15 遭遇、背信者討伐隊です
「ふう、ごちそうさまでした」
昼食の蜜豆を食べ終わりユキ家の4人は満足そうな顔をしていた。
チルドはテキパキと食器の片付けに入った。
「そう言えばパープレアはまだ修復された魔法服を着てないな」
食った食ったといった体勢でユキが尋ねた。
「おう、着てみせようか、我が必殺の魔法服」
「必殺しなくていいから、見たい見たい!」
「それでは行くぞ! 更衣魔法、魔法服!」
パパパ、ドヒューン
一瞬のちょっとした風と靄が出て収まるとそこには魔法服姿のパープレアがいた。
「おお、これが修復された魔法服改!」
「どうだ、なかなか似合うニャロ」
「うん、とっても似合ってる。 最初に着ていた魔法服よりずっといい!」
「照れるニャ。 ユキのセーラー服も似合ってるニャ」
「ん? にゃ?」
「なんだニャ?」
「だから語尾にニャが付いてるんだけど…」
「そんなこと無いニャ」
「言ってますね」
チルドがキッチンから答えた。
「そうなのかニャ」
「それはあれだ、魔法服に追加された猫要素による副作用」
隣で食後のゲームをしていたツインテが言った。
「ニャニャニャ、ニャンじゃと!」
「ということでこれからは魔法服装備中は語尾が猫調子になる。 心して備えよ」
「そんな…」
「でも可愛いからいいじゃない。 猫調子」
「そ、そうなのかニャー?」
「そうそう、かわいい。 カワイイは正義」
「そうかニャ…、そうかもニャ…。 よし、これはこれでいいということにしようニャ!」
「あ、後ろ、こんなんだっけか?」
ユキがパープレアの後ろ姿の差異を指摘した。
「なになに…。 うーん、マントに尻尾が付いているとは聞いていたが、マント自体も以前と違ってるニャ…どういうアレンジニャ?」
マントは半透明の紫で、中央は大きく角の尖ってない菱形の透明素材で体が見えるようになっていた。
「それはだな、パープレアの後ろからの姿がマントで見えなくなってしまうのが惜しいと思う層のためにあるアレンジなのだ」
「どういうこったニャ」
「つまり、パープレア魅惑のスク水ボディーがマントで隠れるのを阻止するデザインである」
「おお、素晴らしきグッドデザイン賞! さすが修復魔法デザイナーツインテ」
ユキが胸の前の指を組むように両手を合わせて喜び絶賛した。
「ままま、まあニャ。 このくらい着こなしてやるんだニャー」
「で、肝心の魔力の方はどうなの? 低下した魔力が魔法服で少し改善するって話だったけど」
「そうだな、ちょっとは底上げされた。 これである程度の魔法は使えるニャ」
「良かったわね。 でもやたらと破壊魔法を使ってはだめよ」
「それは心得てる。 私ももうこの家は破壊したくないんだニャ」
「猫耳魔法帽子の目は閉じてるのね」
「ああ、この目は使うと視覚が大幅に拡張されるんだが、通常時は疲れるので閉じてるんニャ。 戦闘や索敵で使うときはパッチリ開くぞニャ」
「そうだったのね。 でも戦闘はもうこりごりだわ」
「…」
「どうしたの? パープレア」
「これを受け取ってくれニャ…」
それは銀色に淡く輝く細い腕輪だった。
「どうしてまた私に? お礼ならツインテにあげればいいのに」
「ツインテが私の服を直してくれたので、感謝の印にあげようとしたんだけど。 それはユキにあげた方がいいと言って断られたんだニャ」
「そうなのツインテ?」
「ああ、そうだな。 ユキがパープレアの命を助けたんだから、そうすべきだろうということだ」
「この銀のブレスレットもお守り的魔除けニャ。 変な奴らが襲ってきても小物程度なら弾き飛ばせる力がある。 まあそれ以外もいろいろ効果はあるようだが、ここに来る少し前から私が持っていても効果が出なくなっていて…。 ブレスレットに見限られたのかニャ。 でもユキなら使いこなせそうだニャ」
「じゃあ、ありがたく受け取っておくわ。 左腕にツインテから貰ったブレスレットがあるので、パープレアからのブレスレットは右腕ね」
そう言うとユキはパープレアから銀のブレスレットを受け取り右腕に装着した。
「ちなみにこれもその金のブレスレットのように見えないようにしたり見えるようにしたり出来るニャ。 操作方法は同じはず」
「ありがとう。 パープレア」
・
「魔法服も戻ったことだし試し撃ちしてみたい! ツインテできるかニャ」
「そうだなちょっと見てみるか。 ウーン、空間管理魔法ディメオペロール!」
ピシピシ、ズギャーンッンンンンン!!!………
「うわ、びっくり!」
キッチンでお皿を持って家事をしていたチルドがいきなり異次元化した周囲を見て驚いた。
「ほい、この周囲を時空断層化したからここで撃つといい」
「でわイックニャー、破壊魔法デウエクセクラッシュ!」
ドグワーン!!
