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2 記憶、伝説の体操服と煙突です

挿絵(By みてみん)


             超AIメイド、チルドさん



「ブーン、ブーン、ブーン、ドドドド!」


「ダンボールの破片を集めて模型飛行機を作ったぞ! どうだ、できまい! この芸当」


 この陽気に遊ぶ金髪ツインテール自称記憶喪失魔人『ツインテ』はダンボール箱で届いたときからほぼ全裸だった。


 なぜかなかなか注意しないユキを見てチルドはユキの心の読めなさに苦心した。


 今までなら直ぐにうざいと言うはずなのに…。



「うーんその何だ、服を着てくれ」


 やっと言ったかとひと安心したチルドは別室から服を持って来た。


「オー! これは伝説のジャパニーズスポーツユニフォーム夏季タイプ! 1990年代に法的措置により全滅したと聞いていたが現存していたのか!」


 何やら記憶喪失者らしからぬ発言があったが、ふたりはまあ言葉は覚えてるんだからそんなこともあるのかな的な考えで聞き流していた。


「チルドは、どうしてこんなものを持っているのかな?」


「これは本当はユキさんに着てもらおうと思って買っておいたんです。 持った得ないですが、胸以外のサイズはユキさんとそこそこ近いので着てもらうことにしました」


「ふーんよく分からんが、これってツインテも言ってた通り絶滅種だったと思うんだけどな」


「いえいえ鑑賞用として生き長らえていて、最近では南極のこの暑さの下、機能的なのではとのことで見直されて市民権を得て普通に売ってますよ」


「またあのお店で買ってきましょう」


「よく知ってるね」


「前にちょっと調べてましたから」


「ほー」


「通販じゃないの?」


「通販ではだめですね。 大災害の被害からまだまだ復旧してないところが多くて。 電子決算システムも未だズタズタですから」


「あーあのペイなんとかって乱立してその後統合されたやつまだだめなのか」


「そうです。 今はいつでもニッコリ現金払いが主流となってます」


 チルドは澄ました顔で答えて部屋を出て行った。


 立ち去るチルドが持っていた空き袋からぱらりとレシートが一枚落ちた。


「ん、何だろうこれは?」


「ホントだこれ現金払いのレシート。 何々、一緒にメイド服も3点買ってる

んだな…」


「でも…日にちが少し古い…。 んーこれは約3ヵ月前…」


 それは永久が病院に見舞いに来た日にちになっていた。


「確かあの日はチルドともタブレット端末でほんの1分くらいだったが会ったはず…」


「あの日、端末で会話したチルドは浮かれた感じで急いでいて、これから買い物に行くからと言って会話を強引に中断して消えたんだったな」


「私はそれを壊れていると言ったが、永久はこれでいいと答えた」


「その後に行った店での買い物がこのメイド服だったのか…」


「これを買うのがそんなに楽しみだったのか? チルドは」


なんなんだあいつは、3ヵ月も前からこの服を着て一緒に住むことを楽しみにしていたというのか!


