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異界への扉

うぇーい

 暫くすると、地に横たわっている黒い怪物に纏う黒い靄が晴れ、遂にその正体を現した。股間スマッシュをお見舞いする前、奴の尻尾を切り離した時、今回同様に黒い靄が晴れて蛇の姿をした尻尾が姿を表した時に何となくその正体に予想が付いていたが、やはり奴はキマイラであった。


 キマイラは見た目、獅子の頭と山羊の胴体に蛇の尻尾を持った奇妙な姿を持った上位魔物。今でこそ、人類の敵として認知され、恐れられているが、なんでもかつては、その見た目からして神聖視されていたらしい。

 正直言ってその見た目の何処に神聖差を感じているのか、俺には昔の人の考えが理解出来ない。


 兎も角、キマイラは上位魔物。である故にその強さは本物であり、上位魔物の中でもかなり上の部類に値する程だ――しかし災害級程ではないはず。

 災害級とは正に規格外と言う言葉が当て嵌まる存在であり、その名に災害と付けられている様に、言ってしまえば地震や津波などの様に人類が如何にか出来る相手では無い。

 キマイラがその領域内の存在であるかと言われれば、答えは否。幾ら上位魔物の中で上の部類に値する程の強さを持ってしても災害級には遠く及ばない。

 それを今ここで証明する事は出来ないが、過去の経験がそう物語っている。

 過去の経験といっても、ここ数年の話ではなく、転生する前――即ち前世、勇者としてこの世界に呼ばれた、一条刀真だった頃の話だ。前世でも何度かキマイラと相対した事があり、中には変異種などの特殊個体も居たが、そのどれもが、あそこまでの脅威は感じなかった。だが、あの強さは間違い無く災害級と同等なものであった。いったい何故――いや、一つだけ思い当たるのは事があるじゃないか。それは隠された物では無く、周囲の目からも明らかであり、はっきりとそれだと分かる確固たる原因――そう、キマイラの身体を覆っていたあの黒い靄。アレが関係しているのは誰から見ても間違い無いだろう。しかし、だとしたらアレは一体何なのか。


 そう疑問を抱いていた時だった――。


「あーあ、やられちゃったか……」

「――ッ!?」


 今、この場には俺以外誰もいない筈。強いて言えば、少し離れた所にリリム達が居るが、それよりももっと近くから――そう、ちょうど俺が倒した黒い怪物、もといキマイラの死体のある所辺りからその声は唐突に聞こえた。声のした方に視線を向けるも別段なにもなく、ただ、綺麗に横たわっているキマイラの死体のみ――。


 幻聴だったのだろうか。いや、それにしてはハッキリと聞こえていた気がする――それに、何故だろうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかし、今はその感情に浸っている場合ではない。何故なら――それは再び唐突に起きたからだ。


「ッ!?」


 まるでひび割れたガラスの様にパリパリと音を立てながら空間に亀裂が走りだした。


「さっきの無詠唱だよなアレ。可笑しいなぁ、何で使えるんだ?」


 それから数分も間を置く事なく、そして遂に生じた亀裂は限界を迎え、破れた。


「もしかしてお前がそうなのか? いや、そうに違いない! ギャハハハ! 流石、ツイてるな俺!」


 破れた空間の内に姿を現したのは、まるで、在るもの全てを飲み込まんと言わんばかりの、底知れない暗闇の渦――俺はこれを知っている。それは《転移魔術》よりも遥かに優れた、あらゆる世界と世界を繋ぐ神の奇跡――


「《異界への扉(ゲート)》……」





 ♢♢♢♢♢♢



 それは転生し、アルスとして再び地上に降り立つ前――神界で生活を送ってから暫く経った頃の話だ。


「なぁティア、勇者と稀人の違いって何だ?」


 その頃になると神界――《グロウ・ガーデン》の主であるディーティアとの仲も自然と深まり、そのおかげか、地上で受けた精神的苦痛も少しずつだが、癒え始めていた。それで心の余裕が出来たのか、その時の俺はただ、彼女ティアともっと話をしたいと言う気持ちがあったからなのか、何となく、会話の切り出し口として、そう口に出していた。


「違いですか? そうですね、正直言って大した違いは有りません。根本的にはどちらも同じで《異界への扉(ゲート)》と言う物を通してコチラの世界にやって来たのです」

「《異界への扉(ゲート)》? なんだそれは?」

「そうですね、簡単に説明すると《異界への扉(ゲート)》とは、国と国を繋ぐ道の様な物です」

「それって《転移魔術》みたいなもんか?」

「いいえ。《転移魔術》は一度行った事ある場所にしか飛べず、また世界の壁を越える事は出来ません。しかし《異界への扉(ゲート)》は違います。一度も行ったことの無い未知なる場所へ飛ぶ事も、世界の壁を越え、あらゆる世界と繋がり、自由に行き来する事も可能なのです」

「それは、凄いな……」

「えぇ、凄いのです。とっても凄いのですよ。故に《異界への扉(ゲート)》は神のみに許されたモノなのです」

「神の奇跡ってやつか」

「ふふふ、そうですね。そしてここからがトウマの質問に対しての答えなのですが……」

「……」

「幾ら神の奇跡であろうと、好き勝手に使ってはいけないのです。本来、《異界への扉(ゲート)》とは、自身の管理する世界が、抗い用のない危機に陥った時、そこに住む住人を他の安全な世界へと避難させるため呑みに行使する事を許されているのです」

「非常口みたいな脱出用って事か」

「神のみ技を非情口呼ばわりですか……ま、まぁ、認識としては間違ってないので良いでしょう……兎に角、この非常口――じゃなくて《異界への扉(ゲート)》には――」

「今、自分で非常口って言って――」

「言ってません」

「いや、い――」

「言ってません」

「……」

「言ってません」

「わ、分かったから! 言ってない、言ってなかった! 俺の耳が節穴で聞き間違えただけだから! 俺が悪かったから! だからその笑顔やめて! 怖いよ! 120円の価値すらないよ! ドーナツ美味しくいただけないよ! と言う事で続きを! 話の続きをお願いします!」

「……ゴホンッ! 兎に角、《異界への扉(ゲート)》には使用条件があるのです。しかしあの方、フォーリアはそれを無視して、地球へと《異界への扉(ゲート)》を繋いだのです。そして勇者召喚と称して意図的にトウマをコチラの世界へと呼んだ、それが勇者なのです」

「成る程、もう何となく予想が付くが、もしかして稀人はその逆って事なんじゃないか?」

「はい、その通りです。一度開いた扉は最後には閉じなければならない、しかしフォーリアはそれをしませんでした。恐らく今も尚、《異界への扉(ゲート)》はこの世界と地球を繋いでいるでしょう。そして、それが原因で偶然にも《異界への扉(ゲート)》通ってしまい、コチラの世界にやって来てしまったのが稀人と言う事なのです」

「意図的か偶然か、確かに大した違いはないな。それにしても《異界への扉(ゲート)》ってのは本当に凄いな……」

「えぇ……因みに話が変わりますが、《異界への扉(ゲート)》が神のみに許された力である由縁、実はその理由にはもう一つあるのですよ」

「へぇー、それって?」

「それは時間の流れを無視する事が出来るからです」

「時間の流れ?」

「はい。刀真のいた地球、そしてここアルテンシアも、全ての世界は基本、時間の流れは同じなのです。しかしゲートはその時間の壁を越え、此処より過去、または未来に行き来が可能なのです。所謂(いわゆる)、時間旅行と言うものですね」

「時間旅行……それって大丈夫なのか?」

「と言いますと?」

「いや、ほら、過去に行った事で歴史の変換が起きちゃう的なやつ。えっと、なんだっけ?」

「タイムパラドクスですか?」

「あ、そう、それ!」

「そうですね……正直に言いますと、それは私達でも分かりません。起きる可能性もありますし、逆に起きない可能性もありますね」

「どういうこと?」

「過去にゲートを繋いだ事で何が起きたか。その事象の規模によって結果が異なると言う事です。例えばゲートが過去に繋がった事で一人の人間が居なくなってしまう。と言う事象が起こるとします。勿論、その者の家族からすれば一大事ですが全体からしたら、行方不明者が一人出たと言う事象に留まり、その程度の認識でしか周囲も認知しません。つまり、歴史が改変される様なタイムパラドクスが起きる事はありません」

「成る程……確かに行方不明が出るなんて事は、悲しい事に、年中起きてる事であって、そんな珍しい事では無いからな」

「えぇ……しかし、その居なくなった人物が周囲に影響を与えるほどの存在、例えば歴史的発明家だった場合。本来、その発明家の手によって生まれる物が生まれなくなる。有る未来から、無い未来へと歴史が改変してしまう。つまりタイムパラドクスが起きるという事です」

「つまり、主人公か村人Aかの違いって事か」


 消えたのが勇者であれば、物語は進む事なく強制的に終わってしまうが、消えたのがただの一村人であった場合は、勇者も生存している訳で物語の本筋に影響を与える事なく、結末を迎えるまで進んでいく。みたいな感じかな。


「ちょっとその例えはよく分かりませんが……あ、因みに、トウマや他の稀人の方達は実は本来の地球の時間軸から此方、アルテンシアへやって来たのではありませんよ」

「え! そうなの?」

「はい。私も、自身が実行したわけでは無いので、正確な数字は分かりませんが、貴方達は本来の時間軸から、およそ二百年後の地球からやって来たのですよ」

「二百年後って、マジか……てことは本来ならまだ明治? いや、もっと前なのか?」

「うふふ、驚きましたか?」

「あ、あぁ、そりゃあな。つまり俺は未来人で転移者で勇者で、そこにもう時期、転生者が加わる訳か。ラノベでも、ここまで盛り込んだ設定のある奴なんて居ないぞ。なんかヤバイな……」

「そうですね。そしてそう言う事が出来てしまうのがゲートなのです」

「成る程。確かにそれは人の身には余る力だな」


 因みにその後、ティアから俺が転生する頃には本来の時間軸は、俺が地球に居た頃から()()()()()らしいと言う事を聞き、この話は終了した。



 ♢♢♢♢♢♢



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