掛かった。
ガリガリガリッ、ガガガガ!
従者は低い体勢で足を狙った攻撃をしたが、ツナマヨ達は紙一重のところで躱し、勢い余った従者の剣で削られた地面からは金属を切るエンジンカッターのような激しい火花と、砂塵が噴き出した。
グググ…
舞い上がった砂塵の中ツナマヨは後退し、体制を立て直し今までの前傾姿勢から直立姿勢になった。
…ピキュイーン!
収まる砂塵の中ツナマヨ達から遅れて再起動音がし、ふたりの瞳が一瞬赤く輝く。
キーンッ
「私はチルド姉さまからの信号で再起動しました…」
左腕で従者の肘を受け攻撃を防いだツナが、右手に持ったナイフで敵の次の攻撃を弾いた。
グワッ、ビュイン、ドグッ
「私は自分の意思で行動します…」
マヨと戦っていた従者が両腕を素早く大きく振り下ろし、空を切った。 咄嗟にマヨは敵の間合いの内側に飛び込み、黒いメイド靴で腹に蹴りを入れた。
ズガズガズガッ、グギャガガガ!
「私は生きろと言われました…」
ツナは頭で敵を押し付け前進し、右腕に持っていたナイフを右腕のアタッチメントに付け直した。
ギュイーンッ!
「あなた達の正体はただの剣です」
ツナと同じく右腕のアタッチメントにナイフを装備したマヨがナイフを高速回転させる。
ズギュッ、ズガガガガッ!
「なので容赦はしません!」
ツナが高速回転させたナイフを従者の胸に突き刺した。
ジャキンッ! ジャキンッ!
従者の両腕の鋭い刃物がツナマヨ達の背中でクロスして、強引に羽交い絞めするような体勢で必死の力を込め背中に食い込ませた。
ギャーガガガガッ! ガガガガッ!
「これが私の全力です!!」
ツナマヨ達は背中に食い込む双剣など気にせず、攻撃を続行。 高速回転を続けたナイフが激しく火花をまき散らし従者の体をえぐり続け、貫通。
ギュワワワワワワワッ!!
従者が狂ったように両腕の剣を振り回し始めた。
ツナマヨは後ろにジャンプして間合いを取り、右腕のネットを射出。
グワ、グワ、グワッ!
ネットが絡まった状態でも猶両腕の剣を振り回す従者がツナマヨに迫った。
ズシャッ! バシャシャ、グオーン…!
ツナマヨは左右に数メートルジャンプして避け、従者に狙いを定め左腕から排水用の水を噴射。 それと同時に左腕のバーナーからも炎を噴き出した。
噴射された水は従者にかかる寸前でバーナーの火炎により煽られ、白い靄となり辺りを包んだ。
ギュワワワワワっ! グワッ、ピキ、ズギューン!!
従者が怒り狂ったように体ごと猛スピードで回転を始め、靄とネットを切り刻み、再び口から強力なエネルギー弾を放ち靄とネットは一瞬で吹き飛んだ。
すぐに従者の回転は収まり、間髪入れずにツナマヨの方向を向き割れた仮面の下の口が光り始めた。
ダダダッ!
前傾姿勢で構えた従者2人の口が光ると同時にツナマヨは大きく左腕を上げダッシュで前進。
ズゴゴゴゴッ!! ウゴウゴ、ピキッ! ウゴ、ピキッ!
突進して近づいたツナマヨは、従者の光る口めがけて最大パワーで左腕を突っ込ませた。 従者の口はピカピカと明滅しエネルギー弾を撃とうとするが、前回の発砲から間が無く中途半端なエネルギーが弾け出るだけだった。
ツナマヨは左腕を口の中からさらに押し込み喉の奥まで到達させた。
「腕部バーナー最大出力!!!」
ツナマヨが揃って声を張り上げた。
グワグオグオオオオオオオンッ!!!
ツナマヨ達の左腕のバーナーが最大火力で唸りを上げて噴射された。
グワワワワワッ、ウガゴボ、ギャギョエー!!!
従者は立ったまま大の字になりあらゆる関節の隙間から炎が噴き出し、声にもならないような大きな絶叫をし固まった。
ツナマヨは従者の口から焼けただれた左腕を引き抜きジャンプして後退し、炎に包まで倒れ込むふたりの従者の最後を見届けた。
倒れた従者達は細くなり、やがて焼け焦げた痕のある銀色の剣になった。
戦闘終了と共にツナマヨ達の力は抜けその場にしゃがみ込み、まだ炎が点在する地面に残された剣を見つめた。
「…やっとプラズマに勝ちました。 お姉さま」
ふたりはそう言うと倒れ込んだが、お互いの体が支えになってもたれ合うような状態で辛うじて留まった。
「ふむ、どうやら勝負あったようだな」
ジキタリスが初めて真剣な面持ちでユキ達に語った。
「ツナマヨ…」
ユキとチルドは溢れる涙を拭くことも忘れ抱き合い、ツナマヨ達の生存をただただ喜び合うのであった。




