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出発準備 ①

 ロッソ達と合流して街を出てから早数時間。道中魔物に出会いはしたものの大事にはならず、無事王都に辿り着くことができた。


 検問を終え門を潜り抜けると其処で俺たちを待ち構えたのは、賑やかな王都の街並みだった。

 街の中心に構えているのは、この国の象徴である王城。そして、そこまで続く道には、老略男女問わず、沢山の人で溢れかえっており、美味しそうな料理の匂いに釣られて、屋台や飲食店に足を運ぶ者や、逆に通りかかる人達に声を掛けて客寄せをする者。そして元気に駆け回る子供達、それをベンチに腰掛けながら微笑ましそうにしている老人夫婦。一部人だかりが出来ていると思えば其処には、色んな物語を唄う吟遊詩人が居て、それを見る人だかりの中には冒険者なのだろうか、剣や弓などの武器を携えている者も居る。

 更に視界の端に目をやれば其処には、野良猫が集まってニャーニャーと時節鳴きながら集会を開いていたりして、まるで何かしら祭りでも開いているのかと錯覚する程の賑わいだ。しかしそれがこの国の王都ルシアスの日常だ。

 実は初めて王都を訪れた時はその賑やかさに驚かせられたが今となっては、何処か懐かしさを感じると同時にその何も変わっていない情景に安堵すら覚える。



 それから暫く歩いて王都の中心部にある冒険者ギルドで前まで辿り着くとロッソ達が今回の依頼の報告に行くと言って別れ、俺も今日泊まる宿を探しに行こうと歩き出そうとすると――


「アルスさん」


 ハルカスさんに呼び止められた。


「改めて今回は助けていただいただけで無く、此処まで同行していただき有難うございます」

「いえいえ、お礼ならロッソ達に……ってもう居ないか……」

「あははは、彼等には昨日のうちに御礼をしたので大丈夫ですよ。ですので後はアルスさんだけなのです」

「はぁ……」

「それでですね、大した物ではありませんがこれを……」


 そう言って渡されたのは縦十センチ、横四センチ程の長方形の紙切れだ。


「これは?」

「私の故郷の入国パスみたいな物です。機会があれば是非立ち寄ってみてください」

「そう言う事でしたら有り難く受け取らせて貰いますよ。では俺はこれで――」

「ああ!待ってください!最後に一つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「貴方は神を信じますか?」


 何を言っているんだと思ったが問い掛けるハルカスさんの表情は至って真剣であった。


 何か思うところでもあるのだろうか――取り敢えずここは俺も真面目に答えるべきだな。


 神の存在じたいは確かなもので、それはこの世界に生きる人々にとって周知の事実。だからハルカスさんの聞きたい事は神の存在の有無では無いだろう――。

 じゃあハルカスさんは俺に何を聞きたいのだろうか?それは恐らく信仰では無いのだろうか。


 信仰とは、神が存在すると言う前提で作られた啓示(ルール)


 何故そう思ったのか分からない。そもそもハルカスさんの言う神とは一体どの神を指しているのか?或いは全ての神を指しているのか。

 どちらにせよ俺は彼女(ディーティア)の事は信じているわけで、もしそうだとするなら俺の答えは――。


「まぁ、信じてはいますね」

「……」

「でも、だからと言って彼等の行い全てに肯定的になるつもりは無いですけどね。それに、結局最後は己が信じたい事、信じたいもの――そうだと決める自身の心に従うべきだと思いますよ」

「……では、もし、それが間違っている事だとしたら?」

「うーん、その時は誰かが教えてあげたら良いんじゃないんですかね」 

「教える、ですか」

「そ、正面きって思いっきり言うんです。"貴方の信仰は間違ってる! "ってね」

「それは、中々酷な事を仰いますね」

「ははは、確かに。でも、間違いってのは中々自分では気付かないものですから」

「そう……ですか……」


 俺は迷宮を出た時に決意した思いをハルカスさんに告げた。

 この答えが果たして正解かどうかは不明だが、それを聞いたハルカスさんの表情は真剣なものから少し柔らかいものに変わっていた。


「と言う事で、今日の宿を探さないといけないのでそろそろ行きますね」

「はっ!す、すいません!足止めさせてしまって」

「いえ、では、また」

「はい、また――いずれ何処かで――」


 こうして俺は今日の宿を探すべくハルカスさんに背を向けて再び歩き出した。


「アルスさん、やはり貴方こそが――」


 その呟きが俺の耳に届く事はなかった。

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