VS 九十階層④
「いいねぇその表情。そうだ、俺はまだ生きてるぜ?」
「ギャォォォォォオ!!!」
馬鹿にされたと感じ取ったのかヨルムンガンドがあげた咆哮には、恥辱と怒りが入り混じっていた。
「第二ラウンド開始だ!」
それから約15分の時間が経過した。
一度死ぬ前の時とあいも変わらず、ヨルムンガンドの攻撃を回避しては反撃するの繰り返しで、なんとかこのままリリムの準備が完了するまで時間を稼ごうと思った時――。
転機は突然訪れるのだった。
唸り声を上げながら超速でこちらに向かって突進してくるヨルムンガンドに対し、即座に《第一階位魔術》【フィジカルブースト】で身体を強化して《空歩》で上空に駆け上りその攻撃を回避する。
そしてそのまま、ヨルムンガンドの背後に回り込み《第二階位魔術》【サンダーレイン】を放つ。
魔法陣より現れた雷の雨がまるで豪雨かのように、ヨルムンガンドに降りかかり、その規模はヨルムンガンドがその雷の雨で見えなくなるほどだった。
普通なら、これをまともに受けて無事でいられる筈がないが、それはあくまでも普通ならでの話で、人間や下級の魔物を相手にした場合だ。
しかし、目の前にいるのは、そのどちらでもなく上位の魔物だ。それも、海の頂点である、海神龍リヴァイアサンに次ぐ強さを持つ、海の王。まさに正真正銘のバケモノだ。
つまり何が言いたいのかというと、《第二階位魔術》程度では、奴にまともなダメージを負わせる事が出来ないという事だ。
そしてそれは、この場で改めて確実性を持つことになった。
と言うのも、雷の雨が晴れると、そこには傷を負いながらも平然としているヨルムンガンドがいたからだ。
「……流石は海の王だわ。……今の俺が使える《第二階位魔術》の中でも最大の魔術なんだけどなぁ……。」
これでヨルムンガンドには、《第二階位魔術》以下の魔術が意味をなさない事が実証された。となると、奴にまともなダメージを与えるには、《第三階位魔術》以上か、それと同等の物理攻撃になる。
「ギャァォォォオ!!!」
今の攻撃で俺の位置を把握したヨルムンガンドは、「身の程知らずの下等生物が!ここで殺してやる!」と言わんばかりの殺気を込めた鋭い眼光を放ち、再び襲いかかって来た。
それを先程同様に、上空に駆け上がり回避するが――。
「なっ――!?」
なんと、ヨルムンガンドはその巨大な身体では想像出来ない見事な身のこなしで上空へと飛び上がって来た。
そしてそのまま身体を回転させその勢いで俺に向かって尻尾を大きく振り下ろしてきた。
完全に回避する体勢になっていた俺は、身体を翻して方向転換する事が叶わず、その振り下ろされた尻尾でおもいっきり、地上へと叩き落とされた。
「がぁっ――!」
今まで何度も上空へ跳び上がり回避してきが、その度にこんな動きはしてこなかった。それはつまり、今までわざと見逃していたと、手加減されていたという事だ。その気があれば奴は簡単に上空に飛び、そこいるリリムさえも打ち落とせたというわけだ。
「……くっ!」
俺は、今まで手加減されていたことに対しての悔しさと怒りで、ただその感情に任せて暴れ回る狂戦士となろうとするも“ぐっ”と拳を強く握り押さえ込み、今は時間を稼ぐことに集中しようと起き上がろうとする。
「――!!」
だが、脚や腕はあらぬ方向に曲がっていて、その場から一歩も動けなかった。
「ガァァァア!!!!」
そして迫ってくるのは、俺をここで食い殺そうと言わんばかりに大きく口を開いたヨルムンガンド。
ここまでかと、そう思った時だった。
『主人!準備は整ったのだ!』
リリムが念話で準備が完了した事を伝えて来たのだ。
次回で決着つきます
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