25 忍び寄る危機、です
無事昼食を食べ終わったユキ家メンバーは、リビングに集まり待機状態となっていた。
「すまんなユッキー。 私がこの家に住むことでこんなことになってしまい」
「いいのよ、ツインテとパープレアはもう私の家族なの」
「そうか、家族か…」
「ツナマヨはどうなったの?」
ユキが心配そうにチルドに聞いた。
「巻き込む訳にはいかないので、今だけ地下室で時間のかかる仕事を与えてあります」
「あそこならまあ、大丈夫そうね…」
「確かあの日ジキタリス達と遭遇したのは昼食後だったな」
ツインテが壁の時計を見ながら言った。
「そうね、昼食の蜜豆を食べて魔法服を修復してもらい魔法の試し撃ちをしていたときだニャ」
「おお、よく覚えているなレアよ」
「へへん、ニャ」
「正確に6日後に来るとしたら午後1時から2時くらいね。 もう直ぐ…。 どこから侵入してくるか分からないので注意して」
カツカツカツ
「ん、廊下から足音。 廊下は防犯カメラに映るわよね」
「はい、私の中で防犯カメラからの画像はチェックしています。 これは廊下を歩くツナマヨの靴の足音です」
「うーん、ふたり揃ってお手洗いかな…」
「そのようです。 余剰冷却水の排水らしいので問題は無いでしょう」
パタパタパタ
5分くらいするとまた足音がしてきた。
「ツナマヨが戻る足音ね」
「そうです…」
ふたりはアイコンタクトを取り、意味ありげな頷きをした。
キュー、バタン
ドアが開くとそこにはツナマヨがいて、リビングに3歩ほど入って来た。
「玄関にお客様です」
ツナマヨが口を揃えて言った。
「そんなはずはありません。 防犯カメラの映像で玄関はチェックし続けてます。 呼び鈴もなりませんでした」
チルドが不審そうに答えた。
「ですがすでに玄関にいらしてます。 普通の姿をした青年男女でした。 帰っていただきましょうか?」
「…玄関ドアのロックを無視して侵入してきた? ジキタリス達なら当然そんなことは可能なんだけど、もうこの家の中にいるってこと?」
ユキがそう言うと室内に緊張感が走った。
パープレアは息を呑んだが、ツインテは明後日の方向を向き左手で金髪ツインテールの片方をくるくると巻いてすまし顔をしていた。
「私達ツナマヨの目にはお客様が目視出来たのですが、防犯カメラには映らないのでしょうか?」
「映ってませんね、全く。 私が見てきます」
「ひとりは危険だわ、私も行く」
ゴトゴトゴト…
チルドが玄関の確認に行こうとするとユキも同行し、室内にふたりの靴の足音が響いた。
「…」
「はい、チェックメイト」
ドアの手前でツナマヨの左右を通り過ぎたユキとチルドは、通り過ぎざまチルドの斜め後方からツナマヨの肩に手を掛け、ゲーム終了の宣言をした」
ギュイーン、ジャラジャラジャラ
一瞬のツナマヨが振り返ろうとしたタイミングで、ユキの腕のブレスレットからするりと出現したチェーンがマヨの体に巻き付いた。
グワワワ、ジャラジャラジャラ
同時にチルドの腕のチェーン状ブレスレットも腕を伝いツナの体に移動し、大型化してツナの体を締め付けた。
「ハッ、いきなり何なのでしょうか? この仕打ちはいったい?」
ツナマヨ達は表情を崩さず冷静にユキ達に質問をした。
「ふーん、まあこんなところよ。 偽物さんっ!」
ユキが勝ち誇ったようにツナマヨに言い放った。
「あなた達の行動は足音の時点で十分に不審と判断できました」
そう言うとチルドはツナの足元を指差した。
「ああそうか! こいつらさっきまで履いていたはずのメイド靴を履いて無いぞ。 これはスリッパだニャ!」
「やっと気付いたかレアよ…。 あとよく見ろ、胸の名札も無いぞ」
「ホントニャ、こいつら正真正銘の偽ツナマヨニャ」
「全く良く出来ている変装だが、どうやら2、3日古い情報で変装してしまった外見のようだな。 偽ツナマヨ達よ」
ツインテがそう言うと無表情になった偽ツナマヨ達はチェーンによってさらに強く縛り上げられた。
グギギギギッ…、ブワン
魔力封じのチェーンに強く縛られた偽ツナマヨ達の変装が解け、フード付きの白いローブ姿をした無機質な仮面の人物となった。
「これは…確かジキタリス達に付き添っていた従者…」
ユキはまだまだ警戒を解けないといった表情をした。
「従者は全部で4人いたはずだったな…」
ツインテがそう言うと皆が頷いた。
バタッ、バタッ
ふたりの従者は硬直したような姿勢になり、その後直ぐに力が抜け床に倒れた。
「死んじゃったの?」
ユキが心配そうな顔をしてツインテに聞いた。
「いいや、 魔力封じチェーンの効果で無力化しただけだな。 それにこやつらに元々命と言えるものは宿ってない。 チルドの腕から作り出された造形物と同じように操られている物体に過ぎないのだ。 まあ普通に戦ったらこいつらでも相当強いだろうがな。 見ろ」
ツインテが倒れた従者を指差した。
ブォブォブォワーン…
倒れたふたりの従者が光りだし細くなり始め、やがてそれぞれ1本の鋭い真っ直ぐな銀色の剣になった」
「これが正体かニャ…」
「そう、この剣が従者の正体だ。 ジキタリスかエクセルシアが操っていたんだろうな。 どちらかと言えば魔法の得意そうなエクセルシアの仕業か」
「生きたり死んだりしてないならまあいいかな。 もうチェーンは取り外しても大丈夫? ツインテ」
「ああ、いいだろう。 こうなれば暫くは操作系魔法でも使い物にならんはずだ」
「よかった、チルド、チェーンは回収よ!」
「はいっ、ユキ」
ユキとチルドがチェーンを回収すると、ユキのチェーンは左腕の金色の細い腕輪の中に、チルドのチェーンは左腕にそれぞれ戻った。
「前回ジキタリス達に遭遇したときに従者は全部で4人だったわ。 残りの従者はふたり、あとジキタリスとエクセルシアを足して残りは4人ね」
「うーむ、ユキよ…相手が増員してなければそう言うことになるんだがな…」
「ええ? 増員とかありなの!?」
「それですがね、伝統的に魔法界での決闘は1対1が基本です。 そしてその理論で敵がふたりの場合は、やっぱり味方もふたりということになるのですニャ」
パープレアが答えた。
「ってことは、私達は計4人。 あいつらは合計6人だったので元々ジキタリス側が2名多いってことになるわね」
「ツナマヨも入れればこちらも6人になってしまったので、あの球状プラズマ戦での偵察でツナマヨの存在を知った向こう側としては、それを増員と見なし人数に変更は無しってところかニャ…」
「まあ、そうなるわよね…」
「それにしても姑息な手を使うのね…ジキタリス達って物凄く強いって言うから正々堂々正面から勝負を仕掛けて来るのかと思ってたんだけど…。 って、そうそうツナマヨ達はどうなったのかしら!? 確かトイレに向かったツナマヨ達はあの足音からして本物だったと思うんだけど。 どうなのチルド?」
「そうですねユキ、あのとき廊下を歩いていたツナマヨは本物で、戻って来たときには偽物になっていました。 防犯カメラの映像でも確認できてます。 現在ツナマヨとの通信は途絶えてますが…」
「やっぱり防犯カメラの無いトイレで入れ替わったか…。 心配だわ、行きましょうチルド!」
「待て待て、下手に分断されると良くない。 奴らの作戦かもしれん。 私達も同行するぞ」
「そうね。 じゃあ皆で行きましょう」
ぞろぞろ、ゴトゴト…
ツナマヨの身を案じ揃ってリビングから廊下に出た4人は、急ぎ足でトイレに向かった。
「…」
「…何か妙だぞ…警戒せよ…」
廊下を数秒歩いたところでツインテが小声で警告した。
「ですね…魔法帽子の方でも捉えてます…」
姿を見せず忍び寄る危機に再び4人は警戒態勢を取るのであった。