「おお撃てたニャ! 大体フルパワー時の半分くらいだろうか。 まあまあだニャ」
「魔法帽子の目も問題無いニャ。 うーん、帽子の猫耳は…。 聞こえる聞こえる。 皆の心臓の音まで聞こえる。 これはますます使えそうだニャァ」
「よかったわね、パープレア」
「おう! ニャ」
パープレアは薄紫の肩甲骨辺りまで届く髪を揺らして振り向き、笑顔で答えた。
「うニャ? 何か近くに潜んでる。 息遣いが聞こえるニャ…」
「…」
「フッフッフ、よくぞ見破った…」
「なんの声?」
「ニャ?」
「あそこだ…」
先程パープレアが破壊魔法を撃ち込んだ方向をツインテが指差した。 その方向に黒い空間の裂け目が出来て広がった。
「あれはパープレアのときと同じ裂け目だわ…」
「そうだな。 誰か魔法界からの遣いが来たニャ」
「招かざる客のようだぞ」
ツインテが訝しそうな表情を浮かべた。
空間の裂け目は広がり中から6人の物々しい恰好をした人物が現れた。 それは騎士と神官のように見える人物とその従者4人だった。
ズシャ
騎士の足音が響いた。
「パープレア、お前まで隷属されてしまったのか。 なんたる失態」
騎士風の男が嘆くように喋った。
ザッ
「今日はご挨拶に参りました。 あなた達と争うつもりはありません」
神官風の女が優雅な口調で語り、ユキ達を見下ろした。
「あなた達はいったい誰?」
ユキは取りあえず状況確認のため最低限の質問をした。
「ガハハハ、俺達は魔法界から来た背信者討伐隊だ。 俺が魔法騎士ジキタリス」
「私は魔法神官エクセルシア。 よろしく」
「よ…よろしく…。 で、挨拶以外は何の御用でしょうか?」
「そうですね。 そこのふたりがちょっとした規約違反をしてましてね。 討伐命令が出ているのです」
「はあ、またそれですか…。 そういうのはうちではお断りしています」
「そんなセールスお断りみたいに言わないで。 これはこっちの役所から出ている正式な命令なの」
「でもうち、その魔法界ってのに所属してないし。 この子達ももうそっちの住人じゃないんですけど」
「でもだめなのよ。 決まりは決まり」
「そうだぞ、ここは大人しく従った方がいい。 何せ俺たちは物凄く強いからな。 そこの暴れん坊魔女もどきとは全く違うぞ」
「ニャンだとー!」
「ワタクシは討伐されないし、帰りもしないゾ」
ツインテは突っぱねた。
「そうだそうだー、私もやられニャイ!」
「ふふふ、元気がいいのね」
「今日のところは様子見の挨拶だけだ。 近いうちにまた来るから首を洗って覚悟しておけよ。 ガハハ」
「べー。 もう来るニャ!」
ツインテとパープレアはぴったり息の合った声で拒否をした。
「じゃあな、楽しみにしておけよ」
騎士がそう言うとジキタリスとエクセルシアは従者を従えて空間の裂け目に戻り去った。
ズギャーンッ…ピシピシ
空間魔法が解除され通常空間に戻った。
「…ふうっ、変なのが来てしまったわね。 厄介そうだけど、勝算はある?」
「あいつらああ言うだけあってかなり強いはず…。 …でもまあ私達が奴らより強ければいいんじゃないか」
ツインテが軽く前向きな口調で言った。
「そうだニャ…」
「また争いになるのですね」
鍋の蓋を手にしたチルドが心配そうにユキを見た。
「必ず守る」
ユキの心に固い決意の炎が灯った。




