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21 観測する者、です


 ユキ家の就寝時間は大体午後11時とされていた。


「おやすみなさい」


バタン、バタン


 ツナマヨ達は届いたときに入っていた箱に入り蓋を閉じスリープモードに入った。


コソコソ…


「…どうだレアよ、ツナマヨは寝たか?」


「ぉぅ、11時ピッタリに寝たようだぞ、ツインテ裁判長」


コッソリ、コソコソ…


 ツインテとパープレアは音を立てないようにして自分達に与えられた部屋を抜け出し、ユキの部屋からふたつ隣の衣装部屋に入った。


「なんで木槌持って来てるの? ツインテ」


「一応裁判長なので」


「まだやってたんだそれ…」


「で、本当に今日の夜に実行されるのか? レア」


「11時直前にチルドがユキの部屋に入って行くのを確認済みです。 現在ツママヨ以外のこの家の者はジキタリス達からの決闘を申し込まれてますので、それが来るまでに面倒事は終わらせようと考えると、刑は即日執行されることが予想されます。 つまり今夜です。」


「ほう。 で、その被っている魔法帽子は必要なのか?」


「もちろん」


「おぬし、猫耳魔法帽子を被っているのに猫口調になってないぞ」


「どうも猫口調になる原因の大半はマント側に付いている猫尻尾らしいので、魔法帽子だけなら大丈夫です。 猫尻尾での猫口調効果も意識すればだいぶ減らせるようなので、がんばって減らそうと思ってます」


「別に無理して減らさなくてもいいんだぞ…」


「シリアス場面でニャアニャア言ってる私の方が恥ずかしいんですよ…」



「…」


「うーむ…何も聞こえんな」


「ふたつ離れた部屋ですからね。 壁に耳を押し付けても聞こえないでしょう。 隣の部屋では気付かれる可能性があるので止むを得ません」


「これでは何が行われているのか確認できないぞ」


「そうです。 そこでこの魔法帽子なのです…」


「魔法帽、探知モード!」


クワッ


「魔法帽子正面のひとつめの目が開いたな。 やはりそれで見るのか」


「その通り。 これは覗きではありません。 れっきとした刑罰の執行具合の観測確認で、裁判長にはその義務と権利があるのです。 私はその立会人となります」


「義務か、義務ではしょうがないな」


ブワン…


「うむむ、見えてきた…」


「レア、ワタクシには全く見えないんだが」


「私の肩に手を載せ目を閉じてください。 片手だと不鮮明なので両手を両肩にだといいです。 2倍の精度で見えるはずです」


「どれどれ…おお、見えてきたぞ」


 ツインテが両手をパープレアの両肩に置くと、パープレアの体を通してツインテの視界にも魔法帽子からの視覚イメージが伝わってきた。


「…レアよ、これは今何をやっているところだ。 まだだいぶ不鮮明でちと判断し難いわ」


「ですね。 もう少し精度を上げますよ」


クワヮッ


 魔法帽子の使用中の大きな目の上にある小さな方の目が開いた。


「これで視覚精度が上がるはずです…」


ブワワン…


「おお、さっきよりかなり見えて来たぞ…。 …こっこれは!?」


「やってますねー。 刑の執行」


 目を閉じたツインテ達の視覚には不鮮明ながら、下着姿のチルドが背もたれの無い椅子に両手を突き、四つん這いに近い体勢でユキに後ろ姿を見せている光景が見えてきた。


「まさに最中…か」


「そのようです。 さらに…」


 パープレアは魔法帽子の猫耳の能力を使った。


「お、音が聞こえて来たぞ…」


「現場からの音声です。 音の反響を使い視覚の補完合成をして精度をもう少し上げられます」


「うむうむ。 よろしく頼む」


ヒューン


「視覚がさらにクリアになったぞ! やるなレア」


「フフフ、さらに倍! 2機能の合わせ技という高等技術なのです。 私も本格的に使うのはこれが初めてなんですけどね」


「ペチン! ナデナデナーデ、スリスリスーリ、ナデナデナーデ、スリスリスーリ…」


「おお、やってるやってる、なんというやらしーメイドの尻叩き」


「手で痛くないくらいに軽く叩いた後、本当に撫でまわしてますね…。 1回叩くごとに1分は撫でまわしてるんじゃないですか」


「ぁっ、ぃ、いゃっ、ん、ぃ…ぁ…」


「おお! おお! うっわー! 見ろレア、あのいつもは禁欲的なクールメイドチルドが、あんなやらしー声を出してねちねちと執拗に撫でまわされているぞ。 どーなってんだこれ、もっとやれ!」


「そんなに急に興奮しないでください! ツインテ裁判長」


「うお、いけない、興奮してつい取り乱してしまった…。 だがな、これでパープレアの昼間言っていたイイ話は台無しだぞこれ。 実際は刑が執行されないであろうという二十ウン時間テレビもびっくりのあの感動シナリオが今目前で崩壊したのだ…」


「そうなってしまいましたね。 まさかこれほどまでとは…。 ユキが飢えた獣のようにチルドの尻をまさぐるなんて…」


「あのユキの光の無い曇って据わった目もそそるものがあるな。 これはユキに対する認識を改めなければならないようだ…」


「あのやらしー下着、ツナマヨの来ていた物より際どいですね。 きっとこの前の買い物のときにツナマヨに負けないようなのを選んで買ってきたんですよ…」


「下着を選んだのはチルドかユキか、気になるな。 どちらにしてもやらしー…、やってくれるわい。 ハレンチ極まりない!」


「このチルド、一見眉を下げ眉間にしわを寄せて恥辱に耐えている表情に見えるけど、よく見ると喜びの表情も混ざっているような気がする…どきどき」


「うむ、これは間違えなく愉悦の表情。 チルドは自ら喜び尻を叩かれ撫でられているのだ。 なんとやらしーメイド娘」


「私達の前ではそんな素振り全く見せないのに、夜のユキの前ではこんなに豹変するなんて…」


「この落差がまたそのやらしさを際立だせる。 …だがこれではこのチルドが背負った刑罰は、罰どころかご褒美になってしまう。 我々は一杯食わされたのかもしれんな、チルドのやつに…」


「そんな、最初からこれ目当てで裁判とか言い出したっての…」


「おそらく」


「やだー、それじゃ変態メイドじゃないですか、何てやつだ」



「んん、何かもっと鮮明に見えてきたぞ…」


「ちょっ、ツインテ、あんまり体を押し付けないでよ。 間にスク水と体操服が挟まっていても出っ張り部分の圧迫感が…」


「そうは言うがな、これ体の接触面積によって見える解像度が違ってくるのだ。 体を密着させればさせるほどよく見えてくるぞ。 ハァハァ…」


「ぅ、何か各部が押し付けられて熱い感じが…。 これ押し付け過ぎですよ。 クッキリハッキリツインテの体の感覚が伝わってきてます」


「うーむ、これもこの魔法帽子の効果かの…」


「これは…感覚の共有が進んでいる…、てか進み過ぎ!」


「あー、レアの体の感覚が伝わって来ているぞ。 おぬし、今いろいろ各部がツンツンしてるな」


「だめだめだめ、だめだってー!」


「あとなんかお前さん下の方がきゅんとしてるぞ。 冷静なふりしてお前が一番興奮してたんじゃないか」


「うぁ、それ以上はだめだって! ハァハァ…」


「だがな、なにかいい感じなのだ…」


「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょい待ちー! これまずいって! 一体化してしまうー! 魔法帽効果強制切断! 融合分離!」


バッ! ドサッ


 パープレアの体と融合しそうになっていたツインテがぎりぎりのところで強制分離され、ふたりの体が床に倒れ込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ。 危ないところだった…。 感覚共有能力の欠点はこれなんです。 あまり強い感覚共有を行うと体の感覚どころか体自体も一体化してしまうという恐ろしい欠点です」


「ふー、いいところだったのに」


「そんな呑気なこと言ってる場合ではなかったのですよ。 あのまま融合が進めば直ぐに一体化してしまい、中のお互いの意識が支配権を奪い合い争いどちらかが消滅させられてしまうところでした。 とても危なかったんです!」


「ううむ、そうだったのか。 これはすまん事をした。 どうにもいい感じで止まらなかったのだ。 許せレア」


「んもう、しょうがないな」


「でもな、パープレアの体の感覚はとても良かったぞ。 いい体験をした」


「こっちもその分、ツインテの体の感覚がたっぷり伝わってきたんですけど…。 胸が大きいってああいう感覚なんだ…」


 パープレアが顔を赤くして照れだした。


「そうか、そうか。 まあ気にするな」


「気にします! 帽子の機能も無理させちゃったから、今日はもう使えませんからね」



「それでは、これにて『刑罰執行具合の観測』を完了とする!」


「はい、夜分のお勤めご苦労様でした、ツインテ裁判長」



 この夜、ツインテとパープレアが体験した光景と音声には多分に魔法帽子の感覚補完合成機能が働いており、パープレアから帽子への強力な妄想フィールドバックもあり現実とはかなり違うものになっていた。


 実際のユキ達には、度を越した逸脱行為はなかったという。




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