02 異世界の勇者というか学生
「まず、その勇者様というのがわからない。そこから説明してくれ」
永瀬くんが言うと、王女様は頷いてから説明を続けた。
「我々の世界には、魔王と呼ばれる悪しきものが存在しています。そして、勇者とは魔王を討伐する為の力を神々から得た特別な存在のことを言います」
「特別? 俺らが?」
「ええ、そうです」
王女様が頷くと、永瀬くんは反論するように言い返す。
「でも、俺たちはただの学生だ。勇者なんていう特別な存在じゃあないんだ」
「いえ、そうではないんです。皆さまは異界の勇者様なので、正確にはこの世界に来た時点で特別な存在に変わったんですよ」
永瀬くんの疑問に、王女様は色々答えてゆく。
「本来、勇者という存在は数百年に一度誕生するかどうかという特別な存在です。しかし、わたくしの使った勇者召喚の魔法であれば異世界から呼び出した方々全員に勇者としての力を与える事ができます」
「……それは拉致、誘拐をしてまでする必要のあったことなのか?」
深刻そうな永瀬くんの問いに、王女様は頷く。
「ええ。実は近年、我がアマルティア王国は魔族の王、魔王による侵攻を受けているのです。現代には勇者もいませんし、魔族は強く恐ろしい存在です。このままでは、我が国は魔族によって支配されてしまうでしょう」
なるほど、その話が本当なら、確かに沢山の勇者を必要としてもおかしくはない。
そう、その話が、本当に真実であれば、だけど。
「そこで、わたくしは考えたのです。魔族に対抗するためには勇者が、それも一人や二人ではなく、大勢必要なのではないか、と」
「それで、俺たちを召喚したってことなのか?」
「はい。我々の都合に付き合わせてしまい、申し訳ありません」
王女様は、永瀬くんに頭を下げて謝罪する。
王女様ともなれば、その謝罪は大変な重みがあるはず。
それをこんなところで使うなんて、なかなか思い切った行動だと言える。
「事情は分かった。けれど、そちらの都合に俺たちが付き合う理由は無い。早く元の場所に帰してくれ」
「それが……残念ながら、出来ないのです」
「ハァ!? どういうことだよ!?」
ここで、鬼瓦くんが話しに割り込んできた。
王女様は目を伏せながら、鬼瓦くんに言い訳を話しだす。
「今回の勇者召喚の条件は、魔王の討伐です。なので、皆さまの誰かが魔王を討伐してくれるまでは元の世界には帰せないのです」
「ふざけんなよテメェ、何様だよコラァ!?」
鬼瓦くんは怒って身を乗り出す。
それを見て、王女様を守るように鎧の騎士たちが鬼瓦くんを抑え込んだ。
「――もちろん、タダでとは言いません」
そして、王女様は説得を始めた。
「この国のために戦っていただけるなら、可能な限り最高の待遇で皆さまをおもてなしします。また、働き次第で報酬をお支払いいたします。平民では一生かかっても手に出来ないような財宝を与えると約束しましょう」
「……テメェ、そりゃあ本当だろうな?」
鬼瓦くんは王女様を睨む。
王女様は、正面からその視線を受け止め、逃げずに頷いた。
「――チッ。仕方ねぇな。協力してやるよ」
「ありがとうございます! ……他の皆さまも、ご協力いただけますか?」
王女様が聞くと、クラスメイトたちはそれぞれ頷いたり、理由を呟いたりして同意する。
どうやら大半はよく分かっていないけど、帰るためなら仕方ない、といった感じで頷いていた。
そして、一部は王女様の言った報酬を期待している様子で、さらにごく少数は純粋に王女様を助けてやりたいと思っているようだ。
中でも、永瀬くんは明らかに王女様の助けになってやりたい様子。
困っている人を助けたい、というのは優等生の永瀬くんらしいね。