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九十三話  顕現する蜃気楼

 街中を疾走する俺とハミル、一人悠々と飛んでいるユガケの三名。

 遠くに見える大きな建物が多分城だろうと当たりを付け、ひたすら真っ直ぐに進んでいたのだが……

 目的地上空に突如巨大な船が現れる。

 そこから蜘蛛の子を散らすように広がっていく、どう見ても敵である集団にげんなりしながらも、俺達は仕方なく突き進む。


 そんな中やたらピッカピカ光っていた舟から放たれた閃光と、背後から迫って来た閃光の衝突による余波が俺達を襲う。

 上空で発生した衝撃波に飛ばされ、俺とハミルは抱き合うように道の端に転がった。

 閃光や衝撃が収まったのを確認し空を見上げると、巨大船が撃墜されて城に突き刺さっている光景が飛び込んでくる。

 目まぐるしい事態の急変に堪えかね、ついに俺の叫びが口を衝く。



「もう嫌だ! 今の光はなんなんだ!?」


「あれは……、多分後ろから来たのは『りのれふぁいやー』だね……。びっくりするくらい威力が上がってるよ……。今度は……僕でも防げないかもね……」



 好敵手の奮闘を称えるように微笑を浮かべるハミルによると、船ピカを押し切って巨大船を貫いた力はリノレの放ったものらしい。

 とりあえず元気過ぎるほど元気なようで安心したよ。

 憂いは絶たれたのだ。リノレが心配で引き返す選択肢は消えた。

 俺はもう巨大舟が突き刺さっている、絶対なんかヤバそうなあの怖い城に行かなくてはならなくなってしまったのだ。



「そこにいるのはフレムか!?」


「おや? イリスパパ! こんな所でなにしてんの?」



 道沿いにある大きな建物から、紳士然としたチョビヒゲのおっさんが出てきて声を掛けてくる。

 それはイリスパパことラウレル・メインシュガー。

 この惨状で知り合いに出会え、少し気持ちが落ち着いた俺は陽気に返事を返した。



「いやなに、仕事……でな? お前達より先にグロータスにある取引先に出向いていたのだ」



 そう言いながら不自然に顔を逸らすラウレル卿。

 とりあえず仕事が主な理由ではなさそうだな。ライフル持ってるし。



「そんな事よりお前はこんな所で何をやっている? セリオス王子は? イリスは一緒ではないのか!?」



 慌てたような口振りのパパさん。やたらこちらの状況に詳しい。

 完全にセリオスの手配した戦力である。

 困ったことにラウレル卿に色々知られてしまったようなので、根掘り葉掘り聞かれる前に俺は退散するとしよう。



「ええ、今から城に居るセリオス王子の所へ馳せ参じる所存でございますとも。では、わたくしは失礼して……」


「待て!」



 急いでいると匂わす俺の話術に一切動じず、走り出そうとする俺を止めにかかるイリスパパ。

 いや、やめて聞かないで。俺は何も知らない分からない。

 お転婆イリスが勝手にやったんだ。俺は被害者なんだ……



「城まで送ってやる。フローラ、ここは任せたぞ! 私は城門前に配備した三班と合流する!」


「はい、お気をつけて……。フレムくんも無理はしちゃ駄目よ?」



 ラウレル卿は建物から出てきたメインシュガー家のメイド長、フローラさんにそう指示すると、先程の衝撃で建物にめり込んでいる動力車に乗り込んだ。

 どうやら俺の懸念している事には触れないでいてくれるようだ。

 まるで母親のように心配してくれるフローラさんには申し訳ないが、無茶をさせられそうなので答えに困る。



「え、ええ……、もちろん無茶はしませんが……。そこまでしなくてもここから見える城くらい……」


「無理だ。お前が先頭を走る以上辿り着けん」



 なんとか追及を免れたい俺は同行を拒否するがラウレル卿に一蹴された。

 イリスパパ酷くない? 俺だってここから見える建物くらい辿り着けますよ?

 ともあれ、走るのもいい加減疲れたし……。そもそも自分の足で向かっている以上俺はどこかで諦めて逃げ出す気がしたので、退路を絶つためにも御言葉に甘えて送ってもらうことにした。



「フレ……ム……、いつ……まで……」


「はっ! 悪いハミル!」



 どこからか聞こえる恨みがましいユガケの声で、俺はハミルと密着し続けていた事に気付く。

 とは言え俺だけ離れようとしても、ハミルが離れない事には意味がない気もするが……



「おにーさん。多分ユガケが言おうとしたのは……」



 ハミルは抱き付いたまま、ちょいちょいと俺の右手を指差す。

 俺の右手にはグッタリしたユガケの頭が収まっていた。

 吹き飛ばされた際、咄嗟に掴んで握り締めていたようだ。

 俺は全力でユガケにごめんなさいをし、皆で動力車に乗り込んだ。



「しっかり捕まっていろよ……。大丈夫だ、酔う暇など……与えない!」



 ラウレル卿の頼もしい発言に一抹の不安を抱き、血走る瞳に恐怖を覚える。

 笑みを溢すこの男も中々の機械マニアなので、動力車の操縦には暴走の危険が伴うのだ。

 俺は色んな事への祈りを捧げつつ、一路リヴィアータ城へと向かう。



 ーーーーーーーーーー



 リヴィアータ城一階応接間。

 エトワール、ロザリー、ミルスの三名は突然浸入してきた敵の襲撃にあっていた。

 それは一体の女魔神と、美しい男性の姿をした六体の天使兵器。

 だがエトワールは目の前の敵など意に介さず、地響きと城内に現れた不穏な気配が気になっていた。



「この揺れと魔力は……」


「エトワール様、そんな事より依然ピンチですよ!?」



 エトワールの張った結界内で手の平サイズのロザリーが不安を溢す。

 ミルスも小さな身体を震わせてエトワールにしがみついていた。



「困りましたね……。状況が掴めない以上こちらから仕掛けるのは控えたいのですが……」



 エトワールは静かに思い悩む。

 攻防一体の魔導書エクレールアルクスがある以上、この程度の相手なら難なく撃破出来るのだが、生来エトワールは攻撃に向いていない。

 セリオスの指示なく動く事に躊躇しているのだ。



「くそ! 困ってるようには見えないわ! こんな強力な魔道士が居るなんて予想外よ!」



 あくまでも冷静なエトワールに憤りを募らせる女魔神。

 膠着状態が続くかと思いきや、その均衡はすぐに崩れた。

 入り口のドアが弾け飛び、応接間に一陣の風が吹いたその瞬間。

 後方に控えていた男性天使の胸から人の手が生えていた。



「はい、まず一体~」


「なに!?」



 緊迫感のないのんびりした声が響き、女魔神は驚愕の声を上げる。

 メイド服を纏った美しい少女が、天使兵器の背中から腕を突き入れていたのだ。

 心臓部を貫かれ、少女の腕からズルリと滑り落ちる天使兵器の男。



「ふむふむ、中級魔神と第八級天使兵器アンヘルアルマですか。これは相手になりませんね~」



 言うが早いか、メイド少女は爪先で華麗に一回転。

 目にも止まらぬ早業にて、左右に居た天使の首を手刀にて切り落とす。



「アーセルム王国とアズデウス公国のお客様ですね? 私は皇帝陛下お付きのメイド、リリスと申します。大変遅くなり申し訳ありません。退路は確保致しましたので、この場よりお逃げ下さいませ」



 三体の天使を瞬殺したリリスは囲まれているにも関わらず、エトワール達に向かってスカートの裾を軽く両手で摘まみ、重心を落としながら一礼した。

 その姿にみるみる顔を歪め憤慨する女魔神。



「余裕のつもりか!」


「余裕のつもりですが? 私を仕留めるなら最低でも第五級天使兵器デュナミス数体は用意して頂かないと……」



 怒声を上げる魔神に冷ややかに笑いかけるリリス。

 第六級とはいえ、長い時を経験と共に歩んだリリスは格上の五級天使にさえ負けない自信があったのだ。



「エトワール様! 御言葉に甘えましょう! 私正直震え止まりません! 安全だと思って着いてきたのに……」


「分かりました……、申し訳ありません。リリス様、御武運を」



 ロザリーは必死にエトワールの首元にすがり付き、ミルスは声も出せないくらい怯えてエトワールのスカートに顔を埋めている。

 エトワールは一言添えてリリスに一礼すると結界を維持したまま、部屋の隅を通り扉を出た。



「しかし何故魔神が一緒にいるのでしょうか? それにあの魔道士さんの顔、どこかで……」


「油断し過ぎよ!」



 指を顎に当てて考え込むリリスに右腕を突き出す女魔神。

 その手の平に魔方陣が構築される。至近距離からの魔術攻撃である。

 だがその魔術が発動する事はなかった。

 突き出した魔神の右手首は、陣が現れた瞬間に床に落ちたのだ。



「え? ひ! ひぃぃぃ!」


「あれ? 今のは落とせって意味ですよね? 近接特化の第六級天使兵器エクスシア相手に近付いて魔術行使なんて……、笑わせますねぇ」



 超速の手刀で切り落とされていた女魔神の右腕。

 怯える魔神に笑顔を向けたリリスはスカートをなびかせ、周囲に居る天使の始末を開始した。

 振りかぶった拳に全体重とスピードを乗せ、天使の顔面を割り壁に叩き付ける。

 切りかかって来た天使はその剣の先を摘まみ、いなしながら回し蹴りで腹部に風穴を空けた。

 最後に魔術行使を始めた天使の目の前に瞬時に移動し、その口に抜き手を突き入れ下顎から上を抉り飛ばす。



「はい、これで六体目ですね~。逃げ帰りますか~?」


「は、ははは……そうね……」



 血塗れでのほほんと問い掛けるリリスに引きつった笑顔の女魔神。

 次の瞬間、腹部に穴の空いた男性天使がリリスを羽交い締めにした。



「お前を始末したらな!」



 女魔神は言い放ち一瞬の隙を突き、リリスの口をその唇で塞いだ。

 ピチャリビチャリと舌を這わせ、魔神の舌はリリスの喉の奥に入り込んでいく。

 口を離した女魔神は狂喜の笑顔をその顔に張り付けたまま、糸の切れた人形のようにその場に倒れ灰と消えた。



「あ……くあ……」



 嗚咽を洩らすリリスの喉に入り込んでいく魔神の核、ヴァンパイアシード。

 その根はリリスの身体を着実に侵食していく。



「き……、キャァァァァァァ!」



 リリスの口から絶叫が木霊し、その身体から瘴気が噴出する。

 背後の天使兵器はその瘴気に当てられ力尽き、部屋に残っているのはリリスただ一人であった。

 静寂の中ペロリと舌で唇を拭うリリス。恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくりとした足取りで部屋をあとにする。



 ーーーーーーーーーー



 リヴィアータ城地下施設。

 サンダルフォンが破った天井より落り立ったシュテンもまた、ドミニオンが撃墜された事に気付き驚きを感じていた。



「かかか……、よもやここに至って闘竜眼が覚醒するとはな。守護の玉室神器がこれ程の力を放とうとは……。主らを始末したらやはり、ワシがいただきに行くかのぅ?」



 シュテンは手に持つ刀の刀身を肩に乗せ、シャルディアを横目で一瞥しながら言い放つ。

 その不敵な笑みを浮かべるシュテンの背後には、両腕、方翼、片足がもげ、バチバチと放電するサンダルフォン。


 シャルディアの傍らには頭から血を流し倒れているボルト。丸い繭から解放され、所々白い糸が絡まったミコトを抱えうずくまるフォルテもいた。

 落下するフォルテ達を上手く空中で掴む事が出来たシャルディアであったが、それでもスムーズな着地には至らなかったのである。

 上位魔神と神器の戦いに参戦する事も出来ず、シャルディア達はサンダルフォンの機体が斬り落とされて行く様を見続けていたのだ。



「あの女も役に立たぬな。クズ掃除も出来ぬとは……。どうせならあの場に居たアドラメレクのお気に入りが落ちてくればまだ楽しめたものを……。ふむ、少し小腹が空いたの……。どれ、せっかく持ってきてくれたのだ。馳走になろうかのぅ」



 下卑た笑みを浮かべるシュテンは、フォルテに抱かれたミコトを見据え歩を進めた。

 身体をビクリと震わせたフォルテはミコトをボルトの横に寝かし、意を決して立ち上がる。



「ふざ……けんな……。ふざけんな!」



 震える体を押し、フォルテは腰の剣を抜いてシュテンに切り掛かった。

 しかしフォルテの剣はシュテンが戯れに放った斬擊一つであっさりと折れ、フォルテはヨタヨタと後退りしてしまう。



「小物が……。主に興味などないというに。せめて獲物くらいはな、先程の並々ならぬ覇気を纏った男の剣くらいの上物は用意してもらいたいものよ……。ぬ?」



 溜め息混じりに吐き捨てるシュテンは、ここで異様な気配に気付く。

 見るとシャルディアが魔導書を開き、そこから莫大な魔力が溢れ出していた。



「使いたくはありませんでしたが……。貴方を野放しには出来ません。私も、娘を持つ母親。黙って見過ごせるはずがありません!」


「お前に興味がなかろうと……。俺は、人が……苦しむのを……死んでいくのを……見たくねぇんだよ!」



 魔力迸るシャルディアに続き、フォルテの戦意も挫けてはいない。

 その覚悟に呼応するように、フォルテの懐からも魔力を伴った光りが漏れ出していた。



「かかか……、世界中から神器や魔導器を集める事が目的の一つと聞いていたが……。ようも集まったものよ……。千魔の書、伏魔殿ふくまでん。そして黒天狗の卵か……。ワシに縁のある物ばかりじゃな……。良いぞ、まとめて食ろうてくれるわ!」



 刀を肩から下ろすシュテンが恍惚の笑みを浮かべて瘴気を放つ。

 シャルディアとフォルテを価値ある獲物であると認識し、改めて戦意を向けたのである。



 ーーーーーーーーーー



 リヴィアータ城上層にある玉座の間。

 驚愕するバエルは落ち行くドミニオンを見送り、船が城にぶつかり地響きが収まった後セリオスに視線を戻した。



「大したものだなセリオス、ここまでの策を用意していたとはな……」



 ドミニオン一隻を失なうも、セリオスの知略に感嘆の意を示すバエル。

 だがセリオスは窓を見つめ、眉をしかめて絶句しているようだった。



「お前の策ではないのか!?」


「あ、ああ……、いや、想定外ではあるが結果は同じだ。問題ない」



 バエルの問い掛けに不思議そうに窓の外を見入っていたセリオスは我に返り、場を取り繕った。

 奇妙な間を置き、改めて視線を交わすセリオスとバエル。



「まあいい。それで、私の存在にはいつ気付いた?」


「大した事ではあるまい。ガルドの言を信じるなら、お前は人の敵意に反応出来るのだろう? ならばあの時、砂煙ごときで私とシリルを見失ったあげく、その太刀を受けるなどありえまい? 第二級天使の行動にも疑問が残る。屋敷を囲む程の広範囲に攻撃を仕掛ける意味がない。あれは明らかに我々を取り囲んで居た天使達、その外を狙ったものだ」



 気を取り直したバエルは改めて話を戻し、セリオスは推測を含め、自らの考察を語った。

 セリオスはバエル程の魔神をあの場で倒せたとはとても思えなかったのだ。



「なるほど、完全に仮死状態を演出出来たと思ったが……。その前から疑われていたか……。確かにあの女には気付かれていたようだな。記憶だけの偽物とはいえ、ルーアめ……。いつまでも邪魔な女よ……」


「付け加えるならば、色々と調べさせてもらったがな。お前の今の姿、変容した姿、共にかつて存在し、すでに絶えた者の姿……。お前の能力は他者の姿を写し取るものだな?」



 セリオスは崩壊させたゼラムル教団支部の内部情報をかき集め、バエルの正体を探っていた。

 資料や信者から得た情報を照合すると、バエルの風貌は近年まで牧師をしていたまごうことなき人間であり、変容した姿は別の魔神ですでに討伐済み。

 数々の情報から導き出した推論。

 堂々と姿を見せ、正体は掴ませない。それだけの力を持ち自由に動ける者。

 仮にこのバエルがゼラムル教団のトップなら、必ず乗り込んでくるとセリオスは睨んでいた。



「他の幹部は不明、調べてお前の名だけが上がる事がまず不自然だな。その名すら偽りだと私は睨んでいる。どうかな? 数百年の間、世界を渡り歩きし災厄、死を運ぶ自己の幻影……、ドッペルゲンガーよ」


「憶測にしては饒舌よな。正しくその通りだ、だが一つだけ訂正しておこう。私は二千年の時を生きている。我が名はアドラメレク。時には神と、時には魔王と称されし者……。ゼラムル教団の首魁にして魔神の長。だが残念だ、私を殺す方法だったな? 知らぬものは答えようがない……」



 セリオスの問いに臆することなく答えるアドラメレク。

 一度邂逅すれば命は無い。自らと同じ姿形をした魔物。

 いつの時代も空想と呼ばれ、歴史の闇に溶け消える逸話。

 多くの忌み名を持つ伝説の災厄の一つ、それが人の世に交わろうと姿を現したのだ。

 ここまで調べ上げ推察しても、セリオスにはアドラメレクの討伐方法が見付からなかった。

 天使ルーアの魔術を受けた後、どう消えたのかが分からなかったのだ。

 生きている可能性すら五分五分と考えていた。

 アドラメレクは玉座から立ち上がると瘴気にくるまり、その姿が樹海に向かったルーアのものへと変わる。



「そして順序が逆だセリオス。質問するならば、まずは同盟の話からだろう? 私はお前を高く評価している。お前ならば、この世界の表を支配する権利を渡しても良い」


「ほう……、光栄だな。つまりそれは、私にエサを管理せよと言う話ではないのかな?」



 アドラメレクは少女の声にて、あくまでもセリオスを勧誘しようと試みていた。

 セリオスは今の現状にて、その言葉に偽りがなさそうな事に奇妙な違和感を覚えている。



「かいつまめばそう言うことだ。不必要に増えた要らぬ人間の間引きと考えても良い。そちらにとっても好都合だろう? このまま争っても万単位の人が死ぬ。考えるまでもあるまい?」


「確かに。裏で暗躍する者と手を組めば国政をより良く回せるだろうな。互いに利益がある間は信用できる。何よりお前は融通が利きそうだ。ここまで人知れず暗躍してきたのだ……。不要な野心もないのだろう。かつての私なら……、恐らくその案に乗っていたやもしれん……」



 アドラメレクの提案に魅力はあると感じたセリオス。

 例えばすぐに救えぬ貧しい村があれば、間引きすれば助かる命もあるだろう。

 あるいは犯罪を犯した者などを始末させて良い。

 アドラメレクの行動にいまだ数々の疑問があるとはいえ、最小の犠牲を持って今、世界を一つにまとめられる可能性すら示唆しているのだ。



「どうやら……、私は単純な計算すら出来なくなったようだ……。一と万を天秤に掛け、それがどちらに傾くか計りかねている。私の思考は全てを守る道を模索し続けるのだ……。悪いが、私は愚策を選ぶ。この道を、違えるつもりはない……」


「無益な……。いずれお前にはヴァンパイアシードを与えても良いとさえ思っているのだがな……。お前なら私をも凌ぐ魔王になれるだろうに……。ならばまず、お前の理想を砕いてやる。決断を遅らせた事で死に行く者共を目に焼き付けろ。そして、私と共に新たな歴史を築こうではないか!」



 決意と共に戦意を放ち剣を構えるセリオスに対し、瘴気を漆黒の槍に変えてその手に構えるルーアの姿を模したアドラメレク。

 人と魔の頂点に立つ二名が、今にも口火を切らんと火花を散らす。

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