「バカか…、全くもってAIのすることではない…」



               ・



 夕食後、陽気に遊ぶツインテを見てユキはふと考えた。 こっちのアホの子はこのままだとどうなるのだろうかと。


 最有力と思われるルートはチルドが研究施設か永久に「妙な能力者を確保している」と伝えて回収されるルートだ。


 その場合、またひとり研究材料としてつまらぬ人生を長く送るやつが生まれると思うと少し気の毒に思えた。


「チルド、ツインテのことは誰かに知らせたか?」


「いいえ、まだですが」


 食器をテキパキと片付けていたチルドが答えた。


「じゃあしばらくは誰にも言わないでくれるかな」


「わかりました、ユキさん」


あっさり承諾したな…まあそれの方がいいんだけど。



「ツインテはどこから来たと思う?」


「今日の午前中に届いたのですから、ユキさんがこの家に来た時期と今の南極急便の配達能力を考えると、この南極大陸のどこかからでしょう」


「もし、もっと遠くからだとすれば、ずっと前からユキさんがここに引っ越して来ることを知っていた人物かその人物から情報を得た人物ということになります」


「なるほどな。 冴えてるなチルドは」


「有能メイドですから。 テキパキ」


今こいつ口で「テキパキ」って言ったな…。



「ユッキー、私、眠い…そろそろ寝ゆ…」


 さっきまで元気に遊んでいたツインテだったが、まるで子供のように急に眠そうになって訴えてきた。


「ああ、その前にシャワーに入ってだな。 チルド頼む」


 チルドがツインテの手を引いてシャワールームへ連れて行った。



 ユキ達の少し慌ただしい一日が終わろうとしていた。



               ・



「おはドッカーン!」


 ダンボール箱で寝ていたツインテは目覚めると同時にまた爆発を起こした。


「この子は起きる度に爆発するのか!?」


 現場に集まってきたユキ達は困惑顔で上を見上げた。


 今回は上に向けて爆発した様で、1階の天井に穴が空いてその上の2階の床と天井と屋根にも貫通した穴があった。


 空が見えていた。 


「あの技で今すぐ直してくださいね」


 チルドがツインテにニッコリして少しきつめに言った。


「それは出来ぬ相談だな、チル」


「どうしてかなー?」


「実は私、起床直後は魔法を1回しか使えないのだ!」


「それでさっき、爆発で使ったからもう使えないって事?」


「そのとーり! あいむそーりー!」


「あなたの起床爆発癖は早急に何らかの対策が必要ですね。 考えておきます」



「…不味い! 隣の研究所から屋根の穴が見えたら怪しまれるわ! 私は屋根を塞ぐのでチルドはこの部屋をなんとかして」


 ユキが慌てた表情で言った。


「分かりましたここは全力で修復します」


「頼んだわよ!」


 そう言うとユキは2階に駆け上がり、屋根の応急処置に使えそうな材料を

探した。


「ああ、屋根の色、まだ知らないんだった」


ユキは軽い能力で発生させた氷柱に乗り、それを伸ばして屋根まで上がった。


屋根から首を出すとすぐに屋根の色は黒だと分かった。


「ヨシッ、黒ね、早く戻って…あ」


「おはようございます! ユキさーん!」


 5メートルくらい離れた隣の建物の開いた窓から永久がこっちを見て手を振っていた。


「いやー、何か破裂音がしたんで飛び起きてしまったんですけど、大丈夫ですかぁ?」


こいつ研究所で寝泊まりしてんのか! この場をなんとか切り抜けなければ!


 ユキの頭は久しぶりにフル回転した。


「ここここ、これはDIY、そうDIYよ!」


「ああ、DIYって日曜大工のことでしたっけ? 朝早くから大変ですねぇ」


「そうなの、チルドがどうしても暖炉の設置工事を始めたいって言うので暖炉の煙突の工事をしてるのよ!」


「へーそうなんですかー。 暑いのに暖炉とかオシャレですねー。 インテリアですかー? でも破裂音したし、何か焦げ臭くもありませんかー」


「そそそ、それはあれよ、プラズマ! 昨日テレビで魚月教授も言ってたでしょ、ここうん十年プラズマが出ていろいろ悪さをしているって」


「こういう破裂音や焦げ臭さは大体プラズマが犯人なのよ!」


「あーその番組僕も見ましたよーでも放送は一昨日だったと思いますー」


「あ、そうだったかも知れないわね。 じゃ、私は忙しいんでこれで…」


 ユキは急いで屋根から首を引っ込めた。


「せ、セーフよね…たぶん」


そそくさと1階まで下りたユキは残骸片付け中のチルドを見つけた。


「ゴメン! 屋根の穴に煙突を作ることになっちゃった…有能メイドさん、何とかしておいて…ね!」


「どこをどうやったらそうなるんですか? にっこり」


 チルドは満面の笑みを浮かべた。


 ユキは思った。 もし屋根に出たのがこの超AIメイドだったら、いったいどういった対応をして切り抜けたのかと。


 次の日までにチルドによってツインテの起床爆発の対策は荒療治で完璧に施され、もう朝に無駄爆発することは無くなっていた。





 数日後、ユキ家の屋根には立派な煙突が設置されていた。





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