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六番目

改稿情報


ヴァルシャ帝国編「娯楽と幼馴染」を改稿しました。

 

 《異界への扉(ゲート)》から一人の白いローブを着た男が姿を現した。その素顔は全身を覆っているローブの所為で良く見えない。そのローブは、白を基調とし、黄金の装飾が施されており、まるで穢れを寄せ付けないと言わんばかりの神聖差を感じる。だがしかし、男の纏う雰囲気にはそれとは反対に底知れない邪なものが混じっていら様な気がした。


「お前が今回の黒幕か?」

「おいおい、黒幕って酷いなぁ。俺は唯、試したい事があってちょっとそこに転がっている肉塊を使わせて貰っただけなのになぁ」


 この口振りからして、この男が今回のスタンピードを引き起こした犯人であるのは間違いないだろう。

 いや、それよりもだ。《異界への扉(ゲート)》は神のみに許された奇跡――それを目の前の男は行使して見せた。なら奴は神なのか。いや、違うな。俺の知っている二人の神と比べても、纏う雰囲気がまるで違う――はずなのに何故だろうか、そう言い切れない妙な違和感を感じる。それは人間のそれでも無い。なら、目の前にいるこの男は一体何者なのか?


「……お前、一体何者だ? 何故《異界への扉(ゲート)》を使える!?」

「はぁ? そんなの知ったって意味無いでしょ。てかコレが何なのか知ってるんだな。さっきの無詠唱と言い、やっぱり君が、いや、それは後でいいか。確証も取れたし、後はアイツが決める事だ。て事で今大事なのはお互いの立場、お前が善で俺が悪。そう言う事だろ?」

「……悪いって自覚があるならやるなよ」

「いやいや、今のは君の視点から言っただけ。君からしたら俺は悪だと言う認識になるけど、俺自身にそんな悪い事してるなんて自覚はないんだよね。だってそうでしょ? 認識と自覚は違うんだから。まあ、良いことしてるとも思ってないけどね。てかそもそもコレ実験なんだし、実験には犠牲が付き物じゃん? だからしょうがないよねぇ?」

「……本気で言ってんのか?」

「おいおいそんなに睨まないでくれよ。あ、もしかして怒っちゃった? いいね。その感情はとても大事だ。例え、それが今は小さな芽であっても、いずれは大きく芽生えて()へと至る! だから決して忘れるなよ?」

「……」


 駄目だ。恐らくだが話が分かる様な奴じゃないだろう。それこそ例えコッチがどれだけ正論を重ねようとも、ブレない何かがある気がする。絶対にそうだとは言い切れないが、何故か奴が目の前に現れた瞬間から、俺の中の本能、または心と言うべき何かが、目の前に居る男の存在に対して、否定とも言える拒絶の意を示していた。だから俺はそれに従う。所詮、心が決めた事には逆らえないと言うやつだ。

 とは言え、奴が何者であるかは気になる所――だから俺は【技能】《万物万華鏡》で奴の正体を探ろうと試みるが――


「おいおい、そう言う人権? プライバシー? 的な侵害って奴? 良く無いなぁ――」


 どうやったかは知らないが、なんと目の前の男は俺の《万物万華鏡》に気づき抵抗(レジスト)して見せた。


「気付いてたのか?」

「これでも俺、それなりに強いんだぜ? て言うかさぁ、そんなに俺の事知りたいの? 気になっちゃう? もしかしてモテ期って奴? ギャハハハハ!」

「……」

「まぁ、そんなに知りたいなら一つだけ、俺は「おーい主人ー」」


 不意に背後から声を掛けられた。

 反射的に振り返ると其処にはリリムとロッソ達が手を振りながらコチラへと向かって来るのが見えた。

 遠目でしか無いが、見たところ大した怪我などはしていない様子。まぁ、ロッソ達がどうであるかは知らないが、リリムが居れば大抵の魔物は対処出来る筈だから其処に関しては余り心配はしていなかった。


 とりあえず俺はそれだけ確認し視線を元に戻すが――


「あれ?」


 其処にはすでに誰も居なかった。

 気配や足音すら残さず、まるで最初から其処に居なかった様に奴は忽然と姿を消していたのであった。

 しかし奴は確かにここに居た。それに――


『俺は六番目(シックス)だ』


 その言葉がどういう意味かは俺には分からない。だが()()とはこれから先、何度か相対するであろうと、そんな予感がしていた。

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