10 身支度完了
ガットさんのお世話になりながら、お金を稼ぐ日々が続いた。
一週間かけて、荷物持ちとしての仕事は4回こなした。
その結果、通算で銀貨30枚の収入が得られた。
そしてそのおよそ半額ほどを使って、服や旅に必要な小道具一式を買い集めた。
普通のバッグに、数本のナイフ、丈夫な皮のローブ。
手足をしっかり守る長袖長ズボンの服を数着。
あとは、女の子らしさを演出するためにおしゃれな髪飾りなんかも買ってみたりした。
そんな感じで毎日旅の準備を整えつつ、冒険者としての知識や技術をガットさんから学んだ。
サバイバルスキルも教えてもらえたのはかなりのアドバンテージだ。
今後の逃亡生活で、街に入れないという状況は少なくないはず。
となれば、水場を探す技術や野宿の技術は必ず役に立つ。
さらに――冒険者ギルドから、僕の身分証が発行された。
何でも、冒険者ギルドは国に所属する組織ではなく、国際的な団体らしい。
そんな冒険者ギルドに登録した冒険者は、どの国でも通用する身分証が発行されるのだ。
……とは言っても、住民として認められている人と比べたら弱い身分証になるんだけど。
それでも猫獣人のマオとしての身分が実在するようになったのは大きい。
これからの旅先で、いちいち演技をして信用を勝ち取るまでもなく、冒険者ギルドの身分証、通称『ギルドカード』を見せることで最低限の信用が得られるのはかなり助かる。
街に入りやすいというのは、物資補給のやりやすさにもなる。
つまりこれからの逃亡生活がかなり楽になるわけだ。
そんなこんなで身支度も整い始めたから、いよいよ僕はムント警戒村から旅立とうかと考えていた。
けど……それと時を同じくして、村に一報が届いた。
とある公爵を殺害した凶悪な犯罪奴隷が逃亡し、王都近辺に潜伏しているという情報。
それと共に――なんと、かつての僕の似顔絵が冒険者ギルドまで届けられたのだ。
ある朝、ギルドに顔を出したところで僕の似顔絵があったもんだから、とんでもなくビビった。
というか、即刻逃げ出そうかと思ったほどだ。
けど、背後から近寄ってきた受付のお姉さんの言葉でそれは止めた。
「殺人事件なんて、怖いかもしれないけど、これも冒険者の仕事の1つなの。マオちゃんも関係があることだから覚えておいてね」
そう言って、お姉さんは説明を始めた。
なんでも――冒険者ギルドが討伐する対象は、モンスターだけでなく、凶悪犯罪者や悪質な盗賊なども含まれるらしい。
そうした日常的に繰り返されるわけではない仕事は、ギルドに『依頼』として張り出される。
依頼には達成条件があって、それを満たした時に報酬が支払われる。
例えば、今回の公爵殺しの凶悪犯罪者の場合はそいつの生け捕り、あるいは首だ。
つまり僕を殺して首を切り落としてギルドに持ち込むか、僕そのものを捕縛してギルドまで連れてきたら依頼達成。
それを確認したギルドが報酬を支払ってくれるというわけだ。
……そんなことを僕に説明してくれるということは、この凶悪犯罪者と僕が同一人物だとは気付いていないということになる。
確かに、似顔絵と僕の顔では似ていない部分も多い。
そもそも人間の男と猫獣人の少女では印象が違いすぎる。
同一人物かも、と疑うこと自体がそもそも無いんだろう。
「お姉さん……僕、怖いです」
僕は怖がる演技をしながら、顔を俯ける。
「大丈夫だよ、マオちゃん。この村は冒険者さんもいっぱいいるから、殺人犯だって入ってこないよ。それにこういう依頼は報酬が良いから、ベテランの冒険者さんがすぐに犯人を捕まえてくれるから♪」
「はい……村から出ないように気をつけます」
そう言ってお姉さんを騙しながら、僕はどうするべきか考える。
今すぐ村を離れたいところだけど……それをすると、雪広駿とマオが同一人物であることを感づかれかねない。
猫獣人のマオと凶悪犯罪者になんの関係もないのであれば、ここで焦って村を出るのはあまりにも怪しすぎるからだ。
となれば、ここは力のない猫獣人らしく村に居残ることを選択する他無い。
追手に見つかるリスクもあるけど……僕の変装は完璧だし、似顔絵だって瓜二つというわけじゃない、所詮は絵だ。
となれば、ここは僕の変装っぷりを信じて村に潜伏し続けるのが正解だろう。
というわけで、僕はまだしばらくムント警戒村に留まるハメになってしまった。




