スタンピード②
告知
あらすじを変更しました。
第三章 「動き出した闇」を改稿しました。
帝都を経ってから五日が経過し、ようやくグリューセルの街に着いたルーシェが目にしたのは、崩壊した建物、燃える炎に立ち込める煙、そして傷を負った騎士や冒険者たち――見たところ幸いな事に死者は居ないようだが、そこに広がるのは案の定、戦場の海と化した見るも無残な光景であった。
「まるでスタンピード……いや、その一歩手前といったところか……」
スタンピード――それは過去に魔物によって引き起こされた大災害。ダンジョンから這い出て来た多くの魔物が、最初は小さな村から始まり、やがて街へと侵攻し、幾つもの人の住処が落とされた。結果的に《六勇者》によって事を終えたが被害は大きく、負傷者どころでは済まず多くの死傷者を生み出した。
魔物たちは人類にとって大きな傷跡を残していったのだ。
それに比べると此度の事件は軽いもので、この程度の規模なら過去に幾度か起きた記録がある。しかしそれでも起こるのは数十年刻み――いや、数十年に一度あるか無いかくらいの事であり、生まれてこの方そう言った経験を目の当たりにした事のないルーシェにとってその対応は困難を極めるものである。
それに付け加えて街の至る所に負傷者が放置されている事から、最早彼等に構っているほどの余裕がない程に危機的状況であるという事は火を見るよりも明らかである。
「すまないが負傷者たちは自力でここから退避してくれ!」
負傷者の中でも、騎士はともかく、冒険者たちからは文句の一つでも出て来ると思ったルーシェは言葉に圧を乗せて話すが、どうやら彼等には既にそんな事を言う程の気力は残っておらず、大人しく彼女の言葉に従い負傷者同士、肩を貸しあいながら撤退をし始めた。
その様子をルーシェは見守る素振りもせず続け様に残った騎士や冒険者たち、そして彼女と共にやって来た騎士たちを一瞥すると彼等に向かって叫ぶ。
「剣を抜けぇ! ここを抜かせてしまえば、貴様らの友人や家族、多くの者に被害が及ぶだろう! それは決してあってはならない! 故に! 何としてもここを死守するのだ!」
「「「「ウオォォ!!!!」」」」
ルーシェの言葉に合わせるように雄叫びを上げるその光景は、普段からあまり仲が良くない騎士団と冒険者が一致団結した瞬間でもあった。
こうしてルーシェ率いる増援部隊は自ら戦場の海へと足を踏み入れるのであった。
♢
「くらえ! オラァッ――!」
「グギャァァア!!」
「邪魔だぁ! 死にやがれ!」
「プギィィャァァ!!」
街へと侵攻をし続ける魔物の群れを現地の冒険者たちと協力しながら討伐していく。
基本、魔物が群れを成して行動する時、第一派、第二波といった波があり、それはダンジョンと関係している。
ダンジョン、そして迷宮もそうだが入り口に近い階層――つまり『第一階層』や『第二階層』と言った低階層には、ゴブリンやスライムなどの下位魔物がおり、入口から遠く、階層が深くなるにつれて下位魔物の数は減り、オーガやゴーレムなどの上位魔物が階層一帯を支配するようになる。この上位魔物が生息している階層のことを世間一般は『上位階層』と呼んでいる。
この理論から、魔物がダンジョンから地上へと出て来る際は入り口に近い階層の魔物から順に出て来る訳で、それはつまり最初は下位魔物から始まり、続いて上位魔物という順で地上へと出てくると言う結論に至る。そうなれば当然、下位魔物と上位魔物の二つの群れが出来上がり、この二つの群れの内、前者を第一派、後者を第二派と呼ぶのである。
ルーシェたち増援部隊がグリューセルの街に着いた時には既に魔物の第一派と第二派が合流を果たしており、下位魔物だけでなく上位魔物まで侵入を許してしまっていた。
「そっち行ったぞ!」
「《刺せし氷結よ/敵を禁足せよ》! 今のうちに!」
「ハァァアッ!」「くらえ!」
「グギャァァアピエンゥゥン!!」
下位魔物は兎も角、上位魔物となると流石に一人で相手するのは厳しく、複数人で連携を取りながら殲滅をしていく。
その成果は著しくあるものの増援部隊が加わる以前よりは順調であり、騎士や冒険者の士気は高まるばかりであった。
ただ一人、ルーシェを除いては。
ルーシェは現状に対して何か思う所があるのか、眉間にシワを寄せながら渋い表情をしていた。
その様子に気付いた近くに居た者の内の一人が彼女に声を掛ける。
「……如何なさいましたか?」
「……変だと思わないか?」
「……変、とは?」
「うむ、魔物たちの様子がな。奴ら致命傷を避ける以外は反撃して来る様子をまったく見せなくてな」
「確かに、言われてみれば……ですが寧ろ好都合なのでは?」
「好都合か……本当にそれだけで済むと良いのだが……(しかし奴らの様子は明らかにおかしい。まるで何かから必死で逃げている様な……)」
スタンピードが起こる原因は、ダンジョンの管理を怠り魔物が増え過ぎてしまった事にある。それは世間の常識でありルーシェもまた幼い頃、座学としてそれを学んでいた。
しかし今回の件は、その常識には当てはまらなかった。何故ならグリューセルの街付近のダンジョンはきちんと冒険者たちによって管理されていたからである。であれば魔物が増え過ぎてしまったと言う事はまずあり得ない。かと言って原因も無く事が起きるのもまた有り得ない。事が起こる際は必ず何かしらの理由・原因がある筈で、彼女はそれが魔物たちの様子と関係があるのではないかと踏んだのだ。
しかしルーシェが一人で悩んだところで答えが出る訳でも無く、彼女の気は晴れぬまま、時は刻一刻と過ぎていった。
そして一人あたり二十は討伐した頃――それは現れた。
「お、おいっ! 何だあれ!?」
最初に声を上げたのは誰だろうか――それに応えるように皆が皆、視線を前方へと転じるとそこに居たのは――黒い怪物であった。
新たにレビューを一件、頂きました!
山下愁様。素敵なレビューを有難うございます!
ブックマーク 感想 レビュー等ぜひお願いします!
ツイッターやってます!
下記のURLから是非フォローお願いします!
https://mobile.twitter.com/6mJJAwsdn1IGFCI




