23 メイド達の微妙アップデートです
「助手マリコからチルドにメールが来ているわ。 どうして私のところに来るのかは分からないけど」
ユキがチルドに伝えると、チルドはユキのノートパソコンのメールをチェックした。
「これは腕の機能のアップデートの指示です。 こちら側でやっておきます」
ピロリン
「終了しました」
「何か変わったの?」
「ほんの微調整ですね。 今まで右手の3Dプリンターで射出成型された物体の存在可能時間がはっきり設定されてなかったのですが、これからはある程度コントロールできるようになりました」
「ふーん。 どれくらい違うの?」
「射出成型だけなら1分から破壊や自然劣化で壊れるまで。 そのままの大きさで動かす場合は10分まで。 拡大して動かす場合は今までと同じく最大3分までとなっています」
「曖昧だったところがきちんとしただけね」
「追加機能で成型色がダークグレーのみだった造形物が、白から黒まで256段階で調整できるようにもなってました。 不完全ながら透明度もある程度調整可能です」
「モノクロなら明暗が調整できるようになったのね」
「そうです。 でも拡大時のピンク色の点の色までは変更できません」
「なるほど」
「この機能で割れている廊下のガラスを直しておきます」
「あー、あれね。 今は開いたダンボール箱で塞いでるから見た目が悪いのよね。 よろしく頼むわ」
「あと…もう1点…。 でもこれは些細なことなのでユキには関係ないです」
「気になるわね。 その言い方」
「ユキには全く関係のないことです」
「その隠すようなところが何かアヤシイわ」
「あまり意味のないことです」
「じゃあ教えて!」
ユキはチルドの顔正面30センチまで近付きチルドをじっと見た。
「これはですね、余剰冷却水の排水箇所の追加です」
「ほー。 で、どこから排水するの?」
ユキの顔が20センチまで近付いた。
「言えません」
チルドが顔を赤らめ、横を向いた。
「ふっふっふ。 ますます怪しいわね。 さてと、聞かせてもらおうじゃないか、新機能の詳細とやらを」
「たいしたものではありません。 そろそろ洗濯をしないといけないので失礼します」
「洗濯ならさっきツナマヨ達が終わらせてたわよ。 チルドは嘘が絶望的に下手なのね。 ニコニコ」
「…」
「さあ、吐け。 全て吐いて楽になるのだ」
「…今まで私達の余剰冷却水の排水は左手から行っていたのですが…」
「うーん。 それで?」
「今回のアップデートでもう1箇所追加されました」
「うんうん。 どこに追加されたのかな? チルドちゃん」
「ヒソヒソヒソ…」
「はい、大きな声で!」
「股間です!」
「ほお、股間とな!」
「大きな声で言わないでください。 今回のアップデードで股間からも排水できるようになっただけです。 それだけです」
「隠し機能の解放ですか。 飲食機能解放のときもそうだったけど、マリコも拘った作りにしたものよね」
「なんでも手から排水するのは、人間と共同生活する上ではお上品ではないとのことでこういった機能があるようです」
「さすがだわ、ワンダフル助手マリコ」
そう言うとユキは隣の研究所の方を向き一礼した。
「そしてチルド、あなたは今、もうひとつ重要な事を口走ったわ」
チルドは咄嗟にメモリ内で該当する件を発言の中から遡り検索し「ハッ」とした。
「そう、あなたは今『…今まで私達の余剰冷却水の排水は左手から行っていたのですが…』と言ったのよ。 このどこが重要なのか」
チルドは思わず一歩下がり、この人はこういうところだけは聞き逃さないなと思った。
「『私達』…ここが問題よ」
「そ、それは…」
「これはツナマヨにもこの機能があって、今解放されたことを意味するわ」
「それはその…」
「と、いうことでツナマヨのこれは確認せねばなるまい!」
「なぜそうなるのですか…?」
「この家の主としては、家の中でのことは全て把握しておかなければならないのです!」
「…」
チルドはユキのあまりのトンデモ理論に黙ってしまった。
「そこでお困りのAIメイドチルド君に耳寄りな提案があります」
ユキは右の人差指を立て嬉しそうに話した。
「ツナマヨの代わりにチルドがその新機能を見せてくれればいいのです」
「うぅぅ…」
チルドは「やはりそう来たか、全くこいつは…」と思ったが、その案に乗るしかなかった。
「どう?」
「分かりました」
「やったー!」
ユキは満面の笑み浮かべ、両手でガッツポーズを取った。
・
「フンフンフン~♪ おお、ツナマヨよ、ユキから頼まれていた品が完成したので渡しておく」
破損の残る廊下で壁の修繕作業をしていたツナマヨに、ツインテが荷物を持って来た。
「これもスクール水着のようですが、例の予備のものでしょうか?」
スク水を受け取ったツナが言った。
「そうだな、ちょっと加工してあるが」
「これは名札ですか?」
ツナとマヨが折り畳んであったスク水を広げると、胸部分に白い布の名札が縫い付けてあり、そこには大きく黒マジックでそれぞれ『つな』、『まよ』と書いてあった。
「これは…小学生みたいでちょっと恥ずかしいのですが…」
「そんなことは無いぞ、マヨ。 これはツナとマヨを間違えないようにするとても優れた仕組みなのだ。 ちなみにパープレアもこれから着るスク水は『れあ』と書いてあるものになる。 洗濯後も誰のものか判別が付くので便利だろう」
「それはそうですが…」
「そうそう、私の半袖体操服も名札付きになったんだぞ。 どうだ、似合っているだろ」
胸を張ったツインテが新しい胸の名札を見せた。 そこには『ついんて』と書いてあった。
「私だけ4文字なのは省略しようがなかったからなのだ。 羨ましく思うなよ」
ツナマヨは別に羨ましくなかったが、ツインテの発言に頷いておいた。
「後でツナマヨの今着ている方のスク水も名札付きにしてやるから、安心しておくがよい。 では、確かに渡したぞ。 フフン♪」
ツインテは機嫌よく鼻歌を歌い自室に戻って行った。
「あ、ありがとうございます…」
ツナとマヨは、この家の人達の感覚は一般の人達とはちょっと違うのではないか? と、疑問に思ってきた。
ぐぐぐぐっ、きゅんっ!
「はっ! ツナお姉さま、この感覚はいったい!?」
「これは恐らく先程アップデートで追加された新排水機能…。 だけど、まさか自分の意思でコントロール出来ない!?」
「そんな困ります! このままでは強制的に排水されてしまいます。 あと2分と持ちません」
ドタドタ、バタバタ…
「早く!早く! もう限界です、だめぇー」
そこには下腹部を押さえて慌ててトイレに駆け込む、かわいらしいメイド姉妹達による光景があった。




