14 昔のゲームとイースターエッグです
この日ユキ達4人は朝からネット配信のテレビで約40年前のアニメ「かき氷」を見ていた。
「おお、面白かったがここで終わってしまうのか…」
ソファーで、のめり込むように見ていたユキが大きく背伸びをしながら言った。
「はー、全23話アニメの一挙見は疲れますな。 楽しかったが少々肩が凝ったぞ。 よいっしょっと…」
ツインテは鈍った体をほぐすためルームランナーで運動を始めた。
「とてもきれいな絵でしたね。 40年前の人の努力が窺えます。 さあ、私はやらないといけないことが…」
そう言うとチルドは立ち上がり夕食の準備に入った。
「『ふーたろう』とヒロイン『るえ』は、あれだ、結婚すべきだナ」
スク水姿でソファーに横になった体勢で見ていたパープレアが感想を話した。
「私は『るえちゃん』が『ふーたろう』と納屋に閉じ込められて尿意を我慢しているところが可愛くて最高に楽しかったわ。 あのまま助けが来なかったらどうなっていたやら」
「ユキは妙なところを楽しんでいるのですね。 私は2番目のエンディングが気に入りました。 何度見ても楽しめます」
「ああ、あの名探偵ホームズ風のやつね。 あれ歌も最高よね」
「そうです」
ピンポーン
「私が出ます」
トタトタ…
少しして戻って来たチルドは小さな箱を持っていた。
「またまたユキに何か届きました。 開けます」
「おお、今度は何だろう」
ザザザ、パカッ
「うーむ、これは小さいがゲーム機だな…何々、ウルトラメガコンミニ」
「送り主は科学者永久で、この前の下着紛失事件解決のお礼とのことです。
お暇でしたらこれで遊んでみてくださいと書いてあります」
「ハハハ、下着を紛失とはとんだ間抜けもいるものだな、アワワ…」
眠たげな顔をしたパープレアが軽口をたたいた。
それを聞いたユキとチルドは「犯人はお前だよ」と言いたげな表情をして苦笑いした。
「おお、そうか。 これって確か…昔、ゲーム機メーカー3社公式で出した奇跡のコラボ商品だったような」
「そのようです。 約20年前に商品化され大人気で売り切れ続出した品ですね」
「内蔵ゲームは昔の8~16ビット時代のゲーム限定になりますが、当時の3大ゲーム機メーカー用の版権問題をクリアしたゲームが大量に詰め込まれているという品です」
「説明書によるとそのゲーム機3種で発売されたゲーム全体の8割も入っているそうだ。 8割とは頑張ったな当時のメーカー3社」
「私3Dゲームはのめり込んでプレイすると酔っちゃうので、2Dくらいが丁度いいんだよね~ふんふんふんっと」
「後は、この小さいパーツをPCに接続すればいいんだな。 早速接続接続…ポンっと。 あとコントローラーも、ああ、これは無線式、充電済みか。 お、画面が出たぞ」
「ええと、やっぱりたくさんゲームがあるな。 取りあえずこれやってみようかな…」
「ピロリロリーン」
「あ、これ懐かしいやつだ」
ユキはゲームのひとつを選択してプレイを開始した。
ドシュドシュドシュ、ドギューン!
「うわーやられてしまった。 腕が鈍ったなぁ」
「そのアクションゲームどこかでプレイしたことがあるのですか?」
キッチンで時々画面をちらりと見ながら家事をしていたチルドが尋ねた。
「ああ、これは昔、施設にいた頃に暇つぶしにと与えられて遊んでいたゲームのひとつよ。 タイトルは『軽装騎兵ケンバルー』」
「これ自機がロボなんだけど、上手い人になるとパンチだけで全ステージクリアできるそうよ。 変態ね全く」
「当時のゲーム機の性能を考えると、かなり頑張った出来のゲームよ」
「ええと、次はどのゲームにしようかな…」
「ピロリロリーン」
「…」
「うーん。 やっぱりこれはあまり面白くないわね。 スピード感というか爽快感というかが皆無で、なんとも表現し難いアレな雰囲気…」
「なぜ、それを2番目に選んだのですか?」
疑問に思ったチルドが質問した。
「これね…私の父親がその昔、製作に関わったゲームなのよ…。 どこのパートか知らないけど、グラフィックの一部に関わったらしいわ」
「そうでしたか」
「ゲーム製作のスタッフ名は公開されてなかった…。 でも発売から何年かして海外のゲームマニアがROM内部を解析してスタッフ名が判明したの」
「変な事をするものですね。 隠す方も見つける方も」
「そうよね。 このゲームはクリアしてもエンディングが無いんだけど、なぜかROM内のデータを見るとエンディングらしき画像が格納されているのよ」
「それでそれを見つけた人が頑張って解析を続けた結果、チートであるフラグを立てるとエンディングが出ることを発見したの」
「チートしないと出ないエンディング表示とは少々凝り過ぎですね」
「きっと出すつもりはあったのだけど、何かの都合で出せなかったのかもしれないわ」
「そして、その応用技でスタッフロールも出せるのだけど、そこにあるの…。 私の父親の名前が。 まあ、若い時に名乗っていたペンネームなんだけどね」
「そうでしたか」
チルドは話の流れでユキの父親のことも聞こうかと思ったが、この世界の状況ではすでに死亡している可能性が高いと考え止めておいた。
「知ってるチルド? こういうゲーム内に内緒で含まれている隠し情報や隠し機能って『イースターエッグ』って言うらしいわよ」
「イースターエッグ…、本来は復活祭の装飾した卵のことですね」
「なんで卵なのか、それは知らないわ。 きっとその日が来たら中から何か飛び出して来るから楽しみにしておけよって感じなのかしらね」
「そうかもしれませんね」
「以上、ユキ先生のどうでもいい豆知識コーナーでしたー」
「チルドは、またどうでもいい知識が増えてしまったといった表情をして、夕食の準備を続けた」
ダダダダダッ、ボワッ、モクモクモク
「どうだ! 参ったか!」
ルームランナーと格闘していたツインテだったが、そのあまりに酷使され続けたルームランナーからとうとう煙が出てきた。
「あー、ダメダメ。 まだ新しいんだから、ちゃんと直しておいてね」
「ヘイヘイ、修復魔法リペエイデス~」
シュワワワ…
「直ったぞー」
「よしよし」
ソファーで横になっていたパープレアは、いつの間にか穏やかな表情で少々涎を流しながら眠っていた。
「ムニャムニャ、晩飯は何かナ…早く食いたいのダ…ムニャ」
「はい出来たわ。 今日の夕食はシチュー、その他いろいろですよ」
室内がぱあっといい香りの暖かい空気で満たされた。
「ふむ、出来たか、それではみんなで食べましょう!」
「オー!」
それはユキ家の平和な一日の光景であった。
ユキはこんな日がいつまでも続けばいいのにと思った。




