山陽駆ける流星
一口メモ
「ひかりRail Star」
山陽新幹線で走っていた「ウエストひかり」の速達化とサービス向上を目的として2000年ダイヤ改正で設定された。
この列車ように開発された700系7000番台でのみ運用され最高速度は285キロ。
九州新幹線が開業すると「Rail Star」の役割を「さくら」が担うようになり、運行本数が減少。現在は早朝の「ひかり440号」、「ひかり442号」と深夜の「ひかり443号」を残す(定期列車に限る)のみである。
「ひかりRail Star576号」
昨年夏の臨時列車として設定された博多発新大阪行きの「ひかり号」。停車駅は極力絞り、博多→広島間では「のぞみ170号」とほぼ同じダイヤ、広島→岡山間では「のぞみ170号」を先行する形で設定されたため、「のぞみ」潰しの「ひかり」と言える。
西日本旅客鉄道700系7000番台
「ひかりRail Star」専用編成として開発された。ベースは当時製造していた700系新幹線だが、車内は16両編成のものとは異なる。500系と同じくグレーを基調に窓回りを黒、その下にサニーイエローのラインが入る斬新なデザインでデビューした。
指定席車は2&2シートとなり、好評をはくしている。
西日本旅客鉄道N700系7000番台
九州新幹線全線開業に際し、新造された山陽・九州新幹線専用N700系。性能は既存のN700系とほぼ揃えられており、時速300キロの高速運転にも対応する。
人気を誇る「ひかりRail Star」の車内構造を引き継ぎ普通車指定席は2&2シートである。車内は木目が使用され淡白な東海道新幹線系統のN700系とは異なり、九州旅客鉄道の遊び心が見受けられる。
2017年夏の臨時列車が発表されたとき、僕は目を疑った。
「「Rail Star」の日中走行。」
驚きのあまり声に出してしまうほどだった。
その列車の情報をつぶさに確認する。列車は「ひかりRail Star576号」。運行日は8月13、15、16日。博多12時19分発で新大阪には15時14分着。停車駅は小倉、広島、岡山、姫路、新神戸と少ない。
「これ凄いなぁ。」
近年では稀な「ひぞみ」ダイヤの「ひかりRail Star」だ。
今、「ひかりRail Star」として運行する「ひかり号」は早朝の博多発岡山行きの「ひかり440号」、博多発新大阪行きの「ひかり442号」、深夜の新大阪発博多行きの「ひかり443号」のみだ。
これらの列車に乗りにいくにしても「440号」には乗れず、「442号」、「443号」は日帰りの場合|福山が限界なことは既に分かっていたことだった。
「たった3日か。仕事の合間に行けるなら行こうか。」
僕の腹はもう決まった。この3日いずれかで行ける日に行こう。この機会を逃すと速達型「ひかりRail Star」に乗ることはない。その確信をもった。
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7月の下旬になると来月のシフトが確定する。僕はすぐに8月中旬のシフトを確認する。
「あっ。」
8月12日に夜勤があるが8月13日は明け。その翌日は休みだ。
(行くしかないな。)
僕は仕事が終わるとすぐに栗東駅のみどりの券売機に急いだ。
仕事が終わりで、博多に12時19分前につける列車は新大阪9時05分発「のぞみ5号」、9時14分発「さくら583号」、9時18分発「さくら549号」、9時29分発「のぞみ7号」、9時42分発「のぞみ9号」。この内最も指定券が取りやすいものは「さくら583号」鹿児島中央行き。この列車は繁忙期のみ設定される列車のため座れるだろう。そう思っていた。
だが、蓋を開けてみるとお盆期間を舐めていたなぁと思い知らされる。僕が乗れると思っていた博多方面に向かう全ての新幹線の普通車指定席は軒並み満席の「×」表示だ。グリーン席にはまだ空きがある。
「グリーン車じゃなくてもいいだに。」
と思ったが、「さくら号」で運用するN700系7000番台、8000番台のグリーン車には乗ったことがない。
「仕方ない、グリーンにするか。」
MVの画面を叩き、6号車グリーン車指定を取った。本当は進行方向右側一番後ろを取りたかったのだが、既に埋まっており、仕方ないので左側一番後ろに収まった。
(この調子だと「ひかり576号」も混んでるか・・・。)
帰りの特急券も購入するを押すのが少々怖くなる。
「うわ、ガラガラ。」
4号車の進行方向右側一番後ろを押さえた。
特急券と同時に乗車券も購入する。栗東→福岡市内の往復にしておこう。こうすれば往復割引が効き、ある程度は安く行ける。
MVから乗車券と特急券が出てくる。「さくら583号」と「ひかり576号」の特急券の券面を確認する。
「「レールスター」とは表記されないんだなぁ。」
「ひかりレールスター576号」と切符に書かれて欲しかった。
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8月13日。7時過ぎに仕事が終わる。栗東を発つ大阪方面行きの列車は7時23分発。仕事場から十分間に合うと踏んでいるが、間に合わせるためには少し走る必要がある。
栗東駅には列車が入ってくる直前に到着。駆け込み乗車はせずに間に合わせることができた。
栗東から草津まで普通に揺られ、草津からは新快速に乗り換える。
新大阪に着けば、御堂筋線の改札口近くにあるマックに駆け込み、朝御飯を済ませる。昨日の夜勤始めから食事らしい食事をしていないからなぁ。ファストフードさえ活力の源になる。
朝御飯を済ませば、新幹線中央口から新幹線のラチ内に入る。「さくら583号」は20番線から出発する。
ホームに上がり「さくら」の入線を待つ。
「新幹線をご利用いただきましてありがとうございます。まもなく20番線に「さくら583号」鹿児島中央行きが到着します。」
自動放送の「さくら」のアクセントが気になる。「さ(→)く(→)ら(↑)」じゃなくて「さ(→)く(↑)ら(→)」だろ。
博多方から8両編成のN700系7000番台が入る。塗装も東海道新幹線系統の車両とは違う。
僕が乗るのは6号車だ。九州新幹線向けN700系の6号車は新幹線唯一の普通車とグリーン車の合造車だ。新幹線の半室グリーン車とはどういうものだろうか。
ドアが開き、車内に入ってみる。
(半室だからやっぱり狭いなぁ。)
グリーン席は6列24席。狭い。
自分の席に落ち着き、車内を見てみると壁は茶色系で纏められており、壁に下がる装飾には九州旅客鉄道らしい遊び心が見受けられる。
(少しは寝られるかな・・・。)
シートをフルに倒してみる。リクライニングレバーは背もたれとレッグレストを動かすものに別れている。付いている位置は既存のN700系と同じだが、レバーの大きさは半分だ。
9時14分「さくら583号」新大阪を出発。左下には西日本旅客鉄道の宮原車両基地が見える。
「あっ。」
そのなかに「TWILIGHT EXPRESS瑞風」を発見する。ここにいるということは、今日は走る予定そのものが無いのだろう。
「戻ってきたときに撮れるかな。」
新幹線は大きく右へカーブし、スピードをあげる。
ある程度走ったかと思うとトンネルに入り、車内チャイムが流れ新神戸停車を告げる。
トンネルを抜けてすぐに新神戸停車。3分後追ってくる「さくら549号」から逃げるように新神戸を発つ。新神戸を出るとすぐにトンネルに入り、新幹線はグイグイとスピードをあげていった。
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姫路を出発すると「さくら583号」は時速300キロ運転を開始する。後ろから追ってくる「さくら549号」には博多駅まで先着する。人の動きと共に「さくら583号」の足も慌ただしい。
岡山駅に到着。ここまでの利用で新幹線を降りる人もいる。「ひかりRail Star」的な利用をする人は今でも多いらしい。
僕の隣の席にも一人おばあさんが乗ってきた。
(この人はどこまでいくのだろう。)
そんな問いかけを心の中でしてみる。まぁ、こういう時大体その人は僕の目的地と同じ駅までいく。今日は博多までこの人が降りることはないかな・・・。
荷物を下ろしてシートに収まったがその人何か落ち着きがない。
「これどこでシート倒せるのかしら。」
これは答えた方がいいのか。
「右の肘掛けにレバーがないですか。」
と言う。
「右、右。あっ、これ。ありがとう。」
ようやっと見つけたらしい。
「ごめんねぇ、ありがと。」
「いえいえ。」
「私これから熊本に帰るんだけどねぇ。」
そうおばあさんはこれからの予定について話始める。熊本かぁ。僕は博多で降りてしまうし、博多で降りるときは迷惑かけながら降りることになるのか・・・。
しかし、「さくら583号」は博多駅で後続の「さくら549号」に抜かれる。早くいくだけなら当然「さくら549号」の方が早いのだが・・・。切符とれなかったのかな。
「お兄さんはこれからどちらへ。」
と聞かれたので、
「博多です。ちょっと珍しい新幹線が走ると小耳に挟んだもので。」
と答えた。
「珍しい新幹線、へぇ。」
と言ってから、
「その為に博多まで行かれるの。」
と聞いてくる。僕はそれに
「はい。」
と答えると、「もったない」と言ってくる。だが、それはその人の基準だ。僕には全くもったいなくない。
広島、小倉と走っている間はほどよく寝れる。
「まもなく博多です。」
そのアナウンスが流れ、僕は降りる準備をした。
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折り返しの時間は短い。改札を出てすぐさま改札の中へと戻る。チラッと電光掲示板に目をやると僕の乗る列車が出ている。
「レールスターって書いてあるのが良いなぁ。」
と独り言。
12時19分発「ひかりRail Star576号」新大阪行き。この表示を待ちわびていた。
その下には停車駅が並んでいる。小倉、広島、岡山、姫路、新神戸。やはり少ない。「576号」を3分先行する「さくら552号」よりも一駅少ない。これだけ停車駅の少ない「Rail Star」は九州新幹線開業以前にまで遡るか。
新幹線のホームはお盆ということもあり混んでいる。隣のホームに止まる「のぞみ号」東京行きには次々と乗客が吸い込まれる。
一方、こちらのホームには客が少ない。皆、3日しか走らない臨時列車には目もくれない。
(「576号」の停車駅に行くだけなら賢い選択だと思うんだけどなぁ。)
接近メロディが流れ、博多南方面から新幹線が入線する。グレー基調の新幹線。「ひかりRail Star」だ。
写真を撮り、編成を確認すると「E4」との表記がある。日中走行「Rail Star」の栄誉を与えられたのは700系7000番台第4編成のようだ。
僕は4号車の1番A席に収まる。よく見る新幹線の普通車指定席は5列だが、これは4列。座席の幅は広くなっているし、隣のB席との間には太めの肘掛けがあり、他の新幹線に比べ窮屈ではない。
銀河鉄道999の発車メロディが流れ、ドアが閉まる。
「ひかりRail Star576号」博多出発。速達型日中走行「Rail Star」は山陽新幹線へ滑り出した。
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博多出発時点で車内の乗客は片手に収まるくらいだろうか。ほとんどのっていない。
(これって大丈夫なのか。)
と心配になる。
「失礼します。」
博多を離れて5分と経っていない。車内販売が来た。僕は彼女を呼び止め、アイスを頼んだ。
300円くらいするアイスだが、これにはあだ名がある。「シンカンセンスゴクカタイアイス」という。全部片仮名表記なのもみそだ。
「さて、いただきます。」
蓋を取り、貰ったプラスチックのスプーンをさしてみた。
「硬っ。」
なんとスプーンは1mmくらいしかささらない。手を離すと直立までする。何て硬さだ。
何度かスプーンをさし、普通に食べようと試みるもののカタイアイスはそれを拒み続けている。
(食べられたくないのかな。)
そう問いかけてみたくなる。
ずっと手に持って溶かそうにも、アイスの容器もかなり冷たい。たまに手を離さないと持っていられないな。
食べ始め5分くらいはちょっとずつ食べる。でないとプラスチックはあっけなく割れそうだ。10分くらい経つと手から伝わった熱で縁の辺りが溶けてくる。そういう場所から攻めていくとだんだんと食べやすくなった。
「まもなく小倉です。」
カタイアイスとの戦いは小倉に到着する手前まで続いた。
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新下関から広島の間はぐっすり眠っていたらしい。
「まもなく広島です。」
と流れるときまで気付かなかった。いつの間にか新山口、徳山は通りすぎた後だった。
「ひかりRail Star」は最も左のホームにはいる。ホームには「ひかり号」を待つ乗客もいる。
反対側のホームには広島始発の「のぞみ170号」東京行きが止まっている。あの「のぞみ170号」は博多始発の列車として走ることもある。出発時間は12時19分だが、広島駅到着段階では「576号」と比べ5分遅い。これは小倉→広島間で新山口に停車するためだ。
「ひかり576号」が走る日、博多~広島間では752席輸送力が下がるが、広島~新大阪間では571席輸送力が上がる。「576号」が「のぞみつぶし」と言われる所以はここだろう。
「・・・。」
「576号」は「170号」を岡山まで先行。乗客を乗せ終わると、そそくさと広島を発った。
僕は目をパチパチする。そろそろ眠気の限界が来た。さっきも眠ってたけど・・・。
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岡山14時04分着。発車は14時11分だ。この間に広島始発の「のぞみ170号」をやり過ごす。
岡山まで来ると指定席のほとんどが埋まる。2&2シートは人気でそれを表すようだ。乗車率は85%ほどだろうか。この先「576号」は「のぞみ」に抜かれるダイヤ編制だ。早く新大阪に向かうには適さない。
14時08分、「576号」が止まるホームの反対側に「170号」が到着。少ない停車時間だが指定席に座る人たちは長蛇の列を作っている。彼らが乗りきるよりも前に、銀河鉄道999が流れる。
乗降が完了し、「170号」は岡山を発つ。僕の乗る「576号」は少し待ってから走り始めた。
次の停車駅は姫路だ。姫路では博多始発の「のぞみ30号」をやり過ごす。
少しの停車時間の間に僕は「ひかり」の表示と「Rail Star」のロゴマークを写真に納めた。
この表示が見れることが少なくなった今、これを納めない理由がない。
その頃、轟音が右から左へ流れ去っていく。博多始発の「のぞみ30号」は定期列車だ。時速300キロで東京を目指す。時速285キロで走る700系は道を譲らざるを得ない。
姫路を発ち、新神戸に停車。新大阪到着の手前では下り線を逆走し、20番線ホームにはいる。
「「瑞風」は見れるかな。」
そう思いドアにへばりつくように見ていたが、「瑞風」は新幹線の高架橋から屋根しか見えない場所に移動していた。
「あのとき撮っとけばよかったなぁ。」
後悔先に立たずとはこの事なのか・・・。
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一年後の2018年夏。「ひかりRail Star576号」が設定されたダイヤで「ひかり596号」が走る。運転日は2日間に減ったものの、「のぞみつぶしのひかり号」が定着したといえる。
しかし、使用車両はN700系7000番台になりレールスターではなくなってしまった。
それの穴埋めなのかは知らないが、新たに姫路~博多間に「ひかり577号」と「ひかり576号」が設定された。
これが彼ら最後の輝きと捉えるかどうか。どのみち彼らに残された時間は少ないのだ。
新しい旅行記のため、「一口メモ」として注釈を付けてみることにしました。