01 召喚される前の僕
僕の名前は雪広駿。
かわいい幼馴染の赤坂麻衣、そしてクラスのマドンナ藤宮咲夜さんの二人から妙に懐かれていること以外、大した特徴のないモブ系男子高校生。
その日は、特になんにもないごく普通の1日だった。
いつもどおり麻衣と登校して、通学路で藤宮さんに見つかって、麻衣と藤宮さんの口喧嘩が始まって。
それで、僕が二人を仲裁する頃には学校についていて。
そんな風に始まる一日は、流れるように過ぎていって。
語ることなんて何にもなく、あたりまえのように放課後になった。
ただ、その日の放課後は少しだけ異変があった。
いつもならすぐ剣道部に向かうはずの鬼瓦くんが、いつまでも教室から出ていかないのだ。
「――おい、誰がオレの竹刀で遊びやがったんだ!!? アァン!?」
クラスのみんなに向かって、怒鳴り声を上げて威嚇する鬼瓦くん。
どうやら、自分の竹刀が袋から勝手に取り出され、教室の隅に放り出されていたのを見て怒ったようだ。
「正直に言わねぇと、片っ端からボコすぞコラァ!!」
鬼瓦くんの怒鳴り声で、クラス中のみんなが怯えた視線を向ける。
でも、犯人は名乗り出ない。
何しろ、あれは掃除の時間にフザケていた男子がぶつかって袋から出ただけ。
そしてフザケていた男子が蹴ってしまい教室の隅に移動しただけ。
そしてフザケていた男子は、鬼瓦くんのグループの男子で、彼自身も一緒になってフザケていた。
つまり犯人なんて居ない上、他ならぬ原因が鬼瓦くんにもあるんだから、誰も声なんか上げるわけがないんだ。
でも、そんな理由を知らない鬼瓦くんは怒りの声を上げ続ける。
「んだテメェ、見てんじゃねぇぞゴラ!」
近くにいた、クラスメイトの一人に手を挙げる鬼瓦くん。
けど、そんな暴挙を許さないクラスメイトもいる。
「――待つんだ、鬼瓦くん!」
割って入り、拳を受け止めたのは永瀬くん。
クラス委員長らしい、正義感あふれる行動だ。
「君の竹刀をボロボロにしたヤツがいたとしても、それがクラスメイトを殴っていい理由にはならないだろ!」
「アァ!? 知るかンなもん!! ジロジロ見てるこいつがわりぃんだろうが!」
そうして、鬼瓦くんと永瀬くんの喧嘩が始まった。
僕としては、正直席の近くでこんな風に騒がれるとうるさくて仕方ないのでやめてほしい。
とまあ、そんな気持ちがつい表情にでてしまい。
「――おいテメェ! 何様だコラァ!!?」
そして僕の表情が鬼瓦くんの逆鱗に触れてしまった。
逃げる間も無く、僕は胸ぐらを掴まれる。
「おい、鬼瓦くん! やめないか! 雪広くんだって迷惑してるんだ、嫌な顔の一つぐらいしても仕方ないってもんだろ!?」
とまあ、正義の味方の永瀬くんも声を張り上げる。
おかげで二人分の喧しさが耳をつんざく。
余計に顔を顰めてしまったんだけど、これが良くなかった。
「……雪広くんも、そういう態度は良くないぞ。ちゃんと鬼瓦くんに謝ったほうがいい」
なんと永瀬くんまで敵に回してしまった。
これは予想外である。
「ちょっと永瀬くん? どうしてそうなるのかな?」
そこで話に割って入ってきたのがクラス副委員長の藤宮さん。
「そうだよ! それに龍城くんも、駿ちゃんに八つ当たりすんのやめてよね!」
さらに麻衣まで僕を庇うように入ってくる。
女の子、それも美少女にかばわれるモブ男子という情けない構図が出来上がってしまった。
――とまあ、そんな構図が完成したのと同時のタイミングだった。
「――うわっ、なんだこれ!?」
最初に気づいたのは、誰かわからない。
けれど、声と同時に全員が気づいた。
突然床が光り始めて、そして――。
(――今に至る、ってわけか)
僕は今に至る状況を頭の中で整理しながら、これから金髪美少女が話すであろう内容に耳を傾け、集中する。
「それでは、まずはわたくしの自己紹介からいたしましょう」
金髪美少女は言って、一度お辞儀をしてみせる。
「――わたくしの名はエメリア。エメリア=アマルティア=ゴールドバーグ。我が国アマルティア王国の第三王女で、異界の勇者様、つまり皆さまを召喚魔法で呼び出した張本人でございます